「女女格差」と「男男格差」
10月 31日付の毎日新聞夕刊で、上野千鶴子氏が「フェミニズムはどこへ向かうのか?」という文章を書いておられる。
"ネオリベの下で広がる「女女格差」/男に有利な社会は変わっていない" という見出しだ。フェミニズムの新思潮は、同性の中に新たな「敵」を見出すことのようにさえ見える。
上野氏は、今回の総選挙で女性国会議員が史上最多の 43人に達したことを挙げ、「わたしたちはこれをもって、自民党が『女にやさしい』政党に変身した、と解釈していいのだろうか?」と疑問を投げかけている。
聞くだけ野暮である。そんなはず、ないではないか。
当然それがわかっているから、上野氏自身、「女ならだれでもいいのか? 今度の選挙ほど、この古くからある陳腐な問いが、新たな意味をもったことはない」と重ねて述べている。この「陳腐な問い」が、そんなに「古くからある」とは知らなかったが。
この問いにも、同じ答えを繰り返すほかない。「聞くだけ野暮である。そんなはず、ないではないか」 と。「男ならだれでもいい」というわけないのと同じである。
上野氏はさらに次のように述べている。
ネオリベのもとで拡大する格差に、女もまた巻きこまれている。男女格差だけでなく、女女格差が拡大し、「勝ち組」のなかに参入する女性が増えるいっぽうで、「負け組」の女は「自己責任」とされる。
皮肉なことに、上野氏の指摘する 「女の中の "勝ち組"」 として 「少子化・男女共同参画担当相」 に就任した猪口邦子氏は、先月中頃の外国人記者クラブでの記者会見で、 "Mr. Koizumi is the most gender-minded prime minister." (ANN の翻訳字幕では 「小泉総理は男女差別の意識のない人です」 )と言い放ち、外国人記者は、その発言にどっと湧いていた。(参照)
この外国人記者団のどっと湧いた笑いの中でも、最もシニカルな笑いに、上野氏は同調しているようにみえる。「勝ち組」のいう "gender-minded" という要素など、信じるに足りないことのようなのである。
ここでは、"「自己責任」とされる「負け組」は、女だけではない" という、当たり前すぎて言うまでもない事実を、敢えて言っておこう。「男男格差」だって相当のもので、男であるからというだけで「有利」というほど、世の中は単純に甘くない。
もう一つ付け加えるとすれば、上野氏はこの文章の末尾に近いところで 「女が家族の外でも、ひとりで安心して子どもを産み育てることができる社会を」と述べておられるが、「女はひとりで安心して」も、私には、子どもが本当に安心して育つかという視点が抜け落ちている点で、一方的な言い方のように感じられる。
ここから先の議論は、私ははっきり言って腰が引けている。というか、リスク覚悟でまともに切り込むほどの意義を見いだせないでいる。
【平成 19年 6月 21日 追記】
「女女格差」 ということばが、1年半も経ってから AERA の記事のせいで、にわかに生き返ってしまったようだ。その件については、こちら。
| 固定リンク
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- トランプと旧統一教会分派、そして日本の自民党(2024.11.02)
- 「ゴミ」と「ケツの穴」のどっちがヒドい?(2024.11.01)
- 「利権で動く裏政治」の構造が風化しつつあるようだ(2024.10.28)
- 世界はきな臭いが、米国と日本が踏ん張らなければ(2024.10.01)
コメント
これでは上野千鶴子、田嶋陽子と変わりませんね。
投稿: alex99 | 2005年11月 7日 07:57
alex さん:
あまりテレビを見ない私にとって、大分前ですが、このお二人の区別が付かない時期がありました。恐縮の至り ^^;)
投稿: tak | 2005年11月 7日 11:08
この議論はもううんざりですね。
女 「女が家族の外でも、ひとりで安心して子どもを産み育てることができる社会を」
男 「ひとりで子供を育てるなんて出来ないんじゃない?」
女 「だからそれができる社会をつくるの!」
男 「具体的にはどのような?」
女 「知るか!お前らが考えろ!」
男 「・・・」
テレビで見る限り、いつもこんな感じですね。
投稿: hrk | 2005年11月 7日 16:07
>テレビで見る限り、いつもこんな感じですね。
私、テレビのいわゆる「討論番組」は、あまりの馬鹿馬鹿しさに見ないことにしてるんですが、そんな感じですか。はあ。
見ないでいてよかった。
投稿: tak | 2005年11月 7日 22:37