方言ブームと「もっけだ」の意味
どこの国の言葉でも、感謝を表す言葉は美しい。「ありがとう」は、日本語で最も美しい言葉の一つである。
さらに、「ありがとう」より美しい感謝の言葉として、私は庄内弁の「もっけだの」を挙げたいのである。「もっけだの」は、「ありがとう」以上に豊富なニュアンスを含んでいる。
今年の 1月 20日の当欄で、私は次のように書いている。
「もっけだの」は「ありがとう」である。道理のわからない余所者は、「庄内人は人に何かしてもらうと、すぐに『儲けた』
なんて、はしたないことを言う」などと言う人もあるが、これは決して「儲けた」の訛りではない。「もっけの幸い」の「もっけ」 であり、意味は「滅多にないこと」である。つまり、その心は「有り難い」と同じなのである。(ちなみに「儲けた」は「もげだ」 と訛るので、違いは明らかだ)
つまり、私は「もっけだの」(語尾の「の」は、共通語の「ね」とほぼ同じ)が「ありがとう」と同じであると書いたのだが、実際は、イコールではない。厳密に言えば少し違ったニュアンスがある。
確かに、庄内人は、人に感謝してお礼を言うとき、「あいや、もっけだちゃ、もっけだちゃ、本当で(本当に)、ありがどのぉ(ありがとうね)」なんて言うことがある。「もっけだ」と盛んに感謝を述べつつ、最後にまた「ありがとう とだめ押しをする。
「ありがとう」という言葉が、自分が主体となって相手に感謝の意を表すというニュアンスが強いのに対して、「もっけだ」は、あくまでも相手が主体で、まず相手側の「もっけ (希有)」であるところの好意を立てる。その好意に対するねぎらいという意味合いが勝っているのだ。
庄内人はまず第一に、「もっけだ、もっけだ」と言うことで言外に相手をねぎらい、その次に「ありがとう」を付け加えて感謝を表すという態度表明をするのだ。決してことさらな表現ではないが、なんと控えめで奥ゆかしいことであろう。
ちなみに、「もっけだ」には、もう一つ別の意味合いがあり、「済まない」という恐縮の意を述べる際に使われる。「あの時は済まなかったね」というような意味合いで、「あん時だば、もっけだけのぅ」と言うのである。
大変に恐縮する時には 「大(おお)もっけだけのぅ」 なんて言う。この場合も、「ごめんね」と、許しを請うているわけではなく、ただひたすらに、相手が堪えてくれたことや、好意でしてくれたことに対する恐縮と感謝の意を表しているのである。
かくも率直で、しかも我欲を表に出すことをよしとしない高貴な文化の土地に生まれ育ったことを、私は誇りとするものである。
近頃、方言がブームだという。共通語だけでは表しきれない陰影に富んだニュアンスを伝えることで、日本語がより深く豊かになるのであれば、それはいいことだと思っている。
【平成 22年 5月 15日 追記】
「もっけだの」 の最もふさわしい訳は、「ありがとう」よりも「恐縮です」かもしれないと気付いた。
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コメント
「もっけだの」は山形弁で「ありがとう」どいう意味です。
投稿: akira | 2011年9月20日 22:07
akira さん:
>「もっけだの」は山形弁で「ありがとう」どいう意味です。
厳密に言うと、「山形弁」 というのは存在せず、村山弁のことを便宜的に山形弁ということがあります。
村山辺りで 「ありがとう」 という意味で 「もっけだ」 と言うのを、少なくとも私は聞いたことがありません。
投稿: tak | 2011年9月21日 13:19