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2005年12月 8日

「爪切り」の比較文化

昨日は「仏の悟り」なんていう広大無辺なテーマを書いたせいで、ちょっと疲れてしまったので、今日はとても些細なテーマである。

某所で「シナプス」についてちょっとだけ論じたところ、それについて 以前に書いたコラム をきっかけに、「日米の爪切りの違い」ということを思い出してしまったのである。

「爪切り」 は英語で "nail clipper" という。もっとも、鋏形式のものは複数形で "nail clippers" というのだが、あの、てこの原理を応用した形のモノは、単数形でいいようだ。

一昨年の夏、その "nail clipper" を米国のドラッグストアで買った時のことである。ニューヨークのごく普通の規模の(ということは、日本的発想からは「かなり大型」の)ドラッグストアの売り場には、3種類の "nail clipper" があったのだが、どれもみな、爪の飛び散るのを防ぐサイドカバーが付いていないのだった。

日本で爪切りを買ったら、今どきよっぽどの安物でない限り、サイドカバー付きでない方が珍しい。米国人は何しろ大雑把だから、切った爪が部屋中に飛び散ったところで、あまり気にしないのだろうと思ったわけである。

さらに、ライフスタイルの違いがある。

日本の家屋は靴を脱いで上がるので、畳や床に飛び散ったものは、小さなものでも気になってしまう。しかし、靴のまま部屋まで入る米国では、切った爪程度なら無視できる。後で掃除の時に、他の小さな塵と一緒に掃除機で吸い取ってしまえばいい。

それにいくら米国でもサイドカバー付きの "nail clipper" がないわけではないようなのだ。しかしそうした商品は、ごく一般的というより、ちょっとした「アイデア商品」扱いに近いようなのである。

例えば、"Nail Clipper with Grip Handle" (取っ手付き爪切り)というものがある。わざわざ 「切った爪が飛び散らないように "ネイル・キャッチャー" 兼用の取っ手を付けた」みたいな説明があり、何と、メーカーは "Seki" という日本の企業ではないか。

さすが、蛇の道は蛇である。その「取っ手」というのがちょっとだけ大げさなのが笑えるが、こんなのが通販で 19ドル 95セント(2000円以上)もする。

同じアイデア商品でも、"Table Top Finger Nail Clipper" というのは、机の上にどっかと置いて、おもむろに爪を切るという、冗談みたいなタイプだ。値段は 10ドル 95セント。日本なら、こんなものに 1000円以上も出すアホはいない。話のタネにというなら別だが。

この商品、写真で見ると本体がベースに半分ほど埋め込まれているが、きっちりと覆われているわけではない。爪の飛び散り方は減るだろうが、皆無とはいかないだろう。米国人というのは、よっぽど大雑把である。床ならまだわかるが、テーブルの上に爪が飛び散っても平気のようだ。

同じタイプでも、英国製の "Nail Clipper Board" は、28ドル 52セントもするだけに、ちょっと高級感がある(ような気がする)。しかし、こんなに高くても、やはりサイドカバーがなく本体むき出しで、とことん大雑把だ。いくら米国でも、3000円以上も出してこんなもの買う人がいるんだろうか?

こうした商品を眺めていると、米国人は気質が大雑把な上に、手先が不器用なんじゃないかと思う。よっぽどの不器用じゃなかったら、たかが爪を切るぐらいのことで、据え置きのテーブルトップ・タイプなんか使うという発想すら湧かない。

そしてそれほどまでに不器用なので、 "Seki" の商品のサイドカバーは、あれほどまでに大げさな取っ手タイプになったのだろう。ちまちまっとしたサイドカバー付きでは、米国人の無骨な手にはしっくり来ないということが、マーケット・リサーチでわかったのかもしれない。

(12月23日追記: このほど実家に帰ったら、この "Seki" の爪切りがあった。なんと、ものすごく切れ味がいい。爪切りの世界ではちっとは名の知られたメーカーらしい。もしかしたら、「関の孫六」 の伝統を引いたメーカーか)

「たかが爪切り、されど爪切り」 である。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」 へもどうぞ

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コメント

>・・・米国人は、気質が大雑把な上に、手先が不器用なんじゃないかと思う。よっぽどの不器用じゃなかったら、たかが爪を切るぐらいのことで、据え置きのテーブルトップ・タイプなんか使うという発想すら湧かない・・・

福祉関連の仕事をしている者です。
日本でも売られていますよ。
ただ一般的には身体的に障害のある方の「自助具(福祉的な便利な道具)」として販売されています。
具体的には筋力低下により空中で爪切りを保持できない方、半身に麻痺のある方、それから手に震えがある方などです。
米国ではそれがユニバーサルデザインとしても高齢者を中心に流通しているのではないでしょうか。

例えば
http://www.f-shakyo.or.jp/kaigo/you/jijo24.html
http://lento.at.webry.info/200511/article_5.html

投稿: とり | 2006年4月10日 15:53

とりさん:

貴重な情報、ありがとうございました。
なるほど、ユニバーサルデザインということなら、かなり理解できます。

投稿: tak | 2006年4月11日 11:25

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