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2006年1月15日

トイレの蓋はジェンダーフリー

「ベンザブロック」 という風邪薬がある。このベンザシリーズの歴史は古く、Wikipedia によると、高度成長期前夜の 1955年から販売されていることになっている。(参照

さもあらん。洋式便器が普及して以後だったら、風邪薬に「ベンザ」なんて名前を付けようとは、誰も思わなかっただろう。

感冒薬のベストセラー、「ベンザ」が産声を上げた年、日本には素朴な活気が満ちていた。その頃、ほとんどの家のトイレには和式の男性用小便器と大便器があり、「ベンザ」と聞いて「便座」という熟語を思い浮かべる人なんて、誰もいなかった。

いつ頃からだったろうか、日本の住宅から男性用小便器が消え始めたのは。昭和 40年代前半に東京の団地に住んでいた親戚の家には、既に和式の男女兼用便器しかなかった。あの、トイレの床に段差があって、男の小用は、フロア下段に立ってするタイプである。

そして、今どきのトイレは、洋式に席巻されてしまっている。そして、遂に感冒薬「ベンザ」は、「ベンザエース」とか「ベンザブロック」とかいうサブブランドにしないと、妙な連想を呼びかねないという、想定外の事態になってしまった。

日本の「素朴な活気」の時代は、終わって久しいのである。

何でこんなことを書いているかというと、当ブログの昨年 12月 29日のエントリー「男の座り小便」が、思いがけない反響を呼んでしまったからである。

私が 「男の座り小便」 という妻の提案を受け入れたことに関して、banan さんが女性の立場から肯定的なコメントを寄せてくれた。

しかしその後、garaika さんから、男性用小便器を介した 「立ち」 文化をすたれさせてはならないとのコメントがあり、さらに、まるさん から、男性機能の低下の1つの要因に「座り小便」があるとの情報とともに、「あるじを尊重する心は、あるじがつかうものを尊重することで表現される」との、garaika さんの文化論に通じるご意見をいただいた。

これに対して、banan さんは、「男性が家で小用を足す時間なんて会社その他で外に居る時間に比べたら本当に少ない」と、男性機能低下という問題に関する、現実論に立脚した反論も寄せられた。

煎じ詰めれば、これは「便器を汚さないためには座り小便がいい」という視点と、「立ってする男の小便は、それ自体、文化である」という視点との衝突である。

この問題にきっぱりとした結論を下すだけの材料を、私は持ち合わせていない。だからどっち付かずである。ただ、マチョイズムとフェミニズムの対決という、ありがちな構図だけは避けたい。

以前、誰だか忘れたがフェミニズム系女性評論家(いずれにしても、上野、田嶋両女史のうちのどちらかだったと思う)の、トイレをみれば、その家庭が家父長的かそうでないかがわかるというような、新聞のほぼ一面を埋める文章を読んだことがある。

くどくどした部分を省いて手短に言えば、便座が上がって、男の小用がしやすいような形がデフォルトになっているのが家父長的家庭のトイレで、便座の降りているのが、ごく普通かフェミニズム的家庭のトイレだというのである。

だが、それって、穿ちすぎじゃないか? 単に最後にトイレを使った人の形跡が残っているだけだったりするんじゃないか? それに、洋式トイレで、ただでさえ男の小便がないがしろにされているのだから、せめて便座ぐらい上げといてくれという、切ない願いという解釈だってできるんじゃないか?。

ちなみに、我が家のトイレ作法は、使い終えたらきちんと蓋まですることになっている。これなら、フェミニストが来ても妙な邪推はされないから安心だ。

そうか、私は「和式と洋式 − 便器の形の考察」というページで、"洋式便器の蓋は 「パーソナルな容器」(つまり、「おまる」)だった頃からの名残" で、"盲腸みたいなモノ" などと推論してしまったが、現代では、トイレのジェンダーをニュートラルに保つという新しい機能があるのだな。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」 へもどうぞ

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コメント

暫く前から(ほぼ)毎日読ませていただいている者です。
大変納得でき感服しきりでした。
証拠はなくとも間違いないという気がします。

投稿: 緑茶好き | 2006年1月15日 09:23

たしかスウェーデンだったと思いますが、フェミニズム団体が 「男性用小便器は、男らしさを見せつけることによって女性を卑しめるものである」 とか何とか言っていたような気がします。

支持はされなかったようですが、もうここまでくるとギャグとしか思えません。いや実際そうであってほしいものです。

投稿: hrk | 2006年1月15日 19:42

便器の蓋をするのは、少なくとも米国ではマナーです。

投稿: alex99 | 2006年1月15日 20:25

男の小便は立ち小便という公理?は、少なくともインド・パキスタン・アラブではなりたちません。
野外でも座ってやっています。

投稿: alex99 | 2006年1月15日 20:28

緑茶好き さん:

ご贔屓の程、ありがとうございます。
今後ともよろしく。

投稿: tak | 2006年1月15日 21:07

hrk さん:

>たしかスウェーデンだったと思いますが、フェミニズム団体が 「男性用小便器は、男らしさを見せつけることによって女性を卑しめるものである」 とか何とか言っていたような気がします。

そういうおばかな女には、
「いやーん、女のくせに、男性用トイレに入って来ないでよ、エッチ!」
と言ってあげましょう。

西欧、北欧のトイレは、男性用、女性用の区別がはっきりしてますから、男性用小便器は、女に見せつけるためのものではありませんよね。

投稿: tak | 2006年1月15日 21:11

alex さん:

>便器の蓋をするのは、少なくとも米国ではマナーです。

「少なくとも」 ですよね。普通は、蓋しますよね。
フェミニストは、便座だけ降ろして、蓋はするなとの主張のようです。

>男の小便は立ち小便という公理?は、少なくともインド・パキスタン・アラブではなりたちません。
>野外でも座ってやっています。

インド・パキスタン・アラブは、人口多いですよね。
男性機能の心配は、あまりしなくて良さそう。

投稿: tak | 2006年1月15日 21:14

インド・パキスタン・アラブでは、「座ってしている」と書きましたが、正確には「しゃがんで」でした。

投稿: alex99 | 2006年1月16日 09:39

alex さん:

>インド・パキスタン・アラブでは、「座ってしている」と書きましたが、正確には「しゃがんで」でした。

もちろん、そのように理解していましたので、大丈夫ですよ。

投稿: tak | 2006年1月16日 09:58

週末は、ベビー用品の買出しなどに追われていて日課であるtakさんのサイトを見に来られなかったのですが。話題になっていて、焦ってしまいました。が、本文において集まったコメントの切り分けをサラッとして頂いて、いつもながら頭の中がスッキリ整理されました。ありがとうございます。
さて、当方、現在ハンガリーに住んでいますが、公衆トイレでは汚れた便座に座るのがいやで、中腰(空気イス)で用を足す女性が多いらしく、フタよりなにより便座が上がっていることは珍しくありません。新時代到来です。筋力の無い私に真似は出来ません。が、知人の外国暮らしの長い日本人女性は「中腰」派で短時間で用を足せます。紙で簡易カバーをこしらえてから・・・の私などは待たせてしまい恐縮します。話それてますけど、個人的に中腰マスターしたいです。^-^;そうすれば、一挙解決、ジェンダーフリー?

投稿: banan | 2006年1月16日 21:34

いやはや、取り上げていただいて光栄です。
便器の蓋については
・ 蓋を閉めることは暖房便座の節電効果がある
・ 開けたままだと家の中の湿気が高まり、結露しやすくなる
・ 開けていると金運が出て行くという風水
というようなことがあり、ジェンダー問題以外でも基本的には閉めた状態をデフォルトにしておいた方がよさそうです。現代の家族の中では相対的に家父長的傾向があるであろう我が家でも閉めるのがデフォルトです。ただ、そう言えるのも小便器があるおかげかも。

フェミニズムとかいう恐ろしげなものに対抗するほどのタフな性根は持ち合わせておりませんが、さすがにスウェーデンの団体には口あんぐりです。トイレの便器の違いがジェンダー問題だとすると、その解決の行き着くところは公衆便所はすべて洋式便器にして男女共用にしていいことになってしまいます。
まあ、私の家では(家族で私だけかもしれないが)小便器を男の存在感を示すシンボルと位置づけていたりしますので、ジェンダーと言われてしょうがなかったりするのですが…。対比物として引き合いに出した女性用のドレッサーも同様にジェンダーなモノと考えれば、(少なくともモノの存在という面では)お互い1点ずつで不公平感はないのでは、というような言い訳は用意いたしております。
妄想を広げますと、便器の区別や行為の姿勢をジェンダーと考えると色気もへったくれもないわけでして、違いがあるほうが色気を感じます。やっぱりジェンダーではなく、「セックス(性別)」の文化の問題として考えたがる自分に気がついたり…。
ついでに私の親戚のヘンな例も紹介しておきます。最近新築した家なんですが、洋式便器が2つ、部屋を別にして隣り合わせで設置してありました。理由を聞くと男女別の便所だそうです。男性用は蓋と便座が開いているのをデフォルトに、女性用は、蓋はともかく便座を下ろしているのがデフォルト。これは一見ジェンダーをクリアしているようにみえますが、掃除は女性陣にまかせきりだったりする。わけがわからなくなってくる。

しかし、男がしゃがんでする文化圏があることは勉強になりました。まさに「知」を得た思いです。私は「しゃがむ」と「座る(腰掛ける)」では使う筋肉が違うと思うのですが、男性機能に違いは生じるのか、ちょっぴり興味があります。

投稿: garaika | 2006年1月16日 21:48

ではついでに言いますが、東京オリンピックでは国立競技場に女性用の立ち小便用のコーナーがありました。
競技者としても、男性顔負けの女子砲丸投げのタマラ・プレス(ソ連)や女子競泳のフレーザー(オーストラリア)などがいましたからピッタリの感じです。
このコーナーは女性競技者が急いで小便が出来るようにとの配慮だったそうです。

私は都会者ですから直接は知らないのですが、田舎では農家の主婦などは畑で立ち小便すると聞いたことがあります。

投稿: alex99 | 2006年1月16日 22:04

garaika さん:

>これは一見ジェンダーをクリアしているようにみえますが、掃除は女性陣にまかせきりだったりする。わけがわからなくなってくる。

うぅむ。これは奥が深いですね。
「トイレ掃除なんかは、女にやらすもんじゃ! 」文化と、
「男のトイレは、男が掃除しろ!」 文化の対決というべきか。

投稿: tak | 2006年1月16日 22:39

>東京オリンピックでは国立競技場に女性用の立ち小便用のコーナーがありました。

これは、一部では有名な話ですね。
でも、本当に需要があったのかどうかは、知りません。

>私は都会者ですから直接は知らないのですが、田舎では農家の主婦などは畑で立ち小便すると聞いたことがあります。

私は田舎者ですから、実は、見慣れた風景だったりします。
(さすがに、今は皆無ですが)

もんぺをはいた農家の主婦は、そのままではできませんが、単に着物の下は腰巻きだけという婆さんは、それはそれは器用に立ちション (?) をしてました。

男の立ちションとはちょっと違い、ちょっと前屈みで、気持ち膝を曲げて腰を落とすような感じで、全然さりげなくやってましたよ。

立ち去った後におしっこの後があるので、それと気付くというぐらいに、自然な行為でした。

投稿: tak | 2006年1月16日 22:45

banan さん:

「中腰」 文化は、世界中で普及しているみたいですね。「男の座り小便」 どころではないかもしれません。

昔のばあさんの 「中腰立ちション」 への回帰現象と言ったら ・・・ 言い過ぎでしょうね、やっぱり。

投稿: tak | 2006年1月16日 23:39

書き込みして、夕食の買い物にでて戻ったらこの回転!すごい!(御挨拶おくれましたが4周年おめでとうございます。)
中腰でお茶を濁してみましたが、ぶっちゃけ、「自分もつかう場所だから」と思って、したと気づかれないほど目立たない掃除を(匂いの素になるのでサッと)している奥さん側からすると「家にいる時間が超短い」のに「もうかい?」という早さで汚れを発見する虚しさのようなものがありまして。まぁ、この辺はジェンダー云々より、より「個」で「夫婦」な問題で・・・。しかし、すごい盛況・・・でビックリ。喋りすぎたので、そろそろ消えますね。ではでは。

投稿: banan | 2006年1月16日 23:58

トイレがらみで。

昔のインドネシアの高級ホテルでは、水洗便器の使用法が壁にイラストで貼ってありました。
そのイラストから推測すると、どうも当時のインドネシア人は、便器の上にしゃがんで排便をする人が多かったようです。

そのインドネシアで映画館のトイレに行ったら、トイレットペーパーが備え付けられておらず、水道の蛇口が片隅にあるだけでした。
ご存じかと思いますが、イスラム圏内では左手で水をすくって洗浄します。

同じく昔のクエートの旧空港でトイレには行ったら、床は水浸しで蛇口から伸びるホースが蛇のようにのたうっていました。

共に、座るべき便器はありませんでしたので、必然的にしゃがむことになります。


投稿: alex99 | 2006年1月17日 04:48

banan さん:

>まぁ、この辺はジェンダー云々より、より「個」で「夫婦」な問題で・・・。

なるほど、実感なんでしょうね。

取り敢えず、私は 「座りション」 以前にも、水のたまっているど真ん中に 「ジョボジョボ!」 とするのではなく、一番跳ね返りの少ないところ (ハエの絵は描いてませんが) をめがけてしてましたので、ご容赦ください。

投稿: tak | 2006年1月17日 17:28

alex さん:

>ご存じかと思いますが、イスラム圏内では左手で水をすくって洗浄します。

あの辺の人たちは、ズボンのお尻の部分が濡れていることがあると聞いたことがあります。

よ~く洗って、よく払わずにズボン上げちゃうのかな?

投稿: tak | 2006年1月17日 17:30

はじめまして、garaikaさんのところから来ました。
建築プロデューサーの朝妻義征と申します。

仕事は離れて、一個人としてコメントさせて頂きます。

問題は、朝起きて、『一番最初のとき』ではないでしょうか?

その時以外は、立っても座ってもその人の自由にしたらいいと思いますが、朝のヤツは、出来れば座ったほうが、自分も楽なのではないでしょうか。

もっとも、これは年齢や体調によっても、事情が変わってくるかもしれません。

(このコメントが、著しく『品がない』と判断したときには、削除してください。失礼いたしました)

投稿: 朝妻 | 2006年1月18日 09:46

朝妻さん、ようこそ。

予想外の反響に、驚いています。

>もっとも、これは年齢や体調によっても、事情が変わってくるかもしれません。

私も、昔は問題でしたが、今は、ベッドから抜け出せばすぐに解消しますので、楽なような、哀しいような ・・・ ^^;)

投稿: tak | 2006年1月18日 16:15

tak_shonaiさんおはようございます~
私はうれしい。
何故って
私の疑問が今朝、解消されたから。

ベンザ  という風邪薬は
何故便座という言葉に気がつかないのだろう・・

いつも思っていました。
「便座なんて名前の風邪薬は絶対飲んでやらないぞ」と
内心決めていました。
でも、
わかりました~~~~そういうことでしたのね?

ありがとうございました。

(記事と、関係ないようなコメントで
ごめんなさいね。)

ありがとうございました。


投稿: tokiko68 | 2010年9月27日 08:23

tokiko68 さん:

「ベンザ」の歴史はそれほどまでに長いということで (^o^)

投稿: tak | 2010年9月27日 17:42

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