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2006年1月20日

「けやき」の語源

日本を代表する広葉樹にケヤキ(欅)がある。日本植物学の父といわれる牧野富太郎博士は、自著 『牧野日本植物図鑑』に、"「けやけき木」− 顕著な木" というのがその語源だと記しているという。

学界の権威に楯突くのはおこがましいが、これについて、ちょっと疑問を述べたい。

(社)全国森林レクリエーション協会という団体が運営しているサイトにも、次のような解説がある (参照)。

材が強靱(きょうじん)で、狂いが少なく、木理(もくり)が美しく、長大な柱や板が得られるなど実用性が高い木です。名は、尊(とおとい)(ママ)とか秀でたという意味の「けやけき木」からついたといわれています。

「けやけし」という古語は確かにある。しかしそれを単純に「尊い」とか「秀でた」とかいう意味だとするのは、ちょっと疑問なのだ。

なにしろ上記のサイトは、日本語表記からして怪しい。「尊(とおとい)」との誤表記は、「尊(とうと)い」と添削しておく。本来は「尊(たふと)し」 だから、現代表記でも「とおとい」ではなく「とうとい」で、最後の「い」が送りがなである。

「けやけし」という語を、手持ちの三省堂『例解 古語辞典』で引くと、次のように説明されている。

けやけし <形ク 4.5> (原則として、悪い意味において普通ではなく、きわだっていて注意を引くような状態について用いられる) 特別だ。異様だ。特にきわだっている。ひどく目ざわり、耳ざわりだ。

どうも、元々はあまりいい意味ではなかったようなのだ。

Goo 辞書(三省堂提供「大辞林 第二版」)では、以下のようになっている。

けやけ・し

(形ク)
(1) 普通と違っている。尋常でない。異様だ。
「末代には、―・き寿もちて侍る翁なりかし/大鏡(昔物語)」
(2) 目に立つ。きわだっている。
「下文字―・く置きてしかるべく侍らん/去来抄」
(3) ひときわすぐれている。すばらしい。[日葡]
(4) はっきりしている。
「人の言ふほどの事―・く否びがたくて/徒然 141」

(2)の「目に立つ。きわだっている」という意味の用例は、「ことさらに目立つように書く」というようなことだろうし、(4)の「はっきりしている」という意味の用例も「遠慮会釈なく言い放つ」というようなことだ。いずれにしても、無条件にいい意味というわけではない。

(3) だけが単純に「ひときわすぐれている。すばらしい」という意味になっているが、これは、日葡辞書から引いたものらしいので、後世の使い方とみられる。

「凄い」という言葉の意味も、本来は「恐ろしい」とか「気味が悪い」とかいうものだったのが、現代では「すばらしい」という意味でも使われるようになったのだから、「けやけし」にも似たようなところがあったのだろう。

だからといって、ケヤキの語源が「尊い木、秀でた木という意味の " けやけき木"」から来たというのを、そのまま無条件に信じるのも、なんだかなあという気がする。

何で私がこんなことを疑問に思ったのかというと、23年前の引っ越し当初には、我が家の階段の踊り場からきれいに見えていた筑波山が、川向こうの家の庭のケヤキが大きく育って邪魔するものだから、近頃、とんと見えなくなってしまったからである。

それで、ケヤキというのは、目障りなほど大きな木 − 「けやけき木」という意味なんじゃないかという考えが、ふと浮かんでしまったのだ。(どんなに目障りかは、私の別ブログ "Wakalog" の画像を見ればわかる)

「全国有名仏壇店ネット」というサイトの 「お仏壇の材質 欅について」 というページには、次のようにある。

しかし国内各地にケヤという方言があるので、あるいは何か違った意味があるのかもしれない。

ただし、これは「けやない」で「大したことがない」という意味になることが多いので、「けやけし」と同根の言葉と見てもいいだろう。

同じページに、次の注目すべき記述もある。

またケヤキの名称は近代の言葉であって、古くはツキと称し万葉集にはすべてツキの名称で出ている。例えば高市黒人の歌で 「とく来ても見てましものを山城の高のつき群 (むら) ちりにけるかも」 などがある。現代でも和歌や俳句ではツキと呼ばれている方が多い。「吹流しすがしや観 (つき) と粒び立つ」 (秋桜子) といった句もある。

とすると、もしかしたら、この木が「ケヤキ」と呼ばれるようになったのは、「けやけし」という言葉に単純な良い意味が定着してからなのかもしれない。だとすると、あの世の牧野博士には 「とんだ言いがかりを付けて、ごめんなさい」と謝らなければならない。

でも、まだ確証はないから、軽々しくは謝らないでおくことにする。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」 へもどうぞ

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