「文明の衝突」 よりも 「経済の衝突」 だ
今回の「ムハンマド風刺画問題」は、一節には「文明の衝突」と言われていて、確かにそうした側面もあるにはあるが、最も大きいのは、やはり 「経済問題」 だと思うのだ。
ムスリムを擁護する立場の人は、異口同音に 「本来のイスラム教は暴力的ではなく、平和を愛する教え」 と強調している。
確かにそうなのだと思う。そんなに暴力的な宗教がこれほど世界的に広まるわけがない。ならば、どうしてこれほどまでに、暴力的抗議の渦が世界に広がっているのか? それは、湾岸産油国が典型的なのだが、イスラム社会における経済的な内部矛盾による不満の鬱積が大きいと思うのだ。
一般論として、人間は文明論的な軋轢ではあれほどまでに暴力的になることはない。歴史的な「宗教対立」と見えるものも、よく見れば本質的には「経済対立」であり、より率直にに言えば「欲望のぶつかり合い」である。今回の騒動も、やはりそう見るのが筋だろう。
私はイスラム圏に旅行したこともないし、ムスリムの知り合いがいるわけでもないから、その方面について知識が豊富なわけではない。しかし、中東諸国というのは矛盾に満ち満ちているらしいと、素人目にも直観する。
私のバックグラウンドの一つは、繊維業界ジャーナリストとしての経験である。私がこの業界に足を踏み入れた頃、世界はオイルショック直後で、オイルダラーが大きな顔して飛び交っていた。日本の合成繊維の最大の輸出先が、中東諸国という時代だったのである。
中東諸国が買い漁っていたのは、日本の合成繊維ばかりではない。何を隠そう、ヨーロッパのオートクチュールの最大の顧客も、中東の石油成金の(大勢の)妻たちだったのだ。
ここで、「あれ、どうして?」と思わない方がおかしい。あの、肌の露出度の大きいオートクチュール・ドレスが、どうして中東の女性に売れるのだ? イスラムでは、女性の肌の露出を厳しく諌めているはずではなかったか。
その回答はこういうことだそうだ。彼女らは、豪勢な自宅では大勢の召使いたちの手前、敬虔なイスラム教徒らしい服装に身を包んでいる。しかし、ひとたび自家用ジェットでモナコあたりの社交界に出かけると、御法度のはずのカクテルだって飲むし、肌も露わなオートクチュールでゴージャスに変身してしまう。
日本人は本音と建前の差が激しいなどと言われるが、中東に比べたらちゃんちゃらおかしい。可愛らしいぐらいのものである。逆に、日本人は本音と建前の意識的な使い分けがきちんとできない(要するに「開き直り」が下手)ので、これほどまでに外交下手なのだ。
湾岸産油国では、富が著しく偏在している。その富の源泉は、「掘れば出てくる石油」という、楽してたまたま所有している資源である。こんな「おいしい」財産は、他にない。
こうして、サウジアラビアの王族のように、石油利権を握った者だけが膨大な財産を手にし、国内では基本的にまともな生産活動を奨励していないので、若者たちは手に職もなく、ただ貧窮して街をうろつくだけとなる。
貧しい若者たちの「金寄こせ」の動きが、やはり金の欲しい宗教界と結びつき、独占された国内の富の黒幕である欧米資本を目の敵にして台頭したのが、イスラム原理主義という一面がある。
だから、今回の抗議行動から発した暴動の最大の要因は、「文明の衝突」というよりは「経済の衝突」であり、もっと具体的には、彼らの社会の内部矛盾、そして、その背後でせせら笑う欧米資本ということになるわけだ。
欧米対中東の関係は、「業の絡まり合い」みたいなもので、お互いが原理主義的に(昨日のエントリーで触れたように、ヨーロッパ側も「表現の自由原理主義」じみている)こだわり合っていては、どう見ても解決にはほど遠いのだ。
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コメント
「イスラム社会」といってしまうと誤解を招きます。
おっしゃているのは、湾岸産油国のことではありませんか。それでしたら確かに貧富の差は大きいです。
ただインドでもそれはありますし、アフリカでもあります。「イスラーム」だから、という誤解のもとになりますので。アジア・アフリカ・中南米、というほうが正しいでしょう。ウンマはどこにでもあります。アメリカにでも。
投稿: それはちょっと | 2006年2月 9日 03:59
それはちょっとさん:
>「イスラム社会」といってしまうと誤解を招きます。
おっしゃているのは、湾岸産油国のことではありませんか。それでしたら確かに貧富の差は大きいです。
ご指摘、ありがとうございます。
誤解を避けるために、本文を少しリライトしました。
投稿: tak | 2006年2月 9日 10:12