ファッションとウェブは、水と油
ululun さんが BBS で、ウェブ化・ネット化されていない業界の代表格として、ファッション業界を挙げる記事を紹介してくれた。
「ファッション」 は、「医療」「政治」「宗教」をしのいで、その筆頭に挙げられている。「されていない」とは言い過ぎだと思うが、確かにその度合いはものすごく低い
私のビジネス上のバックグラウンドは繊維・ファッション業界なので、この問題については、いつも意識せざるを得ない。本当に、ファッション業界というのは、ウェブとの親和性がものすごく低いのである。
上記の記事は、ファッション関連の媒体が雑誌に片寄っていて、ファッション雑誌は腐るほどあるのに、ファッション・ウェブが極端に少ないということを言っている。確かにその通りである。
これに関して、ululun さんは、ファイブフォックス(あの「コムサ」の会社)が自社のホームページすらもっていないことに「興味がある」とおっしゃっている。
ファッション雑誌に相当するファッション・ウェブが少ないことと、ファッション企業があまりウェブの世界に積極的に関わっていないということは、多少別の問題だが、根っこの部分は共通していると思う。
それを語るキーワードは「テキスト」だろうと思う。今回は、「ファッション人間におけるテキスト感覚の欠如」という仮説を語ってみたい。
ファッション人間の代表格、デザイナーにインタビューを試みると、彼ら/彼女らの多くは、自分を表現する 「テキスト」 を持ち合わせていないことがわかる。「作品を見てもらえばわかる」というのが、その常套的なコメントである。
確かに、ファッション・デザイナーなのだから、第一義のメディアが「作品」であるというのは当然だが、それらはあくまでも「商業デザン」なのだから、「テキスト」でフォローする方法論がないのは寂しい。
欧米のデザイナーの多くはこのあたり、かなり意識していて、自分のデザイン・コンセプトを言葉として(つまり「テキスト」として)説明するのは、当然の義務と思っているようだ。しかし多くの日本人デザイナーは、そのことにほとんど無頓着である。
このことを前提とし、翻ってウェブの現状をみてみよう。誤解を恐れずに言えば、ウェブは ("Web 2.0" はどうだかしらないが)、ほとんど 「テキストの世界」 なのである。検索エンジンの要は、「キーワード」であり、それは画像検索においてすら例外ではない。
ありていに言って、現状のウェブの世界は、ファッション人間にとってとても違和感があり、入りにくい世界なのだろう。「見てもらえばわかる」が通じないのだから。「見てもらう」までには、否応なくテキストの世界をくぐり抜けなければならない。
ウェブの世界に居心地よく定住するには、そのコンセプトをキーワードに置き換えなければならないのだが、彼ら/彼女らは「テキスト感覚」が欠如しているので、「ピタピタ」とか「テレンテレン」とか、感覚的なオノマトペに頼るのがせいぜいのところだ。
それならいっそ、それでもいいのだが(ファッション雑誌なんか、それで押してきてる部分がある)、 それで開き直る技量もなかったりするので、テキストの世界を自由に泳ぐのは、荷が重すぎる。
それで、「ファッション」における「テキスト」の構築という役割は、ファッション雑誌が果たしている。さまざまな「キーワード」「キャッチフレーズ」を提案し、それに適合する商品を見繕ってきて、画像として紹介するのが、ファッション雑誌の役割だ。
ということは、ファッション人間は「テキスト」の世界においては、徹底的に「受け身」でしかない。自ら能動的に「テキスト」の切り口で表現するということに関しては、赤子同然である。
ファッション業界のウェブ・ページは、やたらと Flash が多い。ファッション企業のウェブサイト作成を請け負うと、トップページに重い Flash をもってくることを要求されたりする。
いくら、Flash は今どき流行らないと言っても、彼らは、テキスト表現が苦手なので、画像(しかも押しつけの強い画像)をもってくるほかないのである。それで面目躍如だと思ったりしている。いきなりスキップされるなんて、よもや思っていない。
こうして、現実世界ではオタクはファッション人間にさげすまれる一方だが、ウェブの世界ではファッション人間の方がオタクに呆れられる側にまわるのだ。両者は、それほど水と油の世界なのである。
このギャップを埋めるには、ファッション人間の感覚を「テキスト」にきちんと翻訳できる能力のある人間が、コーディネーターの役割をしっかりと務めなければならない。ファッション雑誌編集者には、この能力のある人材がいるだろうが、彼らが ウェブを作れるかといえば、それはまた別の問題だ。下手したら、二重の通訳が必要になる。
なお、当然ながらテキストで、さらにウェブででも自己表現のできる貴重なファッション人間も、決していないわけではないということを、最後に付け加えておく。
【平成 19年 7月 19日 追記】
「アパレル業界がwebに手を出さない理由」 という興味深い記事を見つけた。東京コレクションに出ているデザイナーの中で、公式サイトを持っているデザイナーが少なく、あってもフラッシュばかりで、使い勝手が 「?」 なものが多いということがわかる。
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