葬式に着る服は面倒くさい
アパレル・メーカーには、消費者からのクレームや問い合わせの電話が、案外頻繁にかかってくる。某月某日、あるメーカーに、こんな電話がかかってきた。
「おタクのレースのジャケット付きのスリーピースのブラック・フォーマル・スーツ、買ったんだけど、葬式に着てって大丈夫かしら?」
品番を聞いて照合すると、黒の半袖ブラウスに黒のスカート、その上に、黒の総レースのジャケットというデザインだ。その消費者は、お店で 「結婚式にも、葬式にも着ていけます」と言われて買ったのだが、いざ葬式の前日になって、「総レースのジャケットは、ちょっと派手過ぎないか」 と不安になったらしい。
問い合わせを受けたアパレル・メーカーの担当者は、自信満々答えた。「大丈夫です。葬式にでも着て行けます。黒のレース使いは、元々そういうものです。むしろ葬式の場には、それこそが正式な着こなしなんです」
うぅむ、立派な教科書通りの回答だ。文句なしである。ただ、教科書通りということなら、これでいいのだけれど、私はそれを聞いて、少しだけ取り越し苦労をしてしまったのである。
というのは、葬式に集まる一族郎党の中には、決まって口うるさいバアサンがいるものなのである。そしてそうしたバアサンに限って、ファッションの教科書なんて知ったこっちゃないのだ。
「まあ、あそこんちのヨメは、葬式にあんな派手なレースの服なんか着てきちゃって!」 と言い出すに決まっているのである。「半袖ブラウスの上にレースの服なんか着たら、腕が透けて見えちゃってるじゃないの!」
その日一日で済めばいいが、何年経ってもくどくどと同じことを言われるのである。たかがレースの服で葬式に出たというだけで。
もし、そんな雑音をシャットアウトできるだけの自信と威厳を持って、堂々と着こなしていけるなら、何の問題もない。しかしわざわざメーカーに電話をかけて聞いて来るという自信のなさでそんな格好をしていったら、いびりのネタになりかねない。
ファッションによっぽどのポリシーがあるのでなかったら、葬式に着ていく服なんていうのは、思いっきり当たり前の地味なブラック・スーツにしておくのが、一番間違いないのである。
電話をかけてきた消費者は、店員のセールス・トークに、まんまと乗せられてしまっただけとしか思われない。
その葬式に集まる一族郎党に、意地悪で口うるさいオバサンがいないことを祈るのみである。
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