Google は了見が狭い?
昨日、"Google" という単語が動詞として米国の辞書に載ったと紹介したが、当の Google は、それにムカついているらしい。
"Googleが、「google someone (だれかについてググる)」 といった一般動詞としての同社名の使用を厳重に取り締まる意向を明らかにした" (参照) との報道は、とても興味深い。
ちなみに、この記事の日本語タイトルは、"グーグル、「ググる」の使用に難色" となっているが、決して「ググる」という日本語を規制したがっているわけではないので、ちょっと紛らわしい表現だ。あくまでも、"Google" という登録商標についてのお話のようである。
ニュースを読む限り、Google が懸念しているのは、直接には、同社のブランドへの「タダ乗り」についてのことらしい。Yahoo を使って検索しても "I googled something." などと表現されるのは、癪に障るということのようなのだ。
案外了見の狭い話である。
ニュースでは、レスター大学の Julie Coleman さん (言語学の権威であるらしい) の以下のようなコメントが紹介されている。
「商標が一般的に利用されると、その名声は失われてしまう。したがって、Google の主張は理解できる。彼らは検索以外のこともいろいろやっているため、自分たちのブランド名がこの分野に限定されてしまうことが嫌なのかもしれない」
「Google にとって、このような動詞としての使われ方を防ぐのは不可能だ。普通の人々が、普通の会話や文章でこの言葉を使っているが、彼らが訴えられる可能性は低い」
要するに、「Google の気持ちもわかるけど、実際問題として、規制は無理よ」という、穏健だが、核心を突いた主張である。
ただ、彼女の 「商標が一般的に利用されると、その名声は失われてしまう」 という言い方には、首をかしげる向きも多いだろう。「名声が高いからこそ、一般的に用いられるのであって、それに異を唱えるのは傲慢ではないか」 と。
事実、「Google も、ついに焼きが回ったか」 「MS じみてきてしまった」 という声が、ネット上で噴出している
しかし、これにはちょっとした注釈が必要だ。「商標の一般的利用が進みすぎると、その次の段階として、イメージが陳腐化し、損なわれてしまうことがある」と言い換えれば、納得がいきやすく、マーケティング論としても、正解だろう。
昭和 30~40年代、今ではあまり信じられないことだが、料理には何でもかんでも、化学調味料をたっぷりとふりかけるのが、ごく一般的という時代があった。そしてその頃、誰も「化学調味料」なんてまどろっこしいことは言わず、「味の素」と言っていた。
NHK では、特定企業の商品名の使用を避けなければならない。そこで、その日の料理番組に登場の予定だった料理研究家に、スタッフが念を押した。
「先生、ウチは公共放送ですので、くれぐれも 『味の素』 とは言わずに 『化学調味料』 とおっしゃってくださいね」
「はいはい、わかりました。『化学調味料』 ですね」
ところが、この日の番組 (当時のこととて、当然にも生放送) に出演した老大家は、あっけらかんと言い放った。
「はい、ここで 『化学味の素』 を、十分に加えます」
これが実話かどうかは知らない。しかし、こうした笑い話が語られるほど、化学調味料としての「味の素」の呼称は、一世を風靡したのである。
そして、思えば、この頃が味の素の名声の最も高い時期なのだった。以後、その名声は徐々に衰退し、今では化学調味料を加えないことの方がステイタスを訴求できることになった。
「味の素」という企業そのものは、その後も総合食品メーカーとして発展しているのだが、強すぎる化学調味料のイメージから脱却するのに、苦労した時期もあったはずだ。
もしかしたら、Google は、こうしたことの方を危惧しているのかもしれないが、やっぱり世の趨勢にあらがうことは困難だろう。
シャネルは他のメーカーが「シャネル・スーツ」という呼称を用いることを禁じており、その戦略は一定の成功を収めているが、Google と シャネル・スーツでは、その市場規模が違いすぎる。
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コメント
エレクトーンとか、宅急便とか、カップヌードルとか、
一般名詞っぽい使い方をされる商標って、名誉という印象しか持たないでいましたけど、色々あるんですね。
シャネルはシャネルスーツというのを禁じてるんですか。
よく安い衣類にシャネル風スーツとか、バーバリー調コートとかありますけど、あれって一気に安物感倍増で、宣伝としてはどうかなぁと思います(笑)
投稿: kumi | 2006年8月20日 21:52
kumi, the Partygirl:
シャネル風スーツも、お灸を据えられます。
バーバリー調コートも、三陽商会はシャネルほどラジカルではないけど、問題にされるみたい。
>一気に安物感倍増で、宣伝としてはどうかなぁと思います(笑)
その通りで、他のブランドにぶら下がる根性が、寒々しいです。
同じやるなら、もっとパロディを効かせればいいのにね。
投稿: tak | 2006年8月20日 22:22
このエントリーを読んで思いだしたのが「ゼロックス」です。私が新入社員だった頃、40代くらいより上の方で、コピーのことを「ゼロックス」と呼ぶ方が結構いたように思います。で、ある日。「すみません、キヤノンですが、コピー機の修理に参りました」「あ、ゼロックスの人呼んだの○○さんだよね。○○さ~ん」「……あの、キヤノンです」という会話がありました(^^;
その後XEROXは、コピー機メーカーというイメージからの脱却を図って「ドキュメント・カンパニー」とやらを掲げていたように思います。
「ウォークマン」も似ているなぁ。
投稿: 山辺響 | 2006年8月21日 09:58
山辺響 さん:
コピーのことを 「ゼロックス」 と言う人はけっこういましたね。今ではほとんどいませんけど。
多分、70年代は、コピーといえばゼロックスの時代だったんだと思います。
>その後XEROXは、コピー機メーカーというイメージからの脱却を図って「ドキュメント・カンパニー」とやらを掲げていたように思います。
味の素が化学調味料メーカーというイメージからの脱却に苦労したのと似てますね。今や、「明日のモト」 ですからね。
kumi, the Partygirl が挙げてくれた、エレクトーン、宅急便、カップヌードルのほかにも、ホッチキス、ポラロイド、バンドエイドなんかがありますね。
最近では 「ウォッシュレット」 かな。
投稿: tak | 2006年8月21日 14:17