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2006年10月 4日

これ、おいくらのお洋服?

アパレル・メーカーには時々、「おたくの品番xxxx番は、おいくらの商品ですか?」 という値段の問い合わせ電話がかかってくる。

一番多いのは、町のクリーニング屋さんからで、「洗濯に失敗して台無しにしてしまい、弁償しなければならないので」というものだ。こうしたケースは、案外少なくない。

ただ、衣料品というのは永遠にもつものではないので、長く着れば多少はへたってくるし、ほころびだって出る。だから、3年も 4年も前に買ったものならば、購入当時の値段の全額を弁償するのかどうか、そのあたりは、多分、当事者同士で相談しているのだろう。

しかし、中には押しの強い消費者もいるので、かなりくたびれた服でも、まるまる弁償させてしまうというケースもあるだろうと想像される。こうしたケースでは、消費者は圧倒的に強い。大きな声でまくし立てれば大概の要求は通ってしまうというのは、ちょっと恐い。

洋服の減価償却期間なんて、法律でも明確な基準はないのだろうし。

値段の問い合わせは、クリーニング店からばかりではない。最近目立つのは、美容院からの問い合わせだ。毛染め液を洋服の襟あたりにつけてしまい、染みをつくって台無しにしてしまうというケースが目立つ。

そればかりではない、一般消費者からの問い合わせだって結構ある。「実はいただき物なんですけど、お値段がとても気になるので……」というのが多い。かなりセコイお話なのである。

女性の世界では、洋服をつい衝動買いしてしまったもののやっぱり自分ではあまり着ないので、親戚や友達に「きっとあなたの方が似合うわよ」とかなんとか言って、体よく押しつけてしまうなんてことが、よくあるようなのだ。

あげてしまった方は、タンスの肥やしを処分して、せいせいしているのだが、もらった方は「彼女に借りなんか作りたくないわ」なんて余計なことを考えて、負担になってしまう。結局は「返し」をしないと済まないような気がする。

すると、どの程度のお返しをしたらいいのか気になって、夜も眠れなくなる。ちょっとモノのわかった人なら、一見すればどの程度の値段か見当がつくが、世の中そんな人ばかりではない。そこで思いあまってメーカーに直接電話までして、値段を聞いてくる。

なんとも哀しい性(さが)である。

さらに問題は、値段さえわかればいいというものではない。メーカーに問い合わせてわかるのは、いわゆる「メーカー小売希望価格」というもので、つまりシーズン終盤のバーゲンで値引きになる以前の値段である。

しかし実際には、ちょっと周りを見回せばわかるように、今時、洋服を値引きになる前の値段で買う人なんて、あまり多くはない。

アパレル業界の実際の収益実態から、ばっくりと類推すると、世の中の人間によって着用されている洋服のほぼ半分(あるいは、それ以上)は 「セール価格」(割引価格)で買われたものである。

大抵の人は、自分のワードローブを眺めれば納得すると思う。かく言う私だって、手持ちの半分以上は「セール価格」で買ったものだ。3割から 5割引、下手したら、アウトレット価格で 7割引ぐらいで買ったものかも知れない。

町のクリーニング屋さんが洗濯の取り扱いに失敗して、預かった洋服を台無しにしてしまう。お客は「お気に入りのお洋服なのに、どうしてくれるのよ!」とせっつく。メーカーに電話して聞いてみると、5万 8000円の商品だという。

そこでしかたなく、5万 8000円を全額弁償する。しかしその洋服は、5割引の 2万 9000円で買ったものだった可能性が、50%ぐらいあるのだ。割引価格だったとすると、そのお客は単純計算で 2万 9000円の得をしてしまうことになる。

3万 6000円の商品をバーゲンで 1万 8000円で買い、1~2度着て、お友達にあげたら、忘れた頃に 3万円ぐらいの値打ちの「お返しの品」が贈られてきた。これも、単純計算で 1万円以上の 「お得」 ということになる。

ああ、世の中奇々怪々である。洗濯屋さん、多分薄々わかってると思うけど、洋服の値段なんて、あまり当てにならないものなんだよ。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

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