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2006年10月19日

「まず美しい日本語を」なんて言っても

小学校での英語教育必修化について、伊吹文科相は「美しい日本語ができないのに、外国の言葉をやったってダメ」と、前任者とは対照的に否定的な見解のようだ。

世間では「英語教育は早ければ早いほどいい」という説と「まずはしっかりした日本語を」という主張が、真っ向対立している。

しかし、一見すると正反対にみえる主張というのも、よく整理してみると、それほど対立的なことを述べているわけではないということが、往々にしてある。ちょっとだけズレた分野でのそれぞれの正論を、互いに譲らず、張り合っていただけということが多いのだ。

英語教育に関する賛否両論は、「英語ができる」ということのイメージが、微妙に違っていることから来ているような気がする。 あるいは「小さな違いが大きな違い」ということになるかもしれないが。

「まず美しい日本語を」派は、割とスクェアな英語観なのだろう。英文雑誌を読んだり、英語で学術論文を書いたりプレゼンできたり、商談ができたりすればいいということなら、確かに英語教育は中学校からで十分だ。

日本に生まれ育った日本人が、きちんとした日本語ができないのに、ニューズウィークを読んだり、英語の論文を書いたりプレゼンができたり、商談をまとめたりというのは、ちょっとあり得ない。逆に美しい日本語ができる人は、英語の上達も早い。

しかし、ネイティブ・スピーカーと見紛うほどのきれいな発音で、苦もなくジョークのやりとりができ、パーティでのスノッブな会話にも不自由しないといった、スタイリッシュな英語を身につけたいのなら、そりゃあ、英語に接するのが早ければ早いほどいいに決まっている。

それは、「語学としての英語」というよりは「身体化された英語」だからだ。言語を身体化できるのは、8歳までという説もあるぐらいだ。

ただ、いくら身体化されたスタイリッシュな英語ができても、説得力のある英語ができるとは限らない。さらに、英語で学術論文を書くには、また別の種類の努力がいる。帰国子女の「ティーンエイジャーの英語」は、そのままではビジネスには使えなかったりする。

逆に、英語の学術論文を何十本も発表して、国際的権威として認められても、パーティでのちょっとした会話が苦痛でしょうがないと嘆く学者は少なくない。同じ英語でも、使う筋肉が違うのだ。

そんなのは当たり前すぎる話なのだけれど、現状の「英語教育論」では、そのあたりがほとんど明確にされていない。「英語」という魔法の道具は、熱にも咳にも鼻水にも効く総合感冒薬みたいなものと思われている。

相撲の土俵の上でレスリングとボクシングを戦わせるような議論をしても、始まらないのである。それに言語というのは、教育しさえすればいいというものでもないということは、以前 「日本語と逆上がりの関係を巡る冒険」 というエントリーで述べたので、ここでは繰り返さない。

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コメント

過去ログを含めて、おっしゃる通りでございます。(笑)
私がクドクド書いたことを、あっさりまとめていただいて、くやしいであります。(笑)

普通に勉強していて「英語より日本語」と言われる状態というものは、学力全体の沈下であって、日本語だけでは無いんでしょうね。

投稿: alex99 | 2006年10月19日 10:57

>普通に勉強していて「英語より日本語」と言われる状態というものは、学力全体の沈下であって、日本語だけでは無いんでしょうね。

おっしゃるように、「日本語」を、わざわざ学校で勉強するというのも、考えてみるとおかしな気もします。
米国だったら、English を勉強しないと、読み書きできない人も多いんでしょうけど。

ただ、「学力低下」というのは、本当かなあという気もします。

今どきの大学生に限って言えば、確かに昔に比べると平均的に「お馬鹿」になってると思いますが、それは、誰でも大学に入るようになってしまったので、当然といえばいえるかもしれないし。

マラソン選手の中に、ジョギング程度の市民ランナーが大勢混じったら、平均タイムがぐっと下がるようなもので。

投稿: tak | 2006年10月19日 13:52

InfoC管理者といいます。はじめまして。英語教育必修化に関する話題に関して書いていらっしゃるので、コメントを送りました。私、ナノピコ放送局(http://www.infococktail.co.jp/pickup/contents.cgi?topic_id=5)
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にあります。勝手なコメントを送り申し訳ありません。ただブロガーの皆様のお役に立てるサイトになるのではと考えています。よろしくお願いします。

投稿: InfoC管理者 | 2006年10月20日 18:21

InfoC管理者 さん:

サイトを拝見しました。
ちょっとおもしろそうですが、もう少し時間ができたら、じっくり拝見します。
今日のところはこれにて失礼。

投稿: tak | 2006年10月20日 23:02

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