わさびの辛さを、英語で言うと?
前々からとても気になっていることに、「"わさびの辛さ" を英語でどう言うんだろう ?」 というのがある。普通は「辛い」は "hot" というのだが、唐辛子の辛さは "hot" でも、わさびの辛さは違うだろうと思うのだ。
結局、答えは今でも謎のままで、なんともモヤモヤしている。
思うに、英語というのは味覚の表現がとても大ざっぱで、とてもじゃないが、繊細な味を言い表すには充分な言語ではない。これは、英語の本家本元である英国人が、味音痴であることによるものと、勝手に思っている。
英国人の多くは、せっかくおいしいと評判のレストランに連れて行っても、ほとんど甲斐がない。「どう? おいしいでしょ」とたずねても、「そうだね」程度の、木で鼻をくくったような返事しかないのだ。本当は、あんまりわかってないようなのである。
逆に、彼らの方からすると、「日本人てのは、なんで食い物ごときに、そんなに熱狂的にならなければならないんだ?」なんてことを思っているようなフシがあるのである。「別に、大した問題じゃないじゃないか」ってな感じだ。
だから味覚をあらわす英単語も、わりとぞんざいだ。「甘い: sweet」「しょっぱい(塩辛い): salty」「酸っぱい:sour」「苦い: bitter」が、日本語とほぼ対応する言葉で、 「えぐい」とか「うま味」なんてのは、英語では到底表現しきれない。
「辛い」 もそうだ。"hot" (熱い) なんていうのは、即物的すぎてまったく無粋な表現である。カレーの辛さみたいなのは、"hot and spicy" なんて言うが、これまた即物的だ。"Pungent" なんていう表現もあるが、これも、刺激的な味なら「辛さ」に限らず、何でも使える。
元々、唐辛子や胡椒は東洋から渡ったものだから、ネイティブ欧米人の味覚の文脈にはないのかもしれない。
で、日本原産スパイスである「わさび」の辛さも、"hot" と言うしかないようなのだが、英米人に「でも、わさびと唐辛子の違いは、同じ "hot" では、表現できないでしょ」と言うと、「確かにそうだ」と言う。しかし、それで終わってしまう。
まあ、それを言ってしまえば、日本語も同じ「辛い」でくくってしまうので、偉そうなことは言えないのだが、英語で "hot" と言ってしまうと、エライ違和感なのだ。ちっとも "hot" じゃないじゃないか。ありゃ、むしろ "cool" だろうよと。
一説によると、"wasaby" という新語があるなどという話もあるが、これは未確認情報である。この言葉でググルと、多くのページがヒットするが、かなり混沌としている。ただ、なかなかうまい言い方だという気はする。
【2023年 1月 26日 追記】
これを書いてから 16年以上経ってからの追記で申し訳ないが、本日の TBS ラジオ「たまむすび」を聞いていたところ、唐辛子の辛さとわさびの辛さは、同じ「アリルイソチオシアネート」という成分によるものだと言っていた。
番組中で唐辛子とわさびの目隠しテストをしたところ、全然区別が付かないのである。これには驚いた。詳しくは こちら を参照のこと。
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コメント
日本語も言葉としては辛酸甘苦渋で、わさびもからしも塩からい(中国で言う鹹)も辛いで表していたりしますけどね。ごめんなさい。茶々です。
日本でも辛いと火を吹いたりしていますから(カラムーチョのコマーシャルとか)、hotも一応許容範囲かなあ、とは思っておりました。とはいえ英語の不自由な日本人としてはとっさにはピーカントなんて「難しい」単語は出ないので、「からから」といいたいのに「あちあち」と取られちゃったら若干不本意ではありますな。聞く側は特に区別もしないんでしょうが。
wasabyで検索しても、http://www.urbandictionary.com/define.php?term=Wasaby
のような、「Another term for, whats up? or, sup?」という用法がヒットしてきますね。
面白い言い方ではありますが、どの程度市民権を得ているのでしょうか。
投稿: mobanama | 2006年11月 6日 15:07
mobanama さん:
>面白い言い方ではありますが、どの程度市民権を得ているのでしょうか。
市民権は、全然得ていないと思います。
意味すらも固定されていないみたいだし。
投稿: tak | 2006年11月 6日 21:27
着眼がいいですね。
似たような動機で,
「おととい」と「あさって」
この2語を英語で,と考える度に不器用だな,と。
The day before yesterday
The day after tomorow
なんとまわりくどいのでしょう。
もちろん,その逆もあるようですけどね。
「さきおととい」「しあさって」
に至ってはもう,,,。
投稿: かっこいいお兄さん | 2006年11月17日 22:22
かっこいいお兄さん:
「一昨日」、「明後日」 は、つまり、英語圏ではそんなに大事な日じゃないんでしょう。
逆に、"yesterday" や "tomorrow" は、日本語圏より大切みたいです。
日本ではそういう発想はないのですが、"yesterday" や "tomorrow" は、時として複数形で使われます。
Yesterday は、既に歴史の一部なのかもしれません。
日本では、自分の身体性の及ぶ 「近い過去」 は、歴史とは分離して細分化して捉えてますが、ずっと遠くなると、今度は 「水に流して」 しまいます。
「しあさって」 「さきおととい」 は、英語では "three days after" "three days before" ですから、論理的にはかえって明確ですよ。
日本では、自分の身体性の及ぶ 「近い過去」 「近い将来」 は、論理的明確さよりも、身体性に密着した言い方を好むのでしょうね。
投稿: tak | 2006年11月18日 11:27
山葵の辛さは、sharpって言うって聞いたことがあります。
確かに、刺すような辛さってことなんだろうな、と納得していました。
でも、みんなが言っているのか、たまたま一人の英語を母語とする人がそう表現しただけなのか、わかりません。
投稿: ひよこ | 2010年11月 8日 22:25
ひよこ さん:
>山葵の辛さは、sharpって言うって聞いたことがあります。
>確かに、刺すような辛さってことなんだろうな、と納得していました。
Sharp は確かに言えてますね。
でも、フィックスした表現というより、むしろ個人的なレトリックに近いような気がします。
投稿: tak | 2010年11月 8日 23:42