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2006年11月21日

ワープロで漢字を忘れるって?

私は、文章を書くときはほとんどパソコンを使う。もちろん手書きもするが、それは大抵メモ書きの時だけだ。すると、ワープロ嫌いが言うように、確かに漢字が書けなくなる。

ただ、漢字を書けないということと、漢字を知らないということは、かなり違う。ワープロを使っても、漢字そのものを忘れることはない。

ワープロを使い続けていると漢字が書けなくなるというのは、多分私に限らず、本当である。私はいろいろな取材の時など、手書きでメモを取るが、咄嗟に漢字が出てこなくて、カタカナになってしまうことがしょっちゅうだ。

あるいは、漢字が出てこないので、同じ意味の英語でメモしてしまうなんていうことがある。以前、外国人に英語でインタビューする機会が少なからずあったので、場合によっては、漢字で書くより同じ意味の英語でメモる方が早かったりするのだ。

ただこう言ってはなんだが、漢字が書けなくなって不便を感じたことは、あまりない。ブログのテキストは当然として、その他のいろいろな原稿も、ほぼ 100% パソコンを使って書くのだから、手書きで漢字が書けないことは、まったくハンディキャップにならないのである。

そして漢字が書けなくなっても、漢字がわからないわけではないから、国語力が衰えているわけでは決してない。放っておくといい加減な変換ばかりする IME を扱っているのだから、漢字センスそのものは、むしろ研ぎ澄ましておかなければならない。

そうでないと、微妙な誤変換に気付かずに恥をかくことになり、まさに、道具を使っているのでなく、「道具に使われている」ということになる。

例えば、「制作」と「製作」、「精算」と「清算」、「保証」と「保障」、「志向」と「指向」、「追求」と「追究」と「追及」などがある。パソコンに搭載された IME は、これらの言葉の微妙な違いには案外無頓着で、いい加減な変換をしてしまう。

また、「言う」と「いう」 の違いもある。「そう言うことはない」と、「そういうことはない」の違いに、パソコンは全然無神経である。「興味をもつ」と「バッグを持つ」の違いに関しても、パソコンはかなりお馬鹿だ。

このあたりは、「書ける」ことと「使いこなせる」ことが、必ずしも一致しない。むしろなまじっか漢字を書ける人の方が、何でもかんでも漢字にしてしまって、かえって読みにくい文章にしてしまう傾向があると思っている。

漢字をきちんと書けると、その字の成り立ちや味わいなど、深いところまでの理解が得られやすいというのは、確かだろう。しかし書けさえすれば自動的にそうなるというものでもない。それは微妙に別の問題だ。

今の世の中でとりあえずどっちが大切かと問われれば、単に「漢字を書ける」ことより、「漢字を使いこなせる」ことの方がずっと大切だと思うのである。

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コメント

うわ・・そのふたつならんだ同音異語、全部わかりません。
映画だと、制作が作るほうで、製作は、資金繰りとかそちらの方
だったような気がするけど、自信ないな。
またビミョウな例を持ち出すのが上手いですね。

投稿: kumi | 2006年11月22日 00:48

kumi the Partygirl:

制作と製作。

英語だと両方とも produce でいけるけど、
日本語では、多少なりともアートっぽいのが 「制作」、
フツーのお仕事っぽいのが 「製作」って感じかな。

あるいは、「コト」 を作るのが 「制作」 で、
「モノ」 を作るのが 「製作」 とか。
(あくまでも、ニュアンス)

英語の "manufacture" よりなのが、「製作」 ですね。

日立製作所は、決して 「制作所」 にはならないということで、理解しやすいかも。

>映画だと、制作が作るほうで、製作は、資金繰りとかそちらの方
>だったような気がするけど、自信ないな。

映画の場合は、限りなく業界用語に近い気がするなあ。
要するに、プロデューサーの仕事が 「製作」 で、
監督 (ディレクター) の仕事が 「制作」 と思えばいいのかも。

投稿: tak | 2006年11月22日 10:00

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