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2006年11月27日

「こちら、○○になります」 というバイト敬語

昨日の昼過ぎ、某蕎麦屋で、ちょっとだけバイト店員の兄ちゃんをからかってしまった。悪気はなかったんだよ。ごめんね。

その蕎麦屋は、ちっとは気取った造作で、値段だってそれほど安いわけじゃない。なのに、蕎麦湯を頼もうにも、店員が調理場に引っ込んだまま、なかなか顔を出してくれない。

客席が細長い造りの店だから、端の席から大声で呼ぶのも憚られ、ようやく顔を出したおねえちゃんに、「済みません」 と声をかける。一度目は聞こえなかったようで、無視された。二度目、もう少し大きな声で呼んで、ようやく気付いてくれたようだ。

ところが、このおねえちゃん、私が安心してちょっと視線をテーブルに落としたら、それで何かの間違いと勘違いしたらしく、ふと見ると、気にしないで奥に引っ込もうなんてしている。

おいおい、するてぇとなにかい、この店は店員がテーブルに来てくれるまで、客がじっと注目して待たなければならないのかい。それとも、離れたところから大声で用件を言えってか。

あわてて、三度目に大きな声で「済みません」と声をかけたら、振り向いてようやく確信をもって、近づいて来た。やれやれ。

半分ほど来てくれたところで、普通の声でも届きそうになったから、「蕎麦湯、お願いします」というと、そのおねえさん、うなずいただけで、返事もしないで戻っていった。再び、やれやれ。

本来ならば、蕎麦湯ぐらい、言われなくても頃合いを見て持ってきてもらいたいんだがなあ。

ところが、それからしばらく経っても、蕎麦湯は出てこない。少しだけイライラ感を募らせていると、さっきのおねえちゃんではなくて、今度は兄ちゃんが湯桶をもってやってきた。何度目かの、やれやれ。

ところが、この兄ちゃん、いかにもバイトっぽい口調でこう言った。

「お待たせしましたぁ。こちら、蕎麦湯になります」

イライラ感が募っていたこともあって、ここでおじさんは、ちょっとだけ意地悪を言ってみたくなってしまったのである。

「いつ、蕎麦湯になるの?」
「は?」
「何分待つの?」
「ですから、こちら、蕎麦湯になります」
「だから、これが蕎麦湯になるまで、どのくらい時間かかるの?」
「あ、いえ、こちら、もう蕎麦湯です」
「なぁんだ、よかった。この店のは、ティーバッグみたいに、少し待たないと蕎麦湯にならないのかと思ったよ」
「いえ、はあ、あの、こちら、ちゃんと蕎麦湯になりますので……」

おいおい、通じてないじゃん。ここで振り出しに戻ろうかとも思ったが、洒落にならないだろうから止めておいた。嫌み言っちゃって、ごめんね。

こういうの、「バイト敬語」というらしい(参照)。「○○になります」「○○の方」「○○円からお預かりします」など、いろいろなバリエーションがあって、私なんか、かなり気になってしまうのだ。「いらっしゃいませ、こんにちは」に関しては、わざわざ独立したコラムを書いてるし(参照)。

この店の名誉のために言うが、蕎麦はとてもおいしかった。これで、店員が気の利いたおばちゃんだったら、文句なしである。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

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言葉」カテゴリの記事

コメント

バイト敬語、書店でも気になりますねぇ。
どの店でもレジで「こちらお品物になります」と言われて本を差し出されます。

一律に同じセリフなので、統一マニュアルでもあるのか? と思ってしまいます。

最近のような気がしますけどね、「こちらお品物になります」。出所は何なんでしょうね?

投稿: sato | 2006年11月27日 08:37

sato さん:

本当に、些細なことだけど、気になりますね。

「1000円からお預かりします」 と言われて、
「違うだろう、俺から、1000円預かったんだろう!」 とか、

「レシートのお返しになります」と言われて、
「お前にレシート返してもらう覚えはない!」 とか。

投稿: tak | 2006年11月27日 08:52

はじめまして。いつも楽しみに読ませていただいています。

「いらっしゃいませ、こんにちは」についてなのですが、僕(今19歳です)の世代にはそれほど違和感を与えないフレーズのようです(僕も「バイト敬語」の多くには違和感を覚えますし、上述のも「いらっしゃいませ」で十分だとは思いますが)。
というのも、僕らにとっては「こんにちは」や「こんばんは」は紛れも無く敬語だからです。少なくとも、タメ口で会話できる親しい間柄で「こんにちは」などと言うのはかなりの違和感を覚えます。
敬語は僕らにとっては相手との距離を示す言葉である側面が強いので、親しい仲では使わない挨拶は敬語として通用することになります(多くの場合、タメ口は相手の立場にかかわらず「馴れ馴れしい」のです)。

もちろん目上の人に対してこんにちはと言うのにも多少の違和感はありますし、昼や夜友人に挨拶するときの言葉にも困ります。だからなのか、僕の周りでは殆どの人が四六時中「おはよう」「おはようございます」と口にしています。…さすがに夜の9時に集合して「おはよう」はないだろうといつも思うのですが。

投稿: k-t | 2006年11月27日 09:03

k-t さん:

コメントありがとうございます。

ただ、率直に言わせてもらうと、

>タメ口で会話できる親しい間柄で「こんにちは」などと言うのはかなりの違和感を覚えます。

ということなのに、

>僕の周りでは殆どの人が四六時中「おはよう」「おはようございます」と口にしています。

という感覚が、ちょっとわかりません。

いや、夜に 「おはよう」 がおかしいというのではなく (私も演劇関係が長かったので、その辺りは、ちっとも違和感ありません)、「おはようございます」 がフツーなのに、「こんにちは」 が敬語であるという感覚。

確かに、親しい同士で 「こんにちは」 というのは、私だって、多少の違和感を覚えます。「やぁ」 とか 「おぅ」 で済ませちゃったりして。

でも、「紛れも無く敬語」 というのは、ちょっと違うんじゃないかなあ。

これって、「敬語」 イコール 「よそよそしい」 という誤解ではありませんか?

あるいは、近い将来、日本全国の挨拶が水商売風に化してしまうのか。

投稿: tak | 2006年11月27日 09:32

返信ありがとうございます。ちょっと僕の言葉が足りなかったかもしれません。

まず「おはようございます」はもちろん敬語として使っていますし、「こんにちは」や「こんばんは」もそれと同じように使っています。

僕が後ろの2つも敬語だと捉える理由は、敬語(というよりは「丁寧口調」かもしれません)を使うべき相手に対する挨拶が実用的にはこれらだからです。
本来は敬語ではない言葉なのでしょうけれど、何というか、「タメ口」のカテゴリーではなく「敬語」のカテゴリーに属する言葉だという感覚です。とはいえ「紛れも無く敬語」というのはちょっと言い過ぎました。すみません。

そして目上の人に対してでも親しくなればかなりタメ口に近い口調で話す一方、外で見知らぬ人に道を尋ねる場合は、年齢に関係なくお互い敬語で話しています。
そういうわけで実用的にはむしろ、「敬語」イコール「よそよそしい」という傾向があるように思っています。

投稿: k-t | 2006年11月27日 17:25

k-t さん:

>まず「おはようございます」はもちろん敬語として使っていますし、「こんにちは」や「こんばんは」もそれと同じように使っています。

>僕が後ろの2つも敬語だと捉える理由は、敬語(というよりは「丁寧口調」かもしれません)を使うべき相手に対する挨拶が実用的にはこれらだからです。

ふぅむ。
時代は変わってるんですね。

私は、(ビジネス上では) 敬語を使うべき相手に、いきなり「こんにちは」 とか 「こんばんは」 とかは、ちょっと言えません。

私なら、とりあえずは 「失礼いたします!」 って感じかな。

とはいえ、今後は仕事上で若い兄ちゃんにいきなり 「こんにちは」 とか言われても、「ああ、丁寧に言ってるつもりなんだな」 と理解して、むっとしないようにします。

投稿: tak | 2006年11月28日 14:28

頭かたいなとおもうばかりです。
実際新種の敬語とも最近ではいわれている「なります」

時代によって言葉だってかわっていくわけで、まぁこういう人がたくさんいるからこそ、まだちゃんと敬語はつかわないといけないのでしょうね。

どれだけ敬語でも、言い方がうざかったら意味ないですし、その人がちゃんと丁寧に言おうとしているのだったら別にいいと思えないのですね・・


まぁそうやってすぐに自分がおこれる人間にだけ怒ればいいですよww

投稿: a | 2012年9月20日 01:36

「時代によって言葉だってかわっていく」というのは、確かに、aさんのコメントを読むとよく分かるような気がします。

投稿: 山辺響 | 2012年9月20日 10:46

a さん:

私は、言葉に関しては頭かたいですよ (^o^)
何しろ、もう一つの 「和歌ログ」 というブログでは、旧かなの文語体で和歌作ってますからね。

私がここでことさらに気にして見せたのは、「蕎麦屋」という非常に伝統的な業態における言葉遣いであるからこそということにご注目くださいね。

そのくらいのことを理解できないようでは困りますよ。

>まぁそうやってすぐに自分がおこれる人間にだけ怒ればいいですよww

私の本文に、怒っている人は登場しないでしょ。
(私は 「やれやれ」 と思っただけで、全然怒ってないし)

こういうケースを、「怒る/怒られる」 という関係でしか理解できないというのは、悲しいことですね。
(私はここでも怒ってません。悲しんでるだけです)

投稿: tak | 2012年9月20日 10:57

山辺響 さん:

それは理解しつつも、蕎麦屋という業態においては、言葉は保守的である方が顧客サービスの一環でもあると思うわけですよ。 (^o^)

少なくとも、「こちら蕎麦湯になります」は、ふさわしくないと思いませんか?

投稿: tak | 2012年9月20日 11:08

→takさん、

もちろんおっしゃるとおりです。

私がaさんのコメントを読んで感じたのは、そのコメントの文章自体が「すでに変化してしまった日本語」だなぁ、と……(わかりにくくてすみません)。

投稿: 山辺響 | 2012年9月20日 14:28

初めまして。コメント、失礼致します。

「バイト敬語」ですけれど意味が分かりきっているのに、
わざわざ「それ間違い」というのは野暮な気がしますので、
丁寧に言っているつもりなら私は気にしていません。

ただ言語が感情に訴えるのは当然ですから、イライラするのは仕方がないと思います。
しかも本文にあります蕎麦屋さんの時はちょうどイライラが募っていた時でしょうからね。

投稿: 京子 | 2012年10月10日 22:19

山辺響 さん:

>私がaさんのコメントを読んで感じたのは、そのコメントの文章自体が「すでに変化してしまった日本語」だなぁ、と……

なるほど。
了解です (^o^)

投稿: tak | 2012年10月10日 23:07

京子 さん:

>丁寧に言っているつもりなら私は気にしていません。

私は気にはしますが、通常ならことさらに反応したりはしません。

>しかも本文にあります蕎麦屋さんの時はちょうどイライラが募っていた時でしょうからね。

そういうことです。
合わせ技で来られたので、ついことさらに反応したわけです (^o^)

投稿: tak | 2012年10月10日 23:11

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