「年俸」の正しい読み方
大リーグに行くことになった松坂選手の年俸が話題になっているが、ラジオを聞いていると、これを 「ねんぼう (nembo)」 と発音するレポーターが多いのがとても気になる。
年ごとの俸給(ほうきゅう)だから、正しくは「ねんぽう (nempo)」である。プロ野球関係のレポーターは、きちんと読んでもらいたい。
憲法が「けんぽう」、漢方が「かんぽう」、年報が「ねんぽう」、連邦が 「れんぽう」、 文法が 「ぶんぽう」、になるのと同じ理屈で、「はひふへほ」 の直前の音が 「ん」 だと、口を閉じた 「M 音」 になり、それに引きずられる形で、次の音が 「P 音」 に変化する場合が多い。
音韻学的にいえば、「はひふへほ」 には、本来濁音が存在しない。「B 音」 は、「P 音」 の濁音であって、「H 音」の濁音ではない。では、なぜ日本語では 「はひふへほ」 がこんなにも自然に P 音や B 音に変化してしまうのか。
それは、日本語の 「はにふへほ」 は元々は [PA PI PU PE PO] と発音されていたからだというのが、定説になっている。
古い謎々に「母には二度会って、父には一度も会えないものは何か?」というのがあり、答えが「唇」であるということはわかっていたのだが、その理由が長い間わからなかった。
音韻学研究によって、上代においては、「母」は[papa]と発音されていたということがわかり、なるほど、この発音をすれば唇が二度閉じられるから、「二度会う」 のだということになった。
「月報」や「日報」など、促音の後の H 音が P 音になるのはまだ自然としても、「ん」 の後までそうなる必然性はないように思われるが、実際には、とても自然な無意識の先祖返りで、そうなってしまうのだ。
ちなみに「父」の古い読みは [chichi] ではなく、[titi](てぃてぃ)である。だから今でも、伝統芸能などでは「父親」が「てておや」なんて読まれたりする。
話は戻るが、「年俸」を「ねんぼう」と読んでしまう人は、漢字の方も 「年棒」 か何かだと、間違えて覚えてしまっているのではなかろうか。そういえば、野球は中国語で「棒球」 と言うらしいが。
【平成 20年 1月 9日 追記】
半ば冗談で "漢字の方も「年棒」か何かだと、間違えて覚えてしまっているのではなかろうか" なんて書いたのだが、冗談じゃなかったようだ。
ふと思いついて「年棒」でググって見たら、391,000件もヒットした。トップの 2件は 「年棒」 が誤字であることを指摘したものだが、それ以下のほとんどは、マジに「年棒」だと信じて書かれている。
中には 「残業あれこれ【-7-】年棒制の場合の残業」 なんていう解説をしている社会保険労務士までいらっしゃる。この人、 「労働基準法の解説 年棒制について」なんて別のページも書いているから、本当に正しい表記をしらないみたいなのだ。こんなんで大丈夫なのかなあ。
あ、それから、元プロ野球選手の解説者が「ここは 『送りバンド』 の場面でしょう」(正しくは、もちろん「バント: bunt」)なんていうのも、かなり恥ずかしいなあ。朝日新聞まで、自ら主催する甲子園野球関連の記事見出しに「バンド対策に集中」なんて書いちゃったりしてるし。
これ、そのうち消えちゃったらもったいないので、スクリーンショットにしてとっておくことにする。
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