「正しい和食」 は高くつく
農水省が世界中の和食レストランを審査して、 「正しい和食」の認証を与えるシステムを検討しているというニュース(参照)を、私は複雑な思いで受け取ってしまった。
「お役所は、国際的な食文化に口出しするな」という主張もあるようだが、結局これって、とても単純にドメスティックなお話だと思うのだ。
海外で "Japanese food" という名の珍妙な物を食べさせられて、「これのどこが日本食なんだ!」と怒鳴りたくなったという経験は、多くの人がしているようだ。ならば、「正しい和食」のお墨付きがあれば、日本人が渡航先で安心してメシが食えるという発想は、理解できないこともない。
つまり、ここでしっかりと確認しておくべきは、この制度が「日本人旅行者が安心して食える保障」にすぎないんじゃないかということだ。ただ、認証されたレストランの多くは、お金の支払いという観点からすると、全然安心できないような高級店になるだろう。
海外で「まともな和食」を食おうとすると、かなり高いものにつく。それは当然で、和食は素材が命だから、希少な高級素材を使わざるを得ない。そして調理師にしても仲居さんにしても、あまり適当なバイトを使うわけにもいかないから、人件費もそれなりに高くつく。
私に限って言えば、海外に行ってまで和食を食おうという発想がない。20年ほど前に、仕方なく付き合いで入ったニューヨークの「スシ・バー」で「アボガド寿司」に驚いたが、そんなものは、とっくの間に逆輸入されてしまっている。
ちなみに、この認証制度が日本人旅行者のためだけでなく、「正しい和食」の普及のためだとかいうのなら、それはまったく余計なお世話だと思う。こんな権威的な手法をとらなくても、もっと他にやり方があるだろうというものだ。
「パンにしますか、ライスにしますか?」なんて聞かれるようなレストランが、「正しい洋食」の店ではないことぐらい、日本人だってわかっている。わかった上で、食いにくいのを重々承知で米の飯を皿に盛り、不器用な手付きで食っている。
だったら、アメリカで供される "soy soup"(味噌汁)が、いかに変てこりんなものであっても、当のアメリカ人が喜ぶなら、それはそれでいいじゃないか。洋食の「ライス」ほど変じゃないかもしれない。
アメリカにあまたある "Japanese food" のレストランが「正しい和食」を供したとしても、売り上げの拡大にはほとんど結びつかないだろう。日本のカレー屋が下手に 「正しいインド料理」 を始めたりしたら、確実に売り上げを減らすだろうというのと同じことだ。
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コメント
お邪魔します。がんなむぅです。夜分に恐れ入ります。
“スシポリス”の話、11月上旬にNHKの『R指定深夜便(ラジオ深夜便)』で聴きました。(イギリス在住の方のお話でした)
『海外日本食レストラン認証有識者会議』という人たちが、「農林水産物の輸出促進を図る」ことも視野に入れて、正しい日本文化と日本食のイメージアップに、認証をしてみたらどうじゃろう、ということをぐだぐだやってみるということでした。
その話の中に出てきた言葉が“スシポリス”でした。
もしかして、時期が時期だけに、『ポロニウム』暗殺騒ぎに、日本の農水省が関与ぉ?“スシポリス暗躍”=スパイ疑惑ぅ?
(そんな訳ないっ!)
投稿: がんなむぅ | 2006年12月12日 21:45
がんなむぅ さん:
思わず吹きました。
座布団 3枚!
投稿: tak | 2006年12月12日 22:54
ミシュランの星と同じく良いものにお墨付きを与える認証制度ですから、「お金の支払いという観点からすると、全然安心できないような高級店になる」ことに何の問題もないでしょう。
カジュアルな和風料理(あるいは和風もどき料理)が食べたい客は自分の判断で非認証店に行けばいいのです。
あくまでも客に選択基準を与えるだけであり、消費者に大きなメリットがあります。
「正しい和食」が認証されて困るのは、でたらめな和食もどきを「これが和食です」と高い値段で出している手合いだけです。
投稿: 玄倉川 | 2006年12月13日 19:47
玄倉川 さん:
>あくまでも客に選択基準を与えるだけであり、消費者に大きなメリットがあります。
客に選択基準を与えるというのは、確かにその通りだと思います。その意味では、消費者にメリットもあるでしょう。
>カジュアルな和風料理(あるいは和風もどき料理)が食べたい客は自分の判断で非認証店に行けばいいのです。
これも、確かにその通りで、別に害になるものではないと思います。
しかし、日本政府が有無を言わさず審査して、認証を与えるというシステム (というように、ニュースでは読み取れます)に、何か割り切れないものを感じてしまうのです。
それに、「まともな日本料理」をどうしても食べたいのなら、現状でも、ちょっとしたガイドブックなどですぐに見つかりますしね。
投稿: tak | 2006年12月13日 20:51
書き忘れたことを書き足します。
海外でまともな和食を食べたかったら、店名が質素な店を選ぶことです。"kyoto" "Geisha" "Fujiyama" "Sayonara" などは、絶対に(!)避けてください。
投稿: tak | 2006年12月13日 21:28
いつも楽しくよんでおります。
この内容から少々ずれますが、
アボガドとアボカドの違いは
単に濁音が続くと読みやすいという理由からでしょうかね?
投稿: とり | 2006年12月19日 22:33
とり さん:
わはは (^o^)
知りませんでした。
「アボカド」が正しいのね。
私、あのキウイとか 「アボカド」 とか、何となく食わず嫌いで、食ったことがないので (この2つの果物の区別がつくようになったのも、最近の話)、大変失礼しました。
ああ、まったく、ジジイだなあ。
投稿: tak | 2006年12月20日 00:31
「官から民へ」「民間でできることは民間で」。
玄倉川さんがおっしゃるとおり消費者にとってはメリットがあるでしょうが、まさに玄倉川さんが名を挙げられているように、ミシュランのような民間企業が勝手にやればいい話であって、政府がそんなことに金を使うのは、小泉~安倍へと継承されている改革路線に逆行しているような気がします。
ん?……てことは、私としてはこの制度に賛成すべきなのか?(ぉぃぉぃ
投稿: 山辺響 | 2006年12月22日 10:27