日本男児の真情溢れるレトリック
1月 8日のエントリーで、永六輔さんがラジオで子供相手に愚痴をこぼされたと書いたが、下手するとそれを 「みっともない」
と受け取ってしまう方もいそうなので、永さんの名誉のために、ちょっとだけ書いておく。これは、戦前生まれの日本男児独特のレトリックだと思うのだ。
永さんがどんな愚痴をこぼされたのかというと、歳をとって餅をのどにつっかえさせるといけないので、一口大に切って電子レンジでチンしたところ、ふくらんでひっついてしまい、結局、元の大きなもちになってしまったというお話である。「ちゃんと一つずつ暖めなさい」と、娘さんに怒られたのだそうだ。
これを、永さんは、TBS ラジオの子供電話相談室で、電話をかけてきた子供相手に、「ちょっと、愚痴を聞いてくれる?」と断ってから話されたのである。
永さんは過日、長年連れ添われたご夫人を亡くし、現在は男やもめ状態であられる。それで餅をチンするのも、ご自分でやらなければならないのだ。
で、わざわざ子供相手に「愚痴」と称して話されたことが、実は、愚痴にこと寄せた亡きご夫人への愛情の表現であると、つい深読みしてしまったのは、私だけではないと思う。
もしかしたら、永さんは子供相手なので、深読みなんかされないと安心して語られたのかもしれないが、どうしてどうして、「子供電話相談室」 には、大人のファンも多いのである。
戦前生まれの日本男児は、妻への愛をストレートに語ることを潔しとしないところがある。それで、とてもとても遠回しなレトリックで真情を吐露することがある。それをわからないと、日本の男というのは何と薄情なのかと誤解してしまいかねない。
歌舞伎の 「菅原伝授手習鑑」 では、松王丸が身代わりとして差し出した自分の息子の死を悲しんで泣くのを潔しとせず、弟の桜丸が忠義を果たせなかった無念を思いやるという口実で大泣きする (必ずしもそうではないという説もあるが) という場面がある (参照)。
私は永さんの「愚痴」から、ふと松王丸の大泣きを連想してしまって、今でも亡き夫人を心から愛していらっしゃるのだなあと思ったのであった。
亡き妻へのラブレターとして、絵はがきを毎日投函していらっしゃるというのは知る人ぞ知る話だが、口で言うとなると、こうした遠回しの表現しかされないというのは、まさに戦前生まれの日本男児である。
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