「連呼」って、やっぱり迷信だと思う
当サイトの "選挙カーの「連呼」は「迷信」から生じているらしい" というページがにわかに脚光を浴びてしまったということは、4月 17日のエントリーに書いた。
これに対してこのほど、読者の方から "選挙カーの「連呼 は「迷信」ではありません" というご教示のメールをいただいた。
このメールで、長年の疑問がやっと解けた。やっぱり、「走行中の選挙カー」 では、連呼しかできないもののようなのだ。公選法には、以下の規定があるとご指摘頂いた。(2021年 10月 注記: 以下の文章は法律改正によって、現状には適用されない)
第141条の3 何人も、第141条(自動車、船舶及び拡声機の使用)の規定により選挙運動のために使用される自動車の上においては、選挙運動をすることができない。ただし、停止した自動車の上において選挙運動のための演説をすること及び第140条の2第1項(連呼行為の禁止)ただし書の規定により自動車の上において選挙運動のための連呼行為をすることは、この限りでない。
それにしても、法律の文章というのはわかりにくいものだとは思っていたが、すさまじいものである。なにしろ、「選挙運動のために使用される自動車の上においては、選挙運動をすることができない」 のだそうだ。これ、いくら何でもなんとかならないものだろうか。
いや、法律の内容の問題として言っているのではない (そんなの、私にはどうでもいい)。純粋に言葉の使い方の問題として、読んで恥ずかしくなるだろう。これが矛盾でなくて、何が矛盾だというのだ。誠実に考えると、遵守すること自体が無意味とさえ思える。
まあ、その恥ずかしさをぐっと堪えて解釈すれば、但し書きで、停車中の街頭演説と、(走行中ならば)連呼行為のみが認められているということのようだ。
ただし実際には、警察はこの規定を厳密に適用していないので、走行中の選挙カーで連呼に限らず政策を訴えても、摘発されることはないということのようなのである。いわゆる「運用の問題」 、つまり「お上のさじ加減」ということだ。
で、私にメールをくださった方によると、街宣車で連呼をしないで当選できるのは、すでに当選するだけの知名度があるか、組織票を持っている人、顔がいい人など、特別の理由がある人に限られるのだそうだ。
多分、この方は選挙運動を経験されているのだろう。何もない普通の人は、連呼なしでは当選できず、知名度を上げるには街宣車での連呼が一番効果的なことは、実際に選挙をやってみればわかると強調されている。
うーむ。おっしゃることはよくわかるが、それでも、私は「連呼」、もっと言えば、選挙カーでの選挙運動、いや、さらに現行の選挙制度そのものにまで、疑問を持っているのだよね。
連呼をすれば、候補者の名前はいやでも有権者の脳みそに刷り込まれる。そして、商品が宣伝で売れるように、政治家も宣伝で当選するということなのだろう。ただ、選挙というのは、その宣伝の仕方の 「しばり」 ががんじがらめになっていて、今あるやり方以外の方法が、事実上できないようになっている。
どこかのサイトで、名前の連呼をするよりも、「選挙カーに大型液晶パネルを付けて、政策のプレゼンをする方が効果的」というアイデアを見たことがあるが、多分、これは公選法に違反するとかなんとか、難癖を付けられるだろう。なにせ選挙運動にインターネットを使うことすらできないんだから。
要するにこの国では、「連呼」に限らず、「選挙そのもの」が迷信で成立しているようなものだ。現行の公選法こそが、最も強力な「守旧ファクター」だと言うほかない。
馬鹿馬鹿しい公選法ギリギリのグレーゾーンでの運動を展開するスリルを、候補者やその関係者があたかもサバイバルゲームのように楽しんでいる。まあ、確かにゾクゾクするほど興奮するだろうな。自分が立候補しているわけでもないのに、選挙になるとアドレナリン出まくりで楽しんじゃってる人もいる。そうした人を、私は何人も知っている。
で、そうしたグレーゾーンの運動を指導する選挙のプロが、幅をきかせるようになっている。選挙制度が変わってしまったら、彼らの存在価値がなくなってしまう。だから、現行の妙ちくりんな選挙制度は、彼らにとって、最大の「既得権」なのだ。ものすごい構図である。
私自身、選挙権の行使は大切だという建前に立脚して、選挙の度にきちんと投票してはいるが、その投票という行動は、はっきり言って空しい。ものすごく空しい。ああ、空しいとも。こんなんで、空しくないわけないじゃないか。悪いけど。
少なからぬ人が 「投票なんかしたって、何も変わりゃしねぇよ!」 と言いたくなる気持ちも、痛いほど理解できる。この構図に手を付けないで 「皆で投票しましょう」なんて呼びかけても、そりゃ、単なるきれい事で、投票率なんか上がるわけがないのである。
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コメント
お邪魔します。がんなむぅです。
得票数の選別より、有権者の何%をメインにすれば、「〇山×夫を…」よりも、「皆様、是非投票にお出かけを…」などという展開になっちゃいますかねぇ…?
(すみません。酒の上の狼藉であります)
投稿: がんなむぅ | 2007年4月20日 00:59
同感ですよ。指摘が冴えている。今後も拝見します。
投稿: バードマン | 2007年4月20日 23:10
不思議なもので、選挙事務所にはこんな電話がかかってきます。
『あんたんとこの選挙カー、うちに全然回ってこないわよ! うちの地域はどうでもいいってことなの!?』
必死でがんばっている姿を見せろというのです。
お怒りになっているのは大概はおばさまかおばあさまです。
世代の違いでしょうか。驚かされます。
投稿: 通りすがり | 2007年4月21日 22:00
通りすがり さん:
>不思議なもので、選挙事務所にはこんな電話がかかってきます。
>『あんたんとこの選挙カー、うちに全然回ってこないわよ! うちの地域はどうでもいいってことなの!?』
すごいですね。
私には、「うちの地域はどうでもいいってことなの!?」 ってことが重要ポイントのように思われます。
自分の居住地域が軽んじられるのは我慢できないという 「エゴ」、さらに、よく選挙カーの廻る地域への 「羨望=嫉妬」 から発しているんじゃないでしょうか。
私なら、選挙カーが来ないということは 「静か」 ということなので、大歓迎なんですけどね。
投稿: tak | 2007年4月22日 05:59
バードマン さん:
ありがとうございます。
今後ともご贔屓のほどを。
投稿: tak | 2007年4月22日 06:01
がんなむぅ さん:
あれ、がんなむぅさんのコメントにレスを付け忘れてた。
(ごめんなさい m(_ _)m)
と言っても、やっぱりきこしめしてらっしゃるようで、なんだか、レスのしようが…… ^^;)
投稿: tak | 2007年4月24日 16:42
選挙の仕事をしたことありますが、選挙カーの街宣には一定のセオリーがあります。
逆に「これを言ったらダメ」みたいなルールはあまり聞いたことないです。時間くらい。
で、セオリーというのは、まぁ普通に考えればわかることですが、車が止まっていれば「名前を織り交ぜながら選挙区や細かい政策」を、渋滞中は「同じ内容を話さずより多い内容を」、ノロノロの場合は「名前と選挙区とおおまかな政策」を、速度が速い場合は「名前と選挙区を連呼」です。
とにかく「○○が○○選挙区で出馬してる」という事実を知らせることがひとつ。もうひとつは、「この地域にわざわざ出向いてお願いにきた」という印象付け。です。
「連呼してやかましいからお前には入れない!」って言う人のほうが実はまだまだ少数派なのです。選挙活動の基本的目的は、走ったルート沿線にいた人に「ここに○○が挨拶に来た」と刷り込めればそれでとりあえず第一段階の目的達成です。
効果のほどは私にはわかりませんが、長年やってデータを取った上でのノウハウですから、たぶん一番効果があるやり方として確立してるんだと思いますよ。
投稿: ho | 2007年7月26日 23:54
ho さん:
おっしゃることは、とてもよくわかります。
その上で、なお、
>「連呼してやかましいからお前には入れない!」って言う人のほうが実はまだまだ少数派
>長年やってデータを取った上でのノウハウ
ということが、それほどまでに圧倒的な事実であるかどうか、とてもとても疑問なのですよね。
だって、フツーの会話では連呼に関して、「また選挙だ、うるさくなるぞ」 ということ以外には聞いたことがありませんから。
ちなみに、
>逆に「これを言ったらダメ」みたいなルールはあまり聞いたことないです。
ということで、「連呼しかしちゃいけない」 という 「迷信」 は、現場レベルでは薄れてきているのだということがわかりました。
貴重な情報、ありがとうございました。
投稿: tak | 2007年7月27日 07:47
>ということが、それほどまでに圧倒的な事実であるかどうか、とてもとても疑問なのですよね。
>だって、フツーの会話では連呼に関して、「また選挙だ、うるさくなるぞ」 ということ以外には聞いたことがありませんから。
選挙カーで大声連呼した場合と、何もやらなかった場合、もしくは徒歩や自転車だけにした場合とでは、地元の反響や得票数として差があきらかに出てるんじゃないでしょうか。これは現場の人間にしか見えてこないデータなんだと思います。
選挙カーに乗ってみるとびっくりしますよ。
私も最初は「ウルセーばか!」とか怒鳴られることがあるのかと思ってたのですが、実際は、家から飛び出してきて手を振るような方がいっぱいいるんです。
深夜にうっとおしいほど連続で繰り返されるCMあるでしょう?
我々は「うっとおしい!逆効果だろ!」って思うけど、
実際はあれで無意識に商品名がスリこまれて実際に購入する人がたくさんいるわけです。
印象に残る人0
嫌悪感を抱く人0
よりは、
印象に残る人5
嫌悪感を抱く人5
の、広告宣伝のほうが成功なわけです。
選挙も広告も、決められたワク内で最も効果的な方法が、プロの手により戦略的に行われています。我々が感じてるほど単純ではないようですよ。
自転車で遊説してる方いるでしょう?我々は「ああやって自転車に切り替えたほうが好感持てるし効果もあるよ!みんな自転車にすればいいのに」って思いますけど、実際は自転車の機動力じゃ見かける確率がめちゃくちゃ低い。選挙運動としてはあまり効果がないってことです。
で、結局、選挙カーで名前連呼しながら広域を回る・・この方法に落ち着くわけです。
>「連呼しかしちゃいけない」 という 「迷信」 は、現場レベルでは薄れてきているのだということがわかりました。
具体的な法律は知りませんが(運動員の大半は知らない)かなりゴリ押しなことやっても、選挙活動ならお上には咎められないようです。
道交法も、選挙カーはほとんど治外法権だそうで、警察も「選挙妨害で訴えられるとまずい」ということでめったなこと以外は黙認するそうです。
だから交差点の真ん中で路駐して街頭演説ができるんですよね。
普通はあんな道路使用許可なんてどう転んでも出ないですから。
候補者は助手席でもシートベルトしなくていいようです。(んなアホな)
投稿: ho | 2007年7月31日 02:56
ho さん:
>選挙も広告も、決められたワク内で最も効果的な方法が、プロの手により戦略的に行われています。我々が感じてるほど単純ではないようですよ。
プロにとっては単純でなくても、私は単純なことを言ってるんです。
例えば人口 5万人の選挙区で、5千票得て当選するための最も効果的な手法によって、少なくとも約 3万人ぐらいからはうっとうしがられているんだということで、そのあたりの感覚のズレですね。
投稿: tak | 2007年7月31日 07:39
ズレといえばズレですが、要は彼らはたくさん得票を得るために活動しているわけであって、万人に好かれるためにやってるわけではないわけです。
他候補者よりもたくさん票をもらうために、過去の経験上、一番効果的と思われることを実践してるだけで、「大多数の市民に嫌われようが受かればこっちのもの」的な思考が働いているんだと思いますよ。
助手席の候補者も「朝っぱらからコレはうるさいわな」と言ってます(笑)
でも受かるためにやってるわけです。で、実際受かるわけです。これが現実です。
投稿: ho | 2007年7月31日 09:35
>「大多数の市民に嫌われようが受かればこっちのもの」的な思考が働いているんだと思いますよ。
大変よくわかります。
そのあたりが、公職選挙法のもたらす「へんなとこ」ですよね。
投稿: tak | 2007年7月31日 10:14