羊とプードルとフリースの三題噺
まったくもう、確かに笑ってしまったけれど、こういう話は、来年のエイプリルフールまで取っておいて欲しかったなあ。
何かというと、「日本でプードルと偽ってヒツジが大量に売られている」 という記事である。あるネット通販会社がイギリスやオーストラリアから日本に向けて輸出していたという。
話が一部錯綜しているのだが、要約すれば、女優の川上麻衣子がテレビのトークショー(フジテレビ 「ライオンのごきげんよう」との説が有力)で、友人がインターネット通販で買ったトイプードルが、実は毛を刈り込んだ羊だったという話を語ったというのである。
そして、イギリスの大衆紙 "SUN" では、川上麻衣子自身がだまされたと報じられてしまっていて、さらに「これが放映されるや、何百人もの女性が同様の被害を警察に届け出、警察当局は被害者は 2,000人にのぼるとみている」(訳は Tokyo Fuku-bog による)というのである。(参照 - 写真が傑作なので、一見の価値あり)
ああ、やられたなあ。私の今年のエイプリルフール・ネタよりも、少しだけ手が込んでるじゃないか。よし、来年はこれを上回るネタを仕入れよう。(事実よりも大きなおっぱいを大切にする "SUN" は、毎日がエイプリルフールみたいなものだけど)
で、ジョークを 「このネタが、どうしておもしろいかっていうとね ……」 と説明するのは野暮の極みなのだが、まあ、行きがかり上、せっかくだからちょっとだけ解説させていただこう。
このネタが、日本ではともするとマジに受け取られるほどに、あるいは都市伝説に高められるほどにツボにはまってしまったのは、ひとえに日本人が「羊」という動物に馴染みがないからである。
"SUN" を毎日読んでいる英国人なら、いくらなんでも羊とトイプードルを間違えるはずがないので、すぐにジョークとわかるのだが、日本人には、このジョークが通じなかったりするのだ。(SUN も記事中で、「日本では羊が『レア』なのでだまされやすかった」と、珍しく本当の指摘をしている)
というわけで、私ののサイトの「なぜ、日本人は羊を数えても眠れない?」というコラムを思い出して頂きたい(まだ読んでいない方は、是非読んでもらいたい)。私はそこで、日本人は眠れない夜に、頭の中で羊なんていう馴染みの薄い動物を想像して律儀に数えたりなんかしたら、ますます脳が緊張を強いられて、目が冴えてしまうと指摘している。
ことほど左様に、日本人にとって羊は「エアポケット」のような存在なのだね。件のジョークがかなりマジに受け取られたということで、私の 「日本人は羊に馴染みがない」説は、かなり補強されてしまったようだ。
英国からみると、日本人は "L" と "R" の発音だけでなく (ちなみに、カタカナでは両方とも「ラム」だが、"ram" は「牡羊」で、"lamb" は「子羊」)、プードルと羊の区別もつかない民族ということになってしまった。羊は犬と違って、蹄(ひづめ)のある動物なのだということも忘れられるほどに。
で、もう一つ、これは英語でないと通じない洒落なのだが、「フリース」という言葉である。「フリース」 - "fleece" というのは、ユニクロのフワフワした材質のジャケットで有名になってしまったが、元々の意味は、刈り取られた羊の毛のことである。
羊の毛はバリカンで刈り取ると、絡まり合って、まるでフリースジャケットみたいな状態になるのだ。で、"fleece" という言葉には、もう一つ、スラングだけど、「だまして巻き上げる」という意味もある。
それで、"METRO" の方の記事のタイトルは、"Dog owners 'fleeced' in poodle scam" (犬の持ち主は、プードル詐欺に「フリース」で丸め込まれてしまった)ということになったわけなのだね。要するに、この記事は「羊とプードルと、フリースの三題噺」だったのだ。(ああ、ジョークを説明するのって、疲れる)
まあ、同じ大衆紙でも、"METRO" の方が "SUN" よりもちょっとだけオシャレというのも、この見出しでうなずける気がする。
【5月 1日追記】
このネタには余話があるので、お時間があればご参照のほどを。(「羊とプードル」 ネタの余話)
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コメント
サイコーですねぇ、こんなに笑ったのは何年ぶりでしょうか。サンの記事も参照しましたが、涙が出るほど面白かった。信憑性がイマイチ不明だけど、真偽のほどはしばらく待ってみます。ハエトリリボンでは当方、簡単にだまされました。こういう話を拾ってこられたセンスにも敬服しています。
投稿: バードマン | 2007年4月29日 22:00
バードマン さん:
笑って頂けて幸いです。信憑性に関しては、ウソに決まってますがね (^o^)
以下、言わずもがなのことですけど。この詐欺の収支が、割に合わない理由です。
2000頭以上もの子羊を通関させる業務の煩雑さと、検疫などを終えて実際に入手できるまでの手間は、大変だろうなあ。
もし正規の通関手続きを経ない密輸だとしたら、大量の生き物を英国やオーストラリアから運んでくるだけで、かなりのリスクとコストだろうなあ。
羊の毛をプードル風にカットできる技術者 (犬でできても、羊でできるわけじゃない) を探し出して雇うだけで、かなりの手間とコストがかかるだろうなあ。
羊は決まった場所に排泄するしつけができないから、出荷するまでのウンチとオシッコの処理で、大変なことになるだろうなあ。
投稿: tak | 2007年4月30日 10:02