「親学」 につっかかるメンタリティ
教育再生会議が 「親学」 なんてものを軽はずみにもまとめちゃったもんだから、ほおら、やっぱりお約束の非難囂々が始まって、最終的には提言見送りになってしまった。
しかしその内容は、私がみるところでは、そんなにひどいものではない。これを悪し様にいうメンタリティの方が、むしろおもしろい。
とりあえず、"「親学」 提言のポイント" なるものをレビューしてみよう (以下、毎日新聞の記事より)
- 子守歌を聞かせ、母乳で育児
- 授乳中はテレビをつけない。5歳から子どもにテレビ、ビデオを長時間見せない
- 早寝早起き朝ごはんの励行
- PTA に父親も参加。子どもと対話し教科書にも目を通す
- インターネットや携帯電話で有害サイトへの接続を制限する「フィルタリング」の実施
- 企業は授乳休憩で母親を守る
- 親子でテレビではなく演劇などの芸術を鑑賞
- 乳幼児健診などに合わせて自治体が「親学」講座を実施
- 遊び場確保に道路を一時開放
- 幼児段階であいさつなど基本の徳目、思春期前までに社会性を持つ徳目を習得させる
- 思春期からは自尊心が低下しないよう努める
これって、そんなに悪し様に言われるほど、ひどいことかなあ。まあ、取り立てて素晴らしいことでもなく、「なるべくそうした方がいいんだろうね」 という程度のことで、レトリック的には、ちょっと気恥ずかしいものもあるが。
確かに、細かいことを言い出せばいろいろあるが、だからといって正面切って噛みつく方が、私にはより恥ずかしい気がする。それに、こうした諮問会議の中身なんて、議事録を眺めてみるとそんなに立派なものじゃないというのは、なにも「親学」に限った話じゃないので、それはまた別の次元のことになる。
まず、総論的な批判の典型は、「子育てのマニュアル化」というものだ。しかし、この程度のものを「マニュアル」だなんて言う人は、本当のマニュアルがどんなものか知らない人なので、この批判は論外。単なる感情論に近い。
それから、「そんなこと、政府に言われたくない」というのも、あまり論評に値しない、単なる感情的態度。子育てに関して政府が何か言えば、この程度のものになると決まっている。それが嫌なら、無視しておけばいい。
あるいは、似たようなことを秋山ちえ子さんが言ったら (もしかしたら、いくつかはおっしゃりそうなことではないか)、ありがたく拝聴するのかもしれない。(秋山さん、妙なところで引き合いに出して、ごめんなさい)
それから、揚げ足取り。例えば、"「テレビでなく演劇」というが、オペラやバレエはだめなのか" なんてブログで発言している人もいたが、これは、かなり恥ずかしい言いがかりだ。
文言には「演劇など」とちゃんと書いてある。この種の文章の「など」というのは、馬鹿にしちゃいけない。魔法の言葉なのだ。だから、法律とか何とか規定とかのテキストは、「○○等」という言い回しのオンパレードである。
目立ったのは、「母乳がいいのはわかっているが、体質的に母乳の出にくい人の立場が考慮されていない」という指摘。これは多分、一番言いやすいクレームだろう。
しかし、憲法 9条に関する 「平和がいいのはわかってるが、攻撃されたときのことが考慮されていない」という指摘は、多分ナンセンスとして無視するのだろうなあ。
まあ、憲法 9条は、「美しき努力目標」なのであって(実際には、軍備だって持ってるし)、運用で処理されているのであり、それを考えれば、「母乳で子育て」だって似たようなものだ。同じ「美しき努力目標」でも、「平和」は無条件でいいが、「母乳」はナンセンスということになるのが、私には不思議である。
要するに、政治的なテーブルで論議し始めると、何が正しくて(あるいは妥当で)、何が間違ってるか(あるいは妥当でないか)というのは、立場によってコロコロ変わるのだ。私はそういうのには、なるべく関わりたくないと思ってしまうのだよね。
ちなみに、私の妻は 3人の子供を母乳だけで育てて、人工ミルクは一滴も飲ませてないというのを、内心誇りにしてるのだが、決して母乳の出ない人を差別しているわけじゃないので、そのあたりよろしくね。
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コメント
自分も反感を覚えたのでカラクリを解明してみたいと思います。
おっしゃる通り内容事態は問題ないのですが、
発言している立ち位置が悪いと思います。
子育てをしている親の発言でしたら、微笑ましいものです。
企業や一個人なら、さらっと流してしまえます。
しかし、学者連中が言うのなら、許しがたいのです。
親学と格式ばったタイトルを取るからには、
かなりしっかりした土台が必要です。
各項目の根拠はある程度あるのでしょうが、
達成に向けての努力が親に丸投げではないでしょうか。
そこまでフォローしなければ説得力がありません。
説得力のない提案に「親学」では頭でっかちです。
名前に頼って押し通そうとしているように
見える故に、反感を買ったのではないでしょうか。
投稿: 夜の指揮者 | 2007年5月24日 00:07
こんばんわはじです
内容もあるでしょうが最近ヒステリックな、もしくは挙げ足取りが好きな人間が増えたような気がしますね
あちらの世界では
「言い掛かりは8〇3の華」とか言うらしいですが、どうも最近では一般人(主にマスメディアかな?)も変わらないですね(;^_^A
いちいち騒がないと気が済まないんでしょうか(笑)
投稿: はじ | 2007年5月24日 02:52
夜の指揮者 さん:
ごめんなさい。おっしゃる意味が今イチよく伝わってきません。
>しかし、学者連中が言うのなら、許しがたいのです。
教育再生会議の諮問委員のメンバーをみると、いわゆる学者は半分以下のようです。
「企業や一個人」の立場と思われる人もかなり混じっていますね。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouiku/kousei.html
私は、このメンバーが「教育関係の有識者」として日本を代表して諮問するにふさわしいかどうかというのは、疑問に思っています。
(で、この程度の当たり障りのない内容になるのも、仕方ないかなと思っているわけです)
投稿: tak | 2007年5月24日 11:25
はじ さん:
夜の指揮者 さんのおっしゃるように、「親学」なんてタイトルをつけたのがいけなかったんでしょうかね。
妙に反感を買って集中砲火に近い状態になったようです。
似たようなことでも、言われた相手によって反応が変わってしまうというのは、なるべく避けたい態度だと、私は思ってます。
(ただし、よっぽどの場合は「お前が言うか!」とツッコミを入れたくなることもありますけどね ^^;)
投稿: tak | 2007年5月24日 11:44
「何を今更、お前らが言うな」的な反感を買ったわけですね。
そもそも、育児論、親のあり方、等の書籍はそれだけで1棚埋まるほど
本屋に並んでいるわけで、気にしている親は買ったりしています。
気にしない人は買わないわけですが、その人たちは「親学」もおそらく
スルーされると想像できるので・・・
はっきり言って、今更「親学」なる物をぶち上げる価値はほぼゼロです。
「そんな理屈はわかってるんだよ」という声が聞こえてきそうです。
むしろ、それを実行する為にどうすればいいのかで悩んでいるわけです。
・国、自治体、企業などの指導、協力、法整備
・ノウハウの科学的裏付け、統計
・育児放棄したくなる親の心のケア、サポート体制作り
のような物であれば、もっと歓迎されるはずです。
つまり、内容は二の次として「親学」をぶちあげる時点で、
親の現状を理解していないという事が丸わかりなわけです。
投稿: bono | 2007年5月24日 12:49
bono さん:
>つまり、内容は二の次として「親学」をぶちあげる時点で、
>親の現状を理解していないという事が丸わかりなわけです。
なるほどね。
確かにそういう受け取り方もありますね。
「いい気なもんだ」ってな感じね。
投稿: tak | 2007年5月25日 00:41
お邪魔します。がんなむぅです。
我が家内、我が子の奮闘を記述します…(そこはかとなく私も)。
そもそも、母乳で育てたいと思っていた家内(と私)ですが、若干母乳の出方が悪かったと見えて、(小僧の)体重の増え方に問題がありました。
1ヶ月検診で、「体重の増え方が良くないので、(人工)ミルクを足しましょう」と宣告され、実際にやってみました!
【オッチャン体験記】
哺乳瓶に規定量作って(約60℃)、しっかり冷まして温度もばっちり!
いざ哺乳瓶を咥えさせて、「コクッ」としたその後…。口の端からミルクをこぼし始めました。
慌てて哺乳瓶を放し、口の周りをガーゼで拭いているときに…、
「スー、スー…。」
と、寝ているではありませんか!(ウチの小僧ったら!)
結局、人工ミルクが気に入らなかったため、ほぼ100%母乳で育った、ウチの小僧です。
長々と、申し訳ありません。今件はしっかり語ってみたくなりました!お付き合い下さい。
当然、仕事と育児の関係とか、手を尽くしたけど母乳が出ないとか、『母乳で育てられない環境』はあると思います。
いかに、愛情を注ぐか!母も父も、垣根はありません!
先生や、有識者に食って掛かる前に、「自分は責任転嫁していないか?」それを検討して下さい!頼みます!
(本当に長々とすみません)お願いします!!!
投稿: がんなむぅ | 2007年5月25日 00:51
上に自分で書いた内容とかなり被っております(w
「事件は現場で・・・」の回と共通するものがあるのですが、
えてしてお偉方、学者と呼ばれる人たちは
「●●は▲▲という研究結果が出た」「よって、◆◆すべきである」
というような提言をしがちです。しかしながらそれでは、
「良い会社に就職する為には良い大学に行くべきだ」
と親が言うのと同レベルです。それは大半の人が解っている事であって
しかもなかなか実行できないことでもあります。
そうすべきとわかっているのに出来ないのは何故か、その原因の追求と
克服の為のさまざまなアプローチ、「そこに至る道の探索、開拓」こそ、
凡人が頭の良い人に望むことなのです。
しかしながら、彼らは凡人が達している段階すら理解していません。
投稿: bono | 2007年5月25日 12:56
がんなむぅ さん:
>いかに、愛情を注ぐか!母も父も、垣根はありません!
>先生や、有識者に食って掛かる前に、「自分は責任転嫁していないか?」それを検討して下さい!頼みます!
これですね。これ。
昔の人は、母乳なんて 「気合い」 で出したもんです!
(どうしても出の悪い人もいることは、承知してますんで、乱暴な言い方、お許しあれ)
投稿: tak | 2007年5月26日 01:22
bono さん:
>えてしてお偉方、学者と呼ばれる人たちは
>「●●は▲▲という研究結果が出た」「よって、◆◆すべきである」
>というような提言をしがちです。しかしながらそれでは、
>「良い会社に就職する為には良い大学に行くべきだ」
>と親が言うのと同レベルです。
お言葉ですが、果たしてそうかなあ。
なんだか、論理の建て方にちょっとだけ無理がありそうな気がします。
>そうすべきとわかっているのに出来ないのは何故か、その原因の追求と
>克服の為のさまざまなアプローチ、「そこに至る道の探索、開拓」こそ、
>凡人が頭の良い人に望むことなのです。
「そうすべきとわかっているのに出来ないのは何故か」
それは簡単です。「しないから」です。
その人にとって、「しない方が楽」 だからです。
しかしながら、各人の実行力のリソースには当然ながら限りがあり、その優先順位は人それぞれですから、よっぽどアホなことにかまけて、大事なことをおろそかにするのでない限り、責めようとは思いません。
それでも、取り返しの付かないことというのも、確かにあるので、それは優先順位を上げといてもらいたいなあという気もします。
投稿: tak | 2007年5月26日 01:45