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2007年6月 8日

「エビ」の字をめぐる冒険

近頃まで「エビ」という字は「海老」と「鰕」の 2文字しか意識していなかったが、かの「エビちゃん」のおかげで、「蛯」という字もあったのだと思い出した。

さらに「蝦」なんていう字まである。また、「蛭」は 1文字では「ヒル」だが、「蛭子」と書くと「えびす」になるから、複雑だ。

私は、 「海老」 は大きな "lobster" で、 「鰕」 は小さな "shrimp" だと理解していたが、それは当たらずといえども遠からずだったようだ。複数のサイトを当たって確認してみたのだが、「海老は大きな歩くタイプ、蝦は小さな泳ぐタイプ」(参照) という点で共通している。なお、中くらいのエビ (手長エビや車エビ) は、英語では  "prawn" になるのだそうだ。

中華料理では、大体「蝦」の文字が使われるらしく、これが元々の漢字であるらしい。また、「鰕」も漢字である。日本では「海老」と書き慣わして、後に「蛯」という字を作ってしまったらしい。

つまり、「蛯」というのは、日本で作られた漢字 - 「国字」で、これに関しては、「作業メモとか考えた事とか」 の "もじもじカフェ「日本生まれの漢字たち」" というエントリーに詳しい。以下に引用させていただこう。

室町時代の手紙の文例集「庭訓往来」に、「螧」という字が出てくる。旁の「耆」という字は「おきな」とも読む字。これが江戸時代の初期に、「蛯」に変わったらしい。識字層が拡大して 「耆」 の字を知らない人が増え、「老」 で意味が十分であると見なされたようである。宮崎県に「蛯原」、青森県に「蛯名という姓が生まれる。「節用集」 という辞書で明治初期に使われた例を調べると「蛯」である。

なるほど、上記のリンク先をみると、エビちゃんは宮崎県生まれということで、また、競馬の騎手の蛯名正義は北海道出身とある(参照)。蛯名家の先祖が、青森県から北海道に渡ったものと考えられる。歴史というのは侮れないものである。

で、 「海老」と「鰕」だが、歌舞伎の世界におもしろいエピソードが伝わっている。

安永 (1772~81) から寛政期 (1789~1801) にかけて活躍した五代目市川団十郎は、51歳にして息子の海老蔵に六代目団十郎を継がせ、自らは 「市川蔵」 と改名した。四代目以前の団十郎は、名跡を譲った後は「海老蔵」になるのが恒例だったが、彼は謙遜して、「鰕蔵」を名乗ったのだった。

その際、「祖父は名人、親父は上手。いずれも江戸の飾り海老にござりますけれども、私儀はほんの天鰕(ザコエビ)でござりますれば、魚偏に段の字を書て、鰕蔵にござります」 と、口上に述べたと伝わっている。

団十郎ともなると、謙遜してなおかつ粋である。そしてこの辺りからも、「海老」は lobster で、「鰕」は shrimp という感覚が伝わってくる。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

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