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2007年7月16日

「ハンドル投げ」 をめぐる冒険

「ハンドル投げ」という言葉をご存知だろうか? 初めて聞いたときは、私の頭の中にも「?」の文字が 50個ぐらい渦巻いた。

ある時カーラジオを付けたら、たまたま競輪の中継で、ゴール直前のクライマックスにさしかかっている。そしてゴールの瞬間、アナウンサーが「ハンドル投げー!」と叫んだのだ。

その瞬間、私は勝った選手が嬉しさのあまり、自転車のハンドルを引っこ抜いて観客席にぶん投げてしまったのかと思ったが、いくらなんでもそれは違うようだ。そんなに簡単に引っこ抜けるハンドルでは、危なくてしょうがない。じゃあ、一体何なのだ?

競輪ファン以外の者で 「ハンドル投げ」 なんて言葉を知っているものはほとんどいないだろうが、アナウンサーはお構いなしで、この業界用語の説明なんて一言もしてくれない。考えてみると、スポーツ中継のほとんどは、特殊な用語の説明なんて全然しないのである。

思えば、私は野球中継を聞いていても、「チェンジアップ」の何たるかを知らなかった。競馬中継を聞いていても「こずみ」の何たるかを知らなかった。しかし、なんとなく当たらずとも遠からずという感じで想像することはできる。

「チェンジアップ」は、普通のストレートボールとは目先を変えた変化球なんだろうし、「脚に『こずみ』が出ている」と聞けば、何となく違和感があるのだろうなとはイメージできる。そして、今日、上記でリンクするために調べてみたら、ほぼ想像していたとおりの意味だった。

しかし「ハンドル投げ」に至っては、いくら何でも表現がぶっ飛び過ぎで、わけがわからない。で、家に帰るまで、この「ハンドル投げ」とは何ぞやということが、頭の片隅にひっかかって離れない。私は言葉関係には案外しつこいのである。

インターネットで調べると、「ゴール前にハンドルを両手で突き出すこと。若干だが前に伸びるため、接戦時には有効的だがタイミングが難しい」という解説が見つかった (参照)。なんだ、「投げる」んじゃなくて、「突き出す」んじゃないか。

しかし、本当にハンドルを両手で突き出したところで、伸びが期待できるんだろうか? 自転車がゴムのように伸びるわけじゃあるまいし。

しかし、私は理数系はからきしだから、確かな根拠があって言うんじゃないが、多分、本当に伸びるんだろうと思う。

ハンドルを突き出すような動作をすると、自転車の前輪の斜め上から前方下に向かうベクトルがかかる。このベクトルが前輪の中心を越えるとき、前進方向の加速力に変換されても不思議はない。自転車は後輪駆動で動くが、瞬間的に前輪の方にも駆動力がかかったような形になるんじゃなかろうか。

車輪の回転と上下のベクトルというのは、これとは少し違うが、自動車を運転していても実感することがある。路面に盛り上がりやコブがある時、それを越えた瞬間に、わずかにアクセルをふかしてやると、バウンドを感じないでスムーズに進行することができる。

コブを越えて、車体が一瞬沈みかける瞬間、アクセルをふかすと、前輪 (最近の車の多くは前輪駆動なので)のトルクが上がり、それで上から下に向かうベクトルが地面に伝わるので、沈み込むベクトルと相殺して、バウンドしないで済むのだ。

これとやや共通した力学で、多分自転車もわずかに伸びを見せるんだろうが、それでも、この「ハンドル投げ」というテクニックは、微妙である。ゴールラインを越えてしまってからハンドルを突き出しても意味がないし、あまり手前でやると、体が伸びきってしまうので、一瞬後には減速してしまう。

プロのテクニックというのは、なかなかスゴイものである。

ところで、私は言葉としての「ハンドル投げ」は、やはり「あんまり」だと思う。「ハンドル突き出し」とか「ハンドル押し」とか言う方が正確だろうと思うが、語感があまりよろしくないというなら、せいぜい「ハンドル・プッシュ」とか 「ハンドル・チャージ」(「取扱手数料」(handling charge)みたいだけど)とか言えばいいのに(完全に和製英語だけど)。

英語では自転車のハンドルは "handlebar" なんだけど、この際、固いことは言わない。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

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