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2007年7月24日

鹿児島弁の都市伝説

3年前に、「鹿児島弁は本当にわからない」 という記事を書いた。今では相当年配の人でないと、「本当にわからない鹿児島弁」 は話さないそうだが、「本当にわからない鹿児島弁」は、本当にわからないのだ。

で、その鹿児島弁だが、「わざとわからなくしてあるのだ」という都市伝説がある。

で、困ってしまうのだが、鹿児島出身者ほど、「いやあ、鹿児島弁って、本当にわからないですね」と言われると、「いや、実は、あれはわざとわからなくしてあるんですよ」と、得々として応える傾向があるってことだ。

「あれは薩摩藩時代に、よそ者が入ってきてもすぐわかるように、そして、幕府の隠密に情報が漏れにくいように、わざわざ鹿児島以外の人間にはわからないような言葉にしたんです」というのである。いかにももっともらしく聞こえる話なのだが、あまりにもマジに語られると、私なんか、返事に困ってしまう。

ちょっとフツーに考えてもらいたい。

鹿児島の人たちは、元々はもっとわかりやすい言葉を使っていたのだが、島津の殿様が、「こんなにわかりやすくては、情報がダダ漏れじゃ」と危惧して、わざわざわかりにくい言葉を考案、奨励し、庶民の隅々に至るまでそれが受け入れられたなんて、そんなことがあり得ると思うか?

一般庶民に至るまで、人工のエスペラント語を日常会話に使うなんていうような夢物語に類したことが、実現できるわけないじゃないか。

それに、江戸とか上方の人間からしたら、鹿児島弁も庄内弁も津軽弁も、わからなさで言ったら、甲乙つけがたい。それでも、庄内や津軽の人間は「いやあ、ウチの言葉は隠密対策で、わざわざわからなくしてあるんです」なんてことは、絶対に言わない。

そもそも、昔は日本国中どこの田舎に行っても、よそ者が入ってきたら、言葉の違いですぐにわかったのである。幕府の隠密はどこに行っても、お国言葉をまともに使われたら、慣れるまでは苦労したのである。程度の差こそあれ、別に薩摩の特権的福音というわけじゃない。

また、公式情報の多くは文書で伝達されることが多く、江戸時代の書き言葉はいわゆる「~にて候」調の、とてもフォーマルな(型にはまった)「全国共通言語」だったから、いくらお国言葉をわかりにくくしても、あまり関係がない。

薩摩隼人でも文章を書くときは「忝(かたじけな)く存じ候」と書いて、「あいがともしやげもした」とは書かなかった(そんな古文書、見たことない)。言文一致は、明治中期まで待たなければならなかったし、それ以降も、方言で文章を書くという発想はなかなかなかった。(いどさんみたいな人は、貴重なのである)

日本中どこでも、お国言葉がよそ者に馴染みにくいのは結果論であって、「わざわざ人工的に操作して、わかりにくい言葉にした」なんていうわけじゃないのである。薩摩や津軽は、たまたま中央から遠かったから、言葉も一番わかりにくくなったというだけのことだ。(ウチナアグチは、もっとわからないけど)

それに、「意識的にわかりにくい言葉を奨励している」なんてのは、そんなことが漏れたら、わざわざ「我が藩は危険分子でごわす」と宣言しているようなもので、あまり利口なやり方ではない。

それでは、どうして鹿児島出身者だけが、そのようなファンタジーを言い出したのか。私は明治政府の創立期にその由来があるのだと想像する。

薩長土肥の出身者が要職を独占した明治政府において、薩摩出身者は、とくにお国言葉がきつかった。それで負け惜しみみたいに、「わざとわからなくしてあるのだ」と言い張っていたのが、いつの間にか一人歩きしてしまったんじゃないかと思うのだよ。

東北出身者だって、お国言葉のきつさは決して負けちゃいないのだが、何しろ、明治政府の中枢にもぐり込む破目になるような心配はしなくて済んだから、そんな負け惜しみ的言い訳をする必要がなかったのだ。

失うものを持たない者は、気楽である。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

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コメント

なにいってんだお前?
鹿児島弁をあえてわかりにくくしたなんて言ってる奴みたことも聞いたこともねえから
ほら吹き乙

投稿: あ | 2012年9月23日 15:20

あ さん:

あんたが無知なだけ。

http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1212116612

http://www.hot-kagoshima.com/dialect/dialect_index.html

口の利き方に気をつけな。

投稿: tak | 2012年9月23日 21:15

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