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2007年7月21日

ファッションとウェブのお話

昨年の 5月 12日 「ファッションとウェブは、水と油」 というエントリーを書いた。要するに、ファッションはビジュアルの世界で、ウェブはテキストの世界だと書いたのである。

で、このほど RinRin王国 経由で、「アパレル業界が web に手を出さない理由」という興味深い記事を見つけた。

この記事は、東京コレクションに参加しているデザイナー・ブランドを中心にして、彼らのウェブサイトがどんなものかを紹介している。

で、まず、驚くべきことに、52のデザイナー・ハウスのうち、公式ウェブサイトがみつかったのは、32しかない。たったの 61.5%。東京コレクションに参加するデザイナーのうち、3人に 1人以上は、ウェブサイトを持たないのである。

ほぼ、3人に 2人がウェブサイトを持っているんだから、そんなに驚くほどのことじゃないといえるかもしれないが、やっぱり、ちょっと変なんである。どんなに変なのかというと、上記の記事から、デザイナー達のウェブサイトに飛んでみればわかる。

はっきりいって、ほとんどのデザイナーのサイトは、極端にというか、異常に使い勝手が悪い。で、不思議なことに、その作りはとてもよく似ていて、非常に共通した使い勝手の悪さが際立っている。デザイナー・ハウス御用達みたいな感じの、同じ制作会社が作ってるんだろうと創造してしまうほどだ。

多くのトップページは、真っ暗闇の中でなにやらもぞもぞとフラッシュが動いて、ブランドロゴがようやく浮き上がってきたり、動いたりひっくり返ったり、消えたり現われたり、シンボルマークがくるくる廻ったりするだけで、ほとんど意味のない時間を取られてしまう。

で、フラッシュが動き終わっても、きちんとしたメニューが表示されないということが多い。何とか見当を付けてあちこちクリックしてみても、さらに画像(多くはコレクションのビデオか静止写真)がフラッシュでゆっくりと現われては消えるだけで、とにかく時間がかかる。「さっと見せてくれよ、さっと!」と言いたくなる。

とにかく、これらのウェブサイトは、「他のサイトになんか目もくれず、じっくりと時間をかけて付き合ってくれる人」だけを想定して作り込んでいるもののようなのだ。実際には、よっぽどのファン以外は(多分、10人中 7~8人は)、すぐに焦れてウィンドウを閉じてしまうだろう。

はっきり言って、ウェブの世界で常識とされる「見やすい構成」とか「わかりやすい表示」とか、「ユーザー視線に沿ったインターフェイス」なんてことは、ことごとく無視されている。ということは、ファッションの世界に馴染んでいない人にとっては、かなり「異様なサイト」ということになる。

まあ、あちこちクリックすればなんとか画面が変わるなら、まだいい。中には、トップページのフラッシュが終わると、それだけで他には何のコンテンツもない(もしかしたら、あるのかもしれないが、どうしたら表示されるのか見当もつかない)というサイトもある。一体、何のためにドメイン取得したんだ?

で、私はまた、したり顔に言いたくなってしまうのだ。「ほぉら、だから 1年以上も前に言ったでしょ。『ファッションとウェブは、水と油』 だって」と。ほんと、そうなんだから。

「アパレル業界が web に手を出さない理由」 という記事では、デザイナーがウェブサイトに関心を示さない理由は、「単純に web にかけられるお金がない」「ブランドコンセプトであえてweb に力を注いでいない」「大衆的なイメージをもたれたくない」という 3点ではないかと言っている。

デザイナーの多くが、金銭的にはそれほど潤沢じゃないことは確かだ。バブル以前なら、いろいろなスポンサーが付いて、どんどん資金を提供してくれたものだが、そんな「古き良き時代」はとっくに過ぎ去った。しかしそれでも、デザイナー達は、コレクション(いわゆる 「ファッション・ショー」ね)には、かなりの金をかけるのである。

ファッション雑誌の片隅に写真で紹介されるために、少なくとも数人のモデルをフィーチャーし、会場、ディレクション、音楽、設備、メイキャップ、ヘアメイク等々に、惜しげもなく投資するのだ。そんな投資に比較したら、今どき、気の利いたウェブサイトを作るぐらいは、お小遣い程度の金額でできる。

でも、それはしない。だったら、やっぱり「ブランドコンセプトであえてweb に力を注いでいない」とか、「大衆的なイメージをもたれたくない」ということなのだろうか。

まあ、この世の中には、ファイブフォックスのように、リクルートサイトしか持たないという大企業もあるぐらいだから、そうであっても不思議じゃないが、中小ブランドなら、ウェブで訴求しても、損はないだろう。

それに、大衆的なイメージを嫌ったようなそぶりを見せても、日本のデザイナー・ブランドの多くは、それほどエスタブリッシュメントに向けたファッションであるというわけでもないし。

というわけで、私はやっぱり、ファッション(とくに、東京コレクション系のデザイナー・ブランド)とウェブは、「馬が合わない」のだと思っている。親和性に欠けているのだ。

多分、デザイナー側はウェブ制作会社に、ロゴと画像をどっさり渡して、それで素材は提供したものと思っているのだろう。ところが、そこには「テキスト」が欠けているのだ。だから、制作会社としては、フラッシュで絵を動かすぐらいしか、できることがない。

雑誌なら、ライターという存在もいるし、また、端から順にページをめくらせさえすれば、何とか伝わるものがある。しかし、ウェブはそう単純じゃない。ファッション・デザイナー達は、ウェブ上で自分を表現するという手法を、ほとんど身につけていないように見える。

多分、服作りのように、みっちりと集中して作り込むということは得意なんだろうが、キャッチボールのように言葉をやりとりするインタラクティブな表現というのは、苦手なんだろう。

ウェブ技術が進化して、ファッションの感性を、ストレスを感じさせることなく表現することが可能になったら、「ファッションとウェブは水と油」というのは「過去のお話」ということになるのかもしれないが。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

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