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2007年9月 1日

日本語検定のコンセプトって?

昨日の当欄で触れた「日本語検定」だが、紹介した記事の中に出ていた 2級の問題例があまりにも難しかったので、どんなものなのか、公式サイトに行って調べてみた。

なにしろ、その記事のいうには、「受検者全体の合格率が 32.7%」という難関なので、興味をもってしまったのである。

ところが、公式サイトに載っている 「1級  社会人上級」 というページに出ている問題は、全然難しくない。中学生でもわかるんじゃないかというレベルだ。こんなんで合格率が  32.7%なんていったら、日本人のほとんどが日本語の不自由な人になってしまう。

多分、このページに出ている問題例は、受験者を増やすためにハードルを低く見せているんじゃあるまいか。だって、件の記事に載っている問題例は、次のような難問である。(以下引用)

【文の( )中に入る言葉として適切なものを一つ選びなさい】

◇今回のミスを(イ)として、早急に部内の体質改善を進める必要がある。

〈(1)奇縁(2)奇貨(3)奇特〉

◇元政治家が語った人物(ロ)は誠に興味深い。

〈(1)月旦(2)日旦(3)年旦〉

◇党内では、首相の(ハ)は必ずしも行われていないようだ。

〈(1)権威(2)威厳(3)威令〉

これ、公式サイトに載っているあまりにもとっつきやすい問題例と比較して、ギャップがありすぎる。あるいは、公式サイトではわざと易しい問題を紹介して受験者に油断させようとしているのかもしれない。合格率を下げて、検定の権威を上げようという魂胆だったりして。

で、記事で紹介された難問だが、自慢じゃないが、私自身は 3つとも正解してしまった。答えは、(2)、(1)、(3) である。「自慢じゃないが」 と断っておいたのは文字通りのことで、決して自信満々で答えたわけじゃないので、後でちゃんと辞書で確認しておいた。

ただ、「奇貨」だの「月旦」だの「威令」だのというのは、知らなくても全然恥ずかしくない。多分、99%以上の日本人は、一生使わずに済む言葉だ。さすがに ATOK ではすべて変換できたけれど、「奇貨」は何度変換キーを叩いたか数え切れない。

なるほど、こんな難問がぞろぞろ出てくるのなら、合格率が 32.7%というのもうなずける。ただ、そうなると、この日本語検定というもののコンセプトがわからなくなる。

日本語検定の公式サイトでは、この検定について、「自分自身の日本語をとらえなおし、日本語を正しく使えるようにするための一つの手立てとなること、それが願いです」 と、極めて漠然と説明してある。

はっきり言って、これではほとんど何も説明していないのと同じである。「実用的日本語を正しく使えるため」なのか、「日本語の蘊蓄を極めるため」なのか、さっぱりわからない。

公式サイトに紹介された問題例を見る限りでは完全に前者だが、件の記事で紹介された問題例を見ては、後者としか思われない。もしかしたら、「言語明瞭、意味不明瞭」を実現するための検定なのだろうか。

というわけで、日本語検定というもののコンセプトを、もう一度しっかり検討してもらいたいと思ってしまったのであった。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

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コメント

「奇貨」は法律関係の文章でよく見かけますが、ただ「甲の不在を奇貨として(甲になりすました)」とか、「登記簿上の権利者が、(実は既に権利がないのに)自分に登記名義があることを奇貨として」などと、専ら悪い意味で使われるようです。
なので、例文のように良い意味で使われているのはちょっと新鮮でした。多分、日本語的には良い意味にも悪い意味にも使われる言葉なのでしょうね。

思いがけず、「自分自身の日本語をとらえなおし」てしまいました(笑

投稿: Adrienne ◆HI8ebVe8lo | 2007年9月 1日 01:41

Adrienne ◆HI8ebVe8lo さん:

なるほど、「奇貨」 は法律の世界の人にはお馴染みの言葉だったんですね。

道理で法律用語って、わかりにくいわけだ ^^;)

投稿: tak | 2007年9月 1日 07:33

通りすがりの者です。
読んでいて気になったのですが
「敷居を~」の使い方間違ってませんか?

駄文失礼いたしました。

投稿: miu | 2007年9月 1日 11:23

miu さん:

>「敷居を~」の使い方間違ってませんか?

むむ、確かに。
「敷居が高い」と言うのが、気持ちの問題で「行きにくい」ということですもんね。

で、「ハードルを低く・・・」に訂正しておきました。
ご指摘、ありがとうございました。

投稿: tak | 2007年9月 1日 12:08

結果として3問とも正解でしたが、自信を持って答えられたのは「奇貨」だけでした……。「月旦」については読み方さえ分からず。それでも「なんとなく」で正解したのは私の日本語センスの良さのゆえだと信じたい!(笑)

投稿: 山辺響 | 2007年9月 3日 15:40

山辺響 さん:

>それでも「なんとなく」で正解したのは私の日本語センスの良さのゆえだと信じたい!(笑)

「月旦」以外は、消去法でいけますからね。

私は、逆に、「奇貨」は聞いたことすらなく、「月旦」は「人物月旦」という言い方を聞いたことがありました。

投稿: tak | 2007年9月 3日 15:50

「奇貨」の用法を調べていてこちらにたどり着きました。

「月旦」は、三国志を知っていれば結構おなじみの言葉です。
許子将という人物が、毎月初め(月旦)に人物批評を行なった事からきています。
曹操が「乱世の奸雄、治世の能臣」と言われているのは、許子将の発言が元なのです。

「奇貨」はむしろ「奇貨おくべし」という言葉の方が有名な感じもしますね。
私も法律分野で奇貨の語がよく使われるのを知ったのは、「奇貨おくべし」という言葉を知ってからかなり後でした。

投稿: mint | 2008年3月28日 22:26

mint さん:

かなり漢文に強そうですね。
私は、漢文にはややコンプレックスありなもので、ファンタスティックに見えてしまいます ^^;)

投稿: tak | 2008年3月29日 00:09

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