皆で完成させたものは、誰にも使えない
詳細は伏せるが、今日久しぶりで会った中小企業の経営者が、「最近、新しいビジネス・モデルが軌道に乗って、結構利益が上がってるんですよ」と言う。
彼は以前、某団体の主導した補助金事業のシステム開発に、委員として私とともに参加していた。
このシステム開発は、小売りセクターと下請生産セクターがコラボレーションして、効率的な商品開発をしながら短サイクルでの供給を実現しようという趣旨のもとに推進されたものだ。
小売りセクターと下請生産セクターが手を組むということは、本来その間に入っているいわゆる「メーカー」を抜いてしまうことだ。「問屋抜き」は今では珍しいことでもなんでもないが、「メーカー抜き」は、ちょっと画期的だ。
商品を売るのは小売店で、生産するのはメーカーである。しかし、実際の生産はいわゆるメーカーではなく、下請生産業者であることが多い。いわゆる OEM である。ただ、その下請生産がまったくの「言いなり」の下請けなのか、あるいは、自力の企画からスタートしたものなのかで、実態はかなり異なる。
最近では、メーカーは「下請けさん」がイチから企画生産したものを「拾い買い」するだけというケースが多い。じゃあ、それは「メーカー」じゃなくて、「ブランドを持った問屋」に過ぎないだろうということになる。だったら、賢い小売りセクターは、名ばかりの「メーカー」を中抜きして、下請けの工場さんと直接手を組むことになる。
問題は、以前私と彼が参加していたプロジェクトが政府からの補助金を得るために、業界から選出された代表による「開発運営委員会方式」で推進されていたことだ。この方式だと、結局はいろいろバラバラな意見を反映するため、動きが鈍くなり、成果物もシャープさがなくなる。
私も、そのプロジェクトに参加しながら議論を進めるうちに、「こりゃ、きっと "絵に描いた餅" になっちまうな」と思っていた。「こんなの、成功するわけないじゃん」と確信してしまったのである。
だったら、個別企業がさっさと自分のやりたいようにやってしまう方がいい。今回の成功例は、「ああ、あのプロジェクトのコンセプトを、余計なしがらみなしに、さっさと実現してしまいたい」という、まったく単純な動機から導かれたものだ。
結論を言ってしまおう。崇高な理念があって、それを実現するために国や地域が音頭を取り、業界の代表が集まって、「業界全体のために」ああでもないこうでもないと、議論に議論を重ねて作ったものというのは、大概成功しないのである。
一見、すべてのセクターが活用できる完璧なプログラムのようにみえて、実は、どのセクターにとっても使えないものになってしまっているのだ。
それより、単独で 「えーい、やっちまえ!」 と、勢いで始めたモノの方が、ずっと成功する確率が高い。
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