「取調べ可視化」 を巡る冒険
近頃 「取調べ可視化」 というのがトピックになっているらしい。警察での容疑者取調べの様子を、ビデオに録画しておくということだ。
警察での取り調べは、密室で行われる。そして供述調書は警察の係官が書き、後で容疑者がそれを読んで、「はい、私は確かにこう供述しました」とサインする。
これって、かなりアブナイお話である。容疑者が話したとおりに係官が調書を書くなんて事は、まずあり得ない。ワセダ速記の名人とかいうなら別だが。フツーは、容疑者の言ったことを適当に整理して調書を「作成」することになる。
その「供述調書作成」の過程で、容疑者の供述の、些細だが実は後になって重要なファクターとなるかもしれない部分は削り取られ、作成者側の都合のいい思い込みが混じりこみ、さらに、容疑者が絶対に使わないであろう専門用語に置き換えられ、「もっともらしい」調書になる。
その各部分だけをみれば、回りくどい話し言葉を簡潔な書き言葉に置き換えただけなのだろうが、全体を通してみると、元の供述とはかなりニュアンスの違ったものになるということが、いくらでもあると思うのだ。
私は業界記者の経験が長いので、新聞記事なんていうのは元ネタがどんなものだろうと、書きようによっていろいろなニュアンスにしてしまえるということを、体で知っている。
さらに、こちらが取材を受けた場合、意図した内容と微妙にずれた記事になっているという経験も、いくらでもある。むしろ、こちらの意図がストレートに表現されているということの方が珍しい。
とくに、三段論法なんてほとんど伝わらない。「A=B で、さらに、B=C であり、よって、A=C である」 という論理は、単なる数式なら誰でも知っているが、それを日常の事例で語ると、こちらがいくら論理的に語っても、記事になると字数制限のためもあって、単なる印象論で済まされたりする。
また、「必ずしも、そうしたことがないとも言えない」なんて言い方をついしてしまうと、記事の段階では「必ずあるだろう」になってしまったりする。こちらは「だから気をつけないとね」と言ったつもりなのに、反対にそうした状況を期待しているようなニュアンスになる。それを読む読者は、「そんなの、ありえねぇよ!」と思い、反感さえ覚えるだろう。
人の言った言葉を要領よく正確に文章化するというのは、実はかなり難しいことなのだ。
だから、「供述調書」なんていうのもそのほとんどは、取り調べられる側のウソと取り調べる側のウソが交錯して織りなされたフィクションと思って間違いない。それだけに、そのフィクションのどのあたりが問題なのかを検証する材料として、録画があるというのは望ましい。少なくとも、ありもしないことを無理やり自白させられるなんてことはなくなるだろうし。
警察はこれまでの誘導尋問や (ちょっとした、あるいはギリギリの) 暴力などの手法が使えなくなるので、抵抗が大きいだろうが、時代が変わったんだから、今の時代に最適化した取調べのテクニックを磨けばいいだけのことだ。
取調べの録画をうまく使えば、場当たり的な言い逃れに終始する容疑者の信用置けないキャラを浮き彫りにするというやり方だってできるだろうし。
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コメント
私は警察を信用していません。
本来100%信頼されてしかるべき存在ですし、その大部分の活動は一応、まともなものかも知れません。
しかし国民を裏切って闇の世界や権力と癒着している部分が多いことは確かで、私自身もその一部を知っています。
私が初めてその事実を身を以て知ったときは、まさか・・・と思いましたが、今では驚きもしません。
警察だけでなく、国税局なども似たり寄ったりです。
彼等にとっては、国民の安全を守るというより、警察という組織とその利益・権益をまもることが第一なのです。
供述調書などを作成する警察官も、慣れで作成しているだけで、失礼ながらかならずしも充分に論理的・客観的で正確な作成能力を持っているとも限りません。
本来なら担当者は、一流の弁護士に匹敵する能力を持っていることが望ましいのですが、過去の多くのえん罪事件を鑑みるに、頭脳より腕力と恫喝が得意というヤクザと同質の人間が弁護士も同席できない一警察署の密室内で取り調べる・・・こともあるのですからね~。
録画も警察側が必要とした場合に限りと言うことですが、反対ではありませんか。
すべて100%録画すべきです。
警官個人個人も、極めて親切な方もいれば、その横柄・高圧的な態度にこちらがブチ切れしそうなタイプも多い。
ちょっと話の筋がそれましたかね。
投稿: alex99 | 2007年10月11日 11:25
alex さん:
全面的に、おっしゃるとおりです。
とくに録画するのが、「警察側が必要とした場合に限り」 なんてところに落ち着くのは、とんでもないことです。
投稿: tak | 2007年10月11日 16:32