「諦める」 を巡る冒険
「NHK 短歌」 という雑誌に、歌人の藤井常世さんが「諦める」という言葉の原義について書いておられる。
「諦める」の元々の形は「あきらむ」で、『古語大辞典』を引くと「明らむ」の表記はあっても、「諦む」はないそうだ。どうやら「ギブアップ」するということとは違うようなのだ。
「明らむ」の意味は、(1) 目で見てはっきりさせる、十分に見定める (2) 明るくする、晴らす、さっぱりさせる (3) 事情や理由をはっきりさせる (4) 事情や理由を説明する、弁明する、などとあるそうだ。私は古語大辞典を持ってないので、孫引きだが。
私のもっている三省堂の 『例解古語辞典』 には、(1) はっきりと見る。明らかに見きわめる (2) 物事をはっきりさせる (3) 心をさばさばさせる (4) 道理などをよくわきまえる とある。3番目の 「心をさばさばさせる」 には、なるほど、すっぱり諦めてしまうのが一番のような気もする。
後世になって、「あきらむ」に「諦」の字を当てて、ギブアップしちゃうという意味をもたせたのは、もしかしたら、仏教哲学の影響かもしれない。仏教では「四諦」が悟りの第一歩のように言われている。人間存在の道理を明らかにすると、現世的欲望は諦めることになるのだ。
現代では「諦める」というのは非常にネガティブなこととされていて、成功を勝ち取るためには、「ネバー・ギブアップ」というアティテュードがとてもポジティブで望ましいということになっている。
しかし、それとは対極的で、しかも非常に深遠な価値観というものがあるのだということを、我々はしっかりと認識しておいた方がいい。「ネバー・ギブアップ」は、それはそれでとても大切なことだが、奥底のところできちんと「あきらめ」がついていないと、人間は薄っぺらになる。
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コメント
適当な段階であきらめるのが好きです。
サバサバと。
Never give up って、星野・元阪神監督がよく言っていましたが、あの人の「お人柄」を連想するせいか?なんだか、うっとうしいような。
それに、人に強制するようなニュアンスを感じます。
自信過剰で、当たりの強い人は、あまり好きじゃないんです。
投稿: alex99 | 2007年10月26日 01:35
alex さん:
>自信過剰で、当たりの強い人は、あまり好きじゃないんです。
そういう人って、まず話が合いませんからね ^^;)
投稿: tak | 2007年10月26日 11:26