毛皮市場のタヌキとラクーン (アライグマ)
日本毛皮協会というところの出している "「ラクーン」 の表記に関して" というプレスリリースが面白い。かなりすったもんだしたようで、第 2 弾、第 3 弾まで出ている。
品質表示ラベルで、タヌキの毛皮の表示を「ラクーン」としていいかどうかという問題が、かなり論議を呼んだようなのだ。
最近、とくに女性物のコートの襟や袖口に毛皮をあしらったものが増えている。流行りというのはコワイもので、あまり値段の張らないものでも毛皮のディテールは重要ポイントの一つになっていて、そうした毛皮は、当然ミンクとかテンとかいう高級なものではなく、「ラクーン」と表示されていることが多い。
「ラクーン」(raccoon) というのは、辞書で引けばすぐにわかるように、アライグマのことである。で、フツーの日本人は、自分の着ているコートの襟や袖口についているのは、アライグマの毛皮だと思う。しかし実はそれはアライグマではなく、タヌキの毛皮であることが多い。
日本の品質表示法では、毛皮製品については動物の種類を表示する義務がない。だから、単に「毛皮」と表示すればいいということになっている。ところがそこはそれ、せっかく高級な毛皮を使っているのだからと、普通はミンクとか、シルバーフォックスとか、テンとか、動物の種類まで誇らしげに表示するのが慣習になっている。
しかしだからといって、タヌキの毛皮に「タヌキ」と表示するのでは、ちょっとイメージが悪い。というわけで、流通業界では「ラクーン」という表示にしておこうという意向が強かったようなのだ。
元々タヌキは東アジア特有の動物で、欧米にはいなかったから、英語には「タヌキ」に相当する単語がない。だから、しかたなく "raccoon dog" なんて言っているようなのだ。
世界の毛皮市場の流通においては、1970年代までは日本産タヌキがかなりのシェアを占めていて、業界では "tanuki" が国際語になっていた時代もあったようだ。しかし今では円高と鳥獣保護法の指定により、日本産タヌキの毛皮は、ほとんど姿を消してしまった。
一方、ロシアでは昔からタヌキを "Russian raccoon" の呼称で輸出しており、それを養殖したフィンランドが "Fin raccoon" の名で安定供給し始めた。さらに最近では中国産のシェアが高まり、"Chinese raccoon" として流通している。
そんな状況を背景に日本の毛皮業界でも、タヌキだろうがアライグマだろうが、両方とも「ラクーン」でいいじゃないかということになり、毛皮協会では、上述の方式、つまり「原産地 + ラクーン」という表示にしちゃおうということになったようなのである。
ところが公正取引委員会から、「それでは日本国内の消費者段階で混乱を生じる」との危惧が表明されたようなのである。確かに「チャイニーズラクーン」はタヌキだが、「アメリカンラクーン」はアライグマであるというのではわかりにくい。「要するに『タヌキ隠し』じゃん!」と言われかねない。
そこで、結局は、11月 15日付のプレスリリース第 3 弾で、「タヌキ(チャイニーズラクーン)」のように、タヌキであることを明記した上で「何とかラクーン」の名称を併記するという指導になったようなのだ。なかなか大変なことである。
この背景には、伝統的日本語より横文字の方がなんとなくファッショナブルな感じがするという幻想がある。
「輸入品」だと中国製の安物だが、「インポート物」だとイタリア製の高級品みたいなイメージがある。「長靴」だと調理場のゴム長だが、「ブーツ」だとオシャレな靴になる。そんなようなことで「タヌキ」よりは「ラクーン」の方が歓迎されそうだったのだが、やっぱり「タヌキはタヌキ」で落ち着いたようなのである。
キツネは「フォックス」という単語があるが、タヌキに正確に相当する英単語が存在しなかったのが致命傷だった。
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コメント
すみません。
本来、ここに alex さんのコメントが付いていたんですが、私のドジな手違いで消えてしまいました。
alex さんの自宅の庭にアライグマが現れたとか、かなり前に、アメリカで "Shojoji no Tanuki Bayashi" という歌がヒットして、そこでも 「タヌキは tanuki」 だったとか。
そんなようなコメントでした。
消しちゃってすみません 平謝りです。
投稿: tak | 2007年11月29日 16:36
大したコメントではないのですが、再現を。
以前、私の自宅にアライグマが出現しました。
庭にいた野良猫がとつじょ、逃げ出したので、どうしたのか?と庭を見わたしたら、あの眼鏡顔のアライグマがいました。
結構、凶暴と聞いていましたので、ほうきで追い払いましたが、数日後、近辺の民家の柿の木にいるところを発見したというローカル・テレビ・ニュースがありました。
「同一人物」と思われます。(笑)
昔、米国のセクシーな女性黒人歌手のアーサー・キットが、「証城寺(しょうじょうじ)の狸囃子(たぬきばやし)」を歌い世界的なヒットになりました。
この歌詞は、日本語の歌詞をローマ字化したものなので「tanuki」と発音されていただけで英訳されていませんでした。
一般に、タヌキは やはり racoon dog とか、badger (アライグマ)と訳されることが多いのではないでしょうか?
おまけとして?
「証城寺(しょうじょうじ)の狸囃子(たぬきばやし)」
http://www.mahoroba.ne.jp/~gonbe007/hog/shouka/shojoji.html
投稿: alex99 | 2007年11月30日 00:27
alex さん:
再現、ありがとうございます。
(手間を取らせちゃってすみません m(_ _)m
投稿: tak | 2007年11月30日 07:33
すみません。
訂正です。
badger (アライグマ)
と書いてしまいましたが、アナグマ 穴熊 です。
わかっていたのに、なぜかアライグマと書いてしまいました。
投稿: alex99 | 2007年12月 1日 14:22
alex さん:
>badger (アライグマ)
>と書いてしまいましたが、アナグマ 穴熊 です。
了解です。
もろに信用して、アライグマのことを badger という地域もあるんだなあと思ってました ^^;)
タヌキを badger dog とは言わないんですね。
投稿: tak | 2007年12月 1日 16:39
毛皮製品の意味が載ったHPがあります。
動物の毛だけ欲しさに動物を犠牲にする事には疑問があります。(もう技術が発展した現代に必要のない物だと思っています。)
アライグマが話題になっていましたのでこのHPの左側にアライグマの事例がありますのでご参考に。
http://macveg.blog68.fc2.com/
現在産地がどこであれ、安物の毛皮の流通の裏での事情は進化しません。それは人間の欲望に駆られた無知な人間の愚かな犠牲です。
私はこのHPの主催者と一切の関係はありませんが日本はanimal cruelty(動物虐待)に対しての罰則を設けているにも関わらず、輸入で海外から易々と入って来ている事に疑問があります。また、最新のファッションコレクション等にもファーは何らかに使われています。それを優美と捉える消費者に現実を知って欲しいと思っています。
投稿: antifurrier | 2008年4月24日 15:07
antifurrier さん:
極寒の地でもないのに、毛皮を着るという人の気持ちは、私も理解できません。
基本的に、食料にするために自分で狩った動物の毛皮を、自分で剥いで耐寒のために利用させてもらうというレベルにとどめるべきだと思います。
(太古のあり方の踏襲ですね)
食うためじゃない動物の毛皮だけ、ファッションのために着るというのは、生命への冒涜のような気がしています。
投稿: tak | 2008年4月25日 00:54
私もファッションの為に動物の皮を剥いで使うなんて野蛮な行為には反対です。残酷な画像を観て以来、特にそうです。店頭やネットで可愛い服を見つけても、ファーを使用した物は買いません。フェイクファーで十分。何でも『本物』がよい訳ではありません。私的には毛皮のコートなんて自慢げに着ている人は頭の悪い野蛮人にしか見えません。
投稿: 通りすがり | 2011年12月 9日 08:10
通りすがり さん:
>私的には毛皮のコートなんて自慢げに着ている人は頭の悪い野蛮人にしか見えません。
私もそんな感じです。
ただ、もしかしたら、彼ら(彼女ら)の元にはまだまともな情報が届いていないだけなのかもしれませんから、情報の普及が必要だと思います。
とはいえ、こんなにも情報化している世の中で、まともな情報が届いていないというのは、恐縮ながらやっぱり 「頭の悪い野蛮人」 と言えないこともないのかも。
投稿: tak | 2011年12月 9日 16:29