漢字の読みをめぐる冒険 2
昨日のエントリーに続いて、漢字の読みにこだわってみる。日本語って、日本にやって来る外国人に気の毒なほど難しいと思っていたが、日本人自身にも本当に難しい。
例えば、昨日ちょっと触れた「音読み」と「音読」というのがあって、これ、ちょっとした送り仮名の違いで、読みも意味も違ってくる。
「音読み」は、うーん、何と言ったらいいのかなあ、Wikipedia では、「字音による読み方 (中国に由来する漢字の読み方)」と説明されている (かえってわからなくなりそうだけど)。そして「音読」(おんどく)となると、「音読み」という意味もあるにはあるが、一般的には声に出して読むことだ。
そして「音読」の反対語は、その意味によって「黙読」と「訓読」の 2つあることになってしまう。「訓読」の方は、音読みしても意味が 2つあるなんてことはなく、その点では単純明快でありがたい
昨日のエントリーでは、「大勢に迎合して」なんていう言い回しをしたが、この「大勢」というのも、ちょっとややこしい。「たいせい」と読むと、"(1)物事のなりゆき。また、世の中のなりゆき。「―が決する」「―に従う」 (2)大きな権勢" ということで、「おおぜい」と読むと "たくさんの人。多人数" ということになる。(いずれも Goo辞書より)
私の昨日のエントリーの場合は、「たいせい」と読む方の、(1) の意味なので、よろしく。
「大事」と書いても、「だいじ」と「おおごと」ではニュアンスがかなり違う。どちらにもとられかねない文脈では、「大切」と使い分ける方が安全だ。妙に誤解されたら 「大事(おおごと)」だから。
これらは、「工場」と書いて「こうじょう」と読んだり「こうば」と読んだりするよりは、もうちょっと微妙に要注意の言葉である。
表記に気を使ったせいで、読み方まで変わった例もある。「人事」 と書くと、今どきはたいてい「じんじ」になってしまうから、「ひとごと」と読ませたい場合はあえて「他人事」と書くようになり、ひいては「たにんごと」なんていう妙な日本語が、今では大手を振るようになったことは、以前に書いた。
それでまた思い出してしまったが、「一段落」 と書いて 「ひとだんらく」 と読むのは、今ではかなり広まってしまった。昨日触れた 「実は…間違えて音読していたコトバランキング」の中にも登場しているが、これも、私は前に書いた。
それから、ちょっと困るなあと思ってしまうのは、「汁」と書いて「つゆ」とも「しる」とも読ませてしまうことである。「味噌汁」の場合は 「みそしる」だが、「蕎麦汁」の場合は「そばつゆ」と読んでもらいたい。しかし、何となく勢いで「そばじる」なんて読まれそうなリスクをひしひしと感じるので、私は普段「そばつゆ」とかな書きしている。
固有名詞なんかになったら、もうどうしようもない。私の生まれた山形県にも、「寒河江(さがえ)」「左沢(あてらざわ)」「余目(あまるめ)」「遊佐(ゆざ)」「温海(あつみ)」なんていう難読地名がごろごろしている。極めつけとして 「土生田(とちゅうだ)」なんてのもある。
車で里帰りする時、同乗者に「今、どの辺りまで来てるの?」と聞かれて、「まだ、土生田(とちゅうだ)」 なんて答えたりすると、もろにトンチンカンである。
日系ブラジル人の知り合いがいる。30歳を過ぎて来日した彼は、ひらがなとカタカナは問題なく読めるが、漢字はお手上げだそうだ。
「困るのは、1つの字に、いろいろな読み方があることね。日本人は、どうしてすぐに正しい読み方ができるのか、不思議でたまらない」 と、彼は言う。
「そりゃあ、ほとんど決まりきった読み方があるから、そんなには迷わないよ」
「でも、人の名前とか、土地の名前とか、すごく難しいでしょ」
「あっ、そればかりは、日本人でも聞かなきゃわからない」
「なぁんだ、そうだったの。今まで、日本人はすごいなあと思ってた!」
いくら生まれついての日本人でも、「幸子さん」が「さちこさん」か「ゆきこさん」か判断するのは、振り仮名に頼るしかない。
それから、これは昨日のエントリーにふさわしい例だが、「消耗」の本当の読み方は「しょうもう」ではなく「しょうこう」だというのは、寿司でいえば「ウニの軍艦巻」ぐらいのレベルかな。
思えばなかなか大変な国語文化である。
【同年 9月 30日 追記】
上述の山形県の地名「土生田」は、「とちゅうだ」だとばかり思っていたが、正しくは「とちうだ」なんだそうだ。耳で聞いた限りでは「とちゅうだ」としか聞こえなかったので、長らくそう信じていた。反省。
お詫びして訂正します。
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コメント
工場長(こうばちょう)と言ってるのを聞くと、丹精込めた物づくりをしている組織というような雰囲気で聞こえて、コウジョウチョウと聞くと、その工場は、QCという品質管理と一見、消費者のための物づくりという聞こえはいいが、実際は、品質管理という仮面をつけた利益の追求をするあまり、偽装や消費者が最低限度許せるレベルまでの品質の劣化をすすめるコウジョウチョウのように聞こえる。
音読み訓読み、当て字とは全然違う話ですが、方言で、「オラ、東京(とうきょぉ)さ行くだ!」というと、夢や希望が伝わってくるが、「私は、東京へ行きます」と聞くと、何があったの?と老婆心を起こしてしまいます。方言もおもしろいですね。
山形県酒田市に数年前に市民会館新築工事で滞在しましたが、方言って素晴らしいと、隣の県に住む私ですが、思ってしまいました。「ンダナッス」という言葉が非常に良い響きですね。使おうにも使えません。その土地で育まれた人だけが、すんなり使える自分の原点の証明でもあるような感じですね。綺麗なお姉さんも、宿屋の恰幅の良いオカミサンも、自分の事を「オレ」と指す言い方も、男も女も関係ない言い方をしているのを聞くと、酒田市あたりは、古代から男女共同参画していたのか?と思ってしまいます。「オレ(女)がやっから、オメ(男)もやれ!」とか平等性が備わってるのか?。それとも、卑下された末の事なのか?不明ですが、綺麗なお姉さんが、「なしてオレの言うぅごどさキギワゲネーノッス」とか聞くと、この人は、誠心誠意、説得してる。とか感じます。方言は、大切にして推進したいが、通じないのが一番の悩みですね。
酒田米菓というメーカーが出してる「オランダせんべい」って、なぜに酒田市なのにオランダなのか?オランダには、米があるのか?とか色々思案しましたが、私(オラ)の複数形(オラ達の)が語源で「オランダ」となったそうで・・・。安易すぎるのが、実は一番ストレートに伝わるのか?。シンプル・イズ・ベストなんていう言葉だけが流行ったが、まさに、その通りですね。
投稿: やっ | 2008年1月27日 11:51
やっ さん:
「こうばちょう」 と 「こうじょうちょう」 の分析、納得です。
酒田に滞在されたことがあるんですね。
酒田市民会館は、私の高校時代は暖房すらない建物で、真冬は大変でした。とくにステージには舞台裏から寒風が直接吹き込んで震えました。
米国のゴスペルの公演で、シンガーがステージドレスとトックリセーターを組み合わせて登場したのを、今でも憶えています。
>「オレ(女)がやっから、オメ(男)もやれ!」
よりナチュラルには、「オレもすっさげ、オメもしぇー」 となりますね。
やっさんに通じやすいように、ちょっとモディファイしたのかもしれません ^^;)
「オランダせんべい」 は、発想は「おらだのしぇんべ」 ですね (^o^)
投稿: tak | 2008年1月27日 16:50