「きっちりやりすぎる」 ことの弊害
「情報公開制度」 というのがある。大変結構なことである。この制度がしっかりしてなかった頃、行政というのは、もうわけわからん魑魅魍魎の世界だったりしたのだ
現在では、国でも地方公共団体でも、大抵のことは請求さえすれば情報が公開される。だから、いい加減なことはできなくなった。
この制度が充実されることによって、行政に対する「市民の監視」というのが行き届くようになって、テキトーな税金の無駄遣いというのはしにくくなった。少なくとも、表向きはそういうことのはずなのである。
ところが、どんな結構な制度でも、一から十まですべて結構というわけではない。どこかに必ず欠点というのはあるのである。この情報公開制度の充実ということも、いいことではあるのだけれど、やっぱり弊害というのがあると思う。
というのは、行政機関の取り扱う書類、とくに民間からの申請と、それに対する認可、さらに最終的な報告書など、形式上のお約束のきつい類のドキュメントの審査が、最近やたらと厳しくなっているように感じるのだ。
いわば、重箱の隅をつつくようなレベルの「書類上の整合性」ということについて、以前と比べて異常に神経質になっているように思うのだ。
こういっちゃなんだけど、昔の許認可申請だの報告書だのいった書類というのは、一応の体裁さえ整っていれば、そんなに針の先でつつくような面倒なことは言われなかった。ところが、最近は審査が厳しくて、やたらと 「ここを修正しろ、あそこを直せ」 という指導がきつくなった。
で、はっきり言ってそうした「指導」のほとんどは、もう本当に単なる言い回しとか、枝葉末節とか、「強いて突っ込めば突っ込まれるかもしれんけど、そんなヒマな奴がいるんかね」といった類の、いわば「どうでもいい」ことばかりだったりするのである。
「あれ、以前はこれで通っていたはずなんですけど」というようなことも、近頃はごちゃごちゃ修正の指導が入る。直接担当者の段階でようやく OK になったものが、その上の決済のレベルで、さらに枝葉末節のその先の先っぽみたいなクレームがついて、またまた書き直させられたりする。
書面上の修正をするのはいいが、「言い回し」レベルの修正を何度も積み重ねているうちに、実態からどんどん離れて、「あれ、こんなんじゃなかったんだけど」みたいなことになってしまうなんていうことが、案外多かったりする。これって、ちょっと問題だと思うのである。
こういうのは情報公開制度の充実に伴い、お役人たちが必要以上にナーバスになっているせいじゃないかと、私は疑っているのだ。
情報公開なんていったって、公開されるのは、事実そのものじゃなくて、過去のプロジェクトに関する「書類」である。ということは、書面上の辻褄さえ合っていれば、後々になって突っ込まれずに済むのである。
公開された情報に群がって、ああじゃこうじゃとイチャモンを付ける市民、よく「プロ市民」なんて言い方をされる人が、実際に存在する。そういうことを自分でやろうとは、個人的にはあんまり思わないけれど、社会的な必要性は、確かにあるんだろう。
しかし彼らが税金の無駄遣いをのべつ厳しく監視しようとすればするほど、一方では、お役所の中で日がな一日、あまり意味がありそうもない書類の文言をつっつくだけの、時給の高い人が何人も必要になって、そっちの方で税金が無駄に使われるんじゃないかと、私なんかは危惧するわけなのだ。
税金の無駄だけじゃなく、民間プロジェクトの進行が遅れるということもある。実際に、姉歯物件がばれて以来、羮に懲りて膾を吹くみたいなことになり、建築の審査が異常に厳しくなって、建つものも建たなくなっているという弊害もあるようだし、なかなか大変なんである。
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コメント
>そっちの方で税金が無駄に使われるんじゃないか
年金記録の問題にも似たようなところがありますね。
一つ一つの記録精査にかかるコストや、そのために待たされる人たちが不満を募らせ、
社会全体にまで年金制度への不信感が広がったことを考えれば、
亀井さんが言ってたように、記録漏れの訴えはぱっぱと認めたほうが、
異議を訴えた人はもちろん、安倍さん自身にとっても良かったように思います。
投稿: かつ | 2008年1月11日 06:24
かつ さん:
>一つ一つの記録精査にかかるコストや、そのために待たされる人たちが不満を募らせ、
>社会全体にまで年金制度への不信感が広がったことを考えれば、
>亀井さんが言ってたように、記録漏れの訴えはぱっぱと認めたほうが、
>異議を訴えた人はもちろん、安倍さん自身にとっても良かったように思います。
私もその通りだと思います。
こういうのは、どうせ100%はっきりさせることはできないのだから、丼勘定が一番ですね。
投稿: tak | 2008年1月11日 11:14
お役所の『立ち入り検査』で、過去にあった出来事です。(上司の言です)
「私はねぇ、指摘することが仕事なんですよ。ですから、何がしかの不備を指摘しないと、帰れませんのです…。」
お役人さんが、こう仰ったそうです。
>日がな一日書類の文言をつっつくだけの時給の高い人
この出張バージョンといっても、過言ではないでしょう。
…ちなみに、今年こられたお役人様は、「皆さんのお作りになった書面から、すばらしい取組みの姿勢がうかがわれます。ぜひ継続してくださいね。」と、ほめてくださいました。るん!
投稿: オッチャン | 2008年1月11日 12:22
オッチャン:
>「私はねぇ、指摘することが仕事なんですよ。ですから、何がしかの不備を指摘しないと、帰れませんのです…。」
>
>お役人さんが、こう仰ったそうです。
いますよね。こういうの。
だから、企業側もそこを読んで、当たり障りのない 「スキ」 をわざと作っておいて、それをオミヤゲにしてあげたりするんです。
あんまりきっちり準備しすぎると、かえって時間かかったりすることがあるなんて、担当者は嘆いてます。
投稿: tak | 2008年1月11日 14:53
建築業界に居る私ですが、改正建築基準法が施行されてからGDPに影響が出るほど住宅着工率が下がったとかいわれてますが、申請者のほうは、守備良く許可申請書類を提出しているにもかかわらず、役所で勝手に堰を造って、まるで大雨後のダムのように認可申請を貯め放題貯めてる状態ですね。昔、どこぞのデパートで火事になった時に、オッパピー(意味不明だが)な店長が、火事に紛れて商品を持ち出されたら大変だ!とか思って、シャッターを下ろしてしまったために死傷者が多発したとかと同じような事をやらかしてしまったのが、改正建築基準法。現場である役所も、キャパシティーを超えた貯水量で、いつパンクしてもおかしくない状態です。適正に放流すればいいものを、それが出来ないのが、お役所体質。改革改革と騒ぎながら、土壌とするものが改革に追いついてないので手がつけられません。
今まで、奴らは延々と仕事を増やさない(現状維持、少しでも楽しようという思惑)で、既存のフォーマットを絶対に崩さない事に、ある意味必死になっていたわけですが、そこに目をつけた姉歯のような人間がいたわけです。逆手を取られた行政側は、こりゃイカンとなって、今回の改正建築基準法のようなまったくおかしい法律を発布してしまったわけです。
プロ市民より怖いのは、最近の"お施主"(差別用語らしい)さんが、風水(いわゆる占い)についてかなり勉強していて、設計について、あれこれ口出ししてくるって事ですね。まったく、風水も統計学的なものに基づいて確立されたもんでしょうが、あまり考えすぎると、江戸時代のすきま風ピューピューの家になってしまいますね。節操の無い宗教観の私は、いつも、そう思う。
投稿: やっ | 2008年1月12日 00:13
やっ さん:
いつの時代でも、一番状況の見えてるのが、現場にいる人なんだというのを感じます。
現場しか見てないというのも困りますが、現場を通して世界を見るというのは、とても大切なことですよね。
現場から遠く離れたところで、現場を知ってるつもりの人が、一番世界をややこしくしてくれます。
いやしかし、プロ市民より恐い存在というのがいたとは、知りませんでした。
(申し訳ないことに、ちょっと笑ってしまいました ^^;)
投稿: tak | 2008年1月12日 00:23
先日、紛失した住基ネットカードの再発行の申請に区役所に行きましたが、私の書類不備で手続きが一時中断することになりました。すると“申請者側の書類不備で手続きが一時中断する”ことを確認する書類に判を押すように言われました。少々ため息がでましたね。
何があっても絶対に突っ込まれないように汲々としているのが今の役所です。国全体が成熟した社会から遠ざかっているように思います。
投稿: 偽浜っ子 | 2008年1月12日 21:38
偽浜っ子 さん:
>何があっても絶対に突っ込まれないように汲々としているのが今の役所です。
役に立つことより、役に立たないことの方に、より精力的に時間と金を使っているという気がします。
投稿: tak | 2008年1月12日 21:55