漢字の読みをめぐる冒険
「実は…間違えて音読していたコトバランキング」というのが話題になっていて、自慢じゃないが、私は全部正しく読めた。
その上で、「なんでここで、『音読』 と言わなきゃいけないの?」 と、何となくしっくりこないのである。音読するときと黙読するときで、読み方が変わっちゃうわけじゃあるまいしね。
もしかしたら、「音読み」というつもりだったのかなあと思ったが、ざっと見たところ、「徒となる」「異にする」「あり得る」「祝詞」「月極」と、30のうち 5つも訓読みがあるから、それも違うだろうし。
まあ、細かいことはさておいて、ここに挙げられたうちのトップ・ツー、「依存心」と「間髪を入れず」は、本来の読み方を知ってはいるけれど、実際に使うときは、大勢に迎合して、「いぞんしん」「かんぱつをいれず」と言ってしまったりする。そうでないと、通じない場合もあるので。
また「祝詞」については、「のりと」という由緒正しい読みの他に、「しゅくじ」という読みも別に間違いというわけじゃない。ただ、その場合は「祝辞」という表記の方が一般的だが。
そして、「女王」と「一段落」 については、私も過去に触れたことがある ("「女王」は「じょおう」か「じょうおう」か" "「ひと段落」をめぐる冒険") ので、興味がある方は参照されたい。
さらに、もうちょっと突っ込みたいのは、ここに挙げられた程度の読みは、寿司でいえば、せいぜい「玉子焼き」か「しめ鯖」ぐらいのレベルで、世の中には、もっと度肝を抜くようなのがいくらでもある。
例えば「独壇場」は「どくだんじょう」じゃなく「どくせんじょう」ということになっている。これだと、寿司でいったら、「はまち」程度かもしれない。「どくだんば」なんていう人もいるが、そんなのは論外ね。
ただ、これには少し複雑な事情があって、本来は「独擅場」と表記していたものらしいのだ。それが「独壇場」と誤表記してしまった("へん" の違いに注目)のが一般的になってしまい、読みもそれに引かれて「どくだんじょう」でいいということになっている。
さらに今をときめく「捏造」である。これ、今どきは誰でも「ねつぞう」と読むが、本来は「でつぞう」なんだそうだ (決して鼻が詰まってるわけじゃない)。こうなると「大トロ」クラスかもしれない。ただ、「ねつぞう」もちゃんと慣用読みとして認知されているから、あまり気にする必要もない。
これ、ATOK だと、ちゃんと「でつぞう」で 「捏造 に変換してくれるが、MS-IME だと、少なくとも 2003バージョンでは「出つ増」になってしまう。MS って、やっぱり根はアメリカ人だからなあ。
それから「洗滌」が「せんじょう」じゃなくて「せんでき」だというのは、医療業界なんかでは常識らしい。 これはさすがに MS でも変換できたので、「中トロ」程度か。これも慣用読みで「せんじょう」も認知されていて、さらに「洗浄」という表記の方が一般的だし、あまり気にしなくてもいいだろう。
ああ、日本語って本当に難しい。
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コメント
「依存心(いぞんしん)」「間髪(かんぱつ)を入れず」「野に(のに)下る」「諸刃の剣(けん)」を誤答しました(カッコ内は私の読み)。
「独擅場」は知ってましたが、「捏造」と「洗滌」はびっくりです。これが4月1日のエントリーだったら信じなかったかも(笑)
投稿: 山辺響 | 2008年1月24日 09:15
山辺響 さん:
>「独擅場」は知ってましたが、「捏造」と「洗滌」はびっくりです。これが4月1日のエントリーだったら信じなかったかも(笑)
むむ・・・、鋭い!
実は、最初にこうした意外な読みを挙げて、だんだんデタラメをちりばめていく手を、エイプリルフール・ネタにしようかとも思ったんですが、ちょっとインパクトに欠けるような気がして、マジなところだけで、早めに放出しました。
投稿: tak | 2008年1月24日 10:55
ううむ…。
『ご来迎』という言葉なんぞ、使ったためしがないぞよ。
茨城県も茨木市も『いばらき』であることは、小学校の社会科(地理)で、すっかり叩き込まれましたし。
『重複』も、どっちで読んでも良い時代となりました。
「洗滌」なんて、存在を知りませんでした。
また深くつっこむと、やぶへびになるから…。
以上です。
投稿: オッチャン | 2008年1月24日 12:42
オッチャン:
>『ご来迎』という言葉なんぞ、使ったためしがないぞよ。
元々は仏教用語ですからね。「二十五菩薩来迎図」 なんて国宝の絵を、どっかでみたことないですか?
http://www.chion-in.or.jp/bunkazai/hobutsu/01.html
>茨城県も茨木市も『いばらき』であることは、小学校の社会科(地理)で、すっかり叩き込まれましたし。
"そうだっぺよー。「茨城」 は 「いばらぎ」 じゃなくって、「イバラギ」 だっぺよー"
と、茨城指数の高い茨城人はいいます。(~_~)
>『重複』も、どっちで読んでも良い時代となりました。
私としては、「重複」 は 「ちょうふく」 と言いたいなあ。
それから、「代替」 も 「だいたい」 と言いたいです。
>「洗滌」なんて、存在を知りませんでした。
厳しい婦長さんは 「せんでき」 にこだわっていて、新米のナースがうっかり 「せんじょう」 なんて言うと、厳しく叱責されるなんて聞いたことがありますけど、もしかしたら都市伝説の類かなあ。
(この場合、「類」 を 「たぐい」 と読んでくれるのは、何割ぐらいだろう?)
あ、 それから、「婦長さん」 は、最近は何て言うんだろう? 看護師長さんかなあ?
投稿: tak | 2008年1月24日 13:20
なるほど!
いや、「明鏡国語辞典」をひいてみたんですが、「でつぞう」では見出しがなく、「ねつぞう」のところに「でつぞうの慣用読み」とありました。
「でっちあげる(表記は捏ち上げる)」の「で」なんですね!
投稿: 山辺響 | 2008年1月24日 19:07
山辺響 さん:
>「でっちあげる(表記は捏ち上げる)」の「で」なんですね!
そのようなんですね。
「でっちあげる」って、意外に乱暴な日本語じゃなかったんですね。
投稿: tak | 2008年1月24日 22:03
独擅場
知りませんでした
私の脳内では、独壇場の方の独壇場でした
捏造・洗浄も
洗浄にはどうしても、ある種の連想がつきまといます
投稿: alex99 | 2008年1月25日 01:00
医学用語には、妙な読み方をするものが多いですね。
口腔と書いて「コウクウ」と読ませるとか。
一種の業界用語のように思います。
投稿: かつ | 2008年1月25日 03:39
alex さん:
>私の脳内では、独壇場の方の独壇場でした
これ、結構インテリでも、「どくだんば」 なんていう人がいるんで、どう反応したらいいか戸惑うことがありませんか?
「修羅場」(しゅらば)とか 「愁嘆場」 (しゅうたんば) とか、芝居の用語とは違うんですけどね。
(フツーは重箱読みは避けるのに)
>洗浄にはどうしても、ある種の連想がつきまといます
??? むむむ・・・ 下ネタ方面かな ^^;)
私は耳鼻科で、鼻の穴の中にブワーっとぬるま湯を噴射されて、「鼻腔洗滌」 をされたことが何度かあります。
「あ~~~~~~~~」 と常に言い続けてないと、むせて大変なことになるらしいので、我ながらバカみたいです。
(「みたい?」 というツッコミはなしということで ^^;)
投稿: tak | 2008年1月25日 10:30
かつ さん:
>医学用語には、妙な読み方をするものが多いですね。
>口腔と書いて「コウクウ」と読ませるとか。
>一種の業界用語のように思います。
でも、つくりの 「空」 は 「クウ」 ですから、知らない人はそう読んじゃうかもしれませんね。
こんなページもありました。
http://www1.linkclub.or.jp/~yosihide/kuu-1
投稿: tak | 2008年1月25日 10:40
http://www1.linkclub.or.jp/~yosihide/kuu-1
おお、これはこれは
失礼しました。
投稿: かつ | 2008年1月25日 18:19
いやはや、色々な言葉があるものですね。
>医学用語には、妙な読み方をするものが多いですね。
>口腔と書いて「コウクウ」と読ませるとか。
>一種の業界用語のように思います。
そういえば、軍事の分野でも
現場の軍人さん達は滑腔砲を(かっくうほう)と
呼び習わしているそうで。
やはり、医者にしろ軍人にしろ、
直接、命の遣り取りに触れるシビアな環境では
言葉の本義である伝達性が重視される…という事なんでしょうか。
とても興味深いと共に、
件のサイトにある医学会での経緯を知って
少し感動してしまいました。
…あ、多分関係無いとは思うんですけども
もしかして、減殺(げんさい)とか相殺(そうさい)も
軍事用語だったりするんですかねぇ。
この二つ、昔からどうにもしっくり来ないのです。
投稿: m2 | 2008年1月25日 19:49
m2 さん:
>直接、命の遣り取りに触れるシビアな環境では
>言葉の本義である伝達性が重視される…という事なんでしょうか。
鉄道関係では 「出発」 を 「でっぱつ」 と言いますよね。
あれも、何か他の言葉と紛らわしくならないためかなあ。
>もしかして、減殺(げんさい)とか相殺(そうさい)も
>軍事用語だったりするんですかねぇ。
恥ずかしながら 「減殺」 という言葉は知りませんでした。
「相殺」 は、どちらかというと、お金のやり取り関係だと思ってましたが。
どうなんだろう?
投稿: tak | 2008年1月26日 08:38
“茶道”は“さどう”でなくて“ちゃどう”が正しいのですが(NHKではちゃどうと読んでいたし)、私は人前でちゃどうと読む勇気がまだありません。TAKさんはどうですか。
投稿: 偽浜っ子 | 2008年2月 2日 11:45
偽浜っ子 さん:
茶道の専門家は 「ちゃどう」 って言うようですね。
私は、専門家じゃないのでちょっと… ^^;)
投稿: tak | 2008年2月 2日 19:46