我々の現実は実は全て仮想現実?
「我々の現実は実は全て仮想現実、研究者が奇抜な論文発表」 という記事が、一部で話題になっている。
「痛いニュース」では、「マトリックス見すぎ」といったステロタイプな反応に混じって、「俺が20年前から言ってること」なんていう注目すべき(?)コメントも寄せられている。
この論文を発表したのは、はニュージーランド、マッセイ大学のブライアン・ウィットウォース(Brian Whitworth)博士という人だそうだ。
禅宗の坊主の孫である私は、昔から父に「色即是空、空即是色」で育てられてしまったので、「すべて仮想現実」なんて言われても、それほど奇異には感じない。むしろ「さもありなん」という気がするほどである。
件の記事の核心部分を引用してみよう。
ウィットウォース博士は宇宙の物理現象の全ては情報として換言できるとした上で、宇宙は多次元の宇宙的時間軸で動いているシュミレーションの産物であると推論。そう考えることによってビッグバンがなぜ起こったのか、といった物理学上の疑問点も簡単に説明が付くと述べている。
「宇宙の物理現象の全ては情報として換言できる」というくだりは、「そうかもしれんなあ」という気がする。そうであった方が、面倒がなくていいなあとも思ってしまう。ただ、科学的な記事としては、「シュミレーション」ではなく「シミュレーション」と表記してもらいたかったところだが。
とはいえ、ウィットウォース博士のいうところの「仮想現実」が、「コンピュータ内」に作られたものという表現は、かなり注意しなければならないだろう。
実際に博士が 「コンピュータ内に作られたもの」 という言い方をしているのかどうか、元の論文を読む機会がないのでわからないけれど、もしそうした言い方をしていたとしても、その「コンピュータ」は、我々のイメージするものとは、かなり違ったものなんじゃなかろうか。
PC みたいなものを連想するから、「最悪のクソゲーだな 早くそっちの世界のネコがコンセント抜いてくれ」とか「だったら俺をもう少し高スペックにしといてもらいたかった」とか、それはそれでなかなか面白いコメントが付いているのだが、多分、そうしたもんじゃないのだろう。
ちなみに、博士は次のようなことも言っている。
コンピューター内のシミュレーションでは起こりえないことが、我々の世界で起きることを示すことができれば、それは仮想現実ではなく、現実世界であると証明したことになるだろうとまとめている。
(注) どうでもいいけど、このパラグラフではきちんと 「シミュレーション」 と表記されているのが面妖である。
それにしても、あるものごとが「コンピューター内のシミュレーションでは起こりえないこと」 であることを証明するのは、一体どうしたらいいんだろう。証明したつもりになっても、「いや、そうしたことが起こり得るようにプログラムしてあったんだ」と強弁されたら、ナンセンスになる。
この博士、自説を覆す証明が不可能なように、最後にソフィスティックなトリックを仕掛けたような気がする。
あるいは人間というのは、自分の見ている現実が「仮想現実」であることに自ずから気付くようにプログラムされており、そのプログラマーに思いを馳せることができる存在であるとすると、「仮想現実」ではないと証明すること自体がナンセンスになる。
「仮想現実」の奥底に、何だか知らないが「現実」をうかがい知ることができるかもしれない。
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コメント
>コンピューター内のシミュレーションでは起こりえないことが、我々の世界で起きる
とりとめもない想像ばかりですが、連想するのはたとえばヴァルカン星人であるミスター・スポックが、地球人の非論理性に混乱してフリーズしてしまう場面とか、
コンピュータ超人であるウォーズマンが、筋肉マンの出鱈目な攻撃の前に敗北してしまうとか(子供が小さい頃に一緒に見てたもので)
あと、モーゼの杖の一振りで海が割れるといった奇跡の話とか
ところで原文はこれみたいですよ。
http://arxiv.org/ftp/arxiv/papers/0801/0801.0337.pdf
時間がないので中身は読んでませんが
投稿: かつ | 2008年1月20日 00:27
かつ さん:
原文を探していただきまして、感謝です。
私も時間がなくて、最初の要約を読んで、本文は極端な斜め読みしただけですが、深みのある論文には思えませんでした。
コンピュータの概念も、我々の世界のいわゆるレガシー・システムのコンセプトから踏み出していないような気がするし。
(読み方が足りないだけかも知れませんが)
投稿: tak | 2008年1月20日 08:48
>コンピューター内のシミュレーションでは起こりえないことが、我々の世界で起きる
悪魔の証明を逆手にとったジョークという所なんでしょうね。
本来、コンピューター上での仮想現実であると表明した場合は、今の我々の世界がシミュレーションであると証明出来る事柄をひとつでも示せば解決するので、本来的には博士自身に証明責任がある筈。
すべての事柄についてシミュレーションじゃないと証明する事よりも、ひとつで良いからシミュレーションだと証明する事のほうが容易であろうというのが、一般的な証明の世界の暗黙のルールですからねぇ。
まぁ、いわゆる負け惜しみって奴でしょうかね。
多次元世界解釈の話かとおもってわくわくしたんだけどw
投稿: きんめ | 2008年2月 7日 15:50
きんめ さん:
この論文自体が、「ちょっとキワモノ狙ってみました」 って感じなんだろうなあと、思うに至ってしまいました。
私も、もうちょっとわくわくする話かと期待しちゃったんですけどね。
投稿: tak | 2008年2月 7日 20:53