ソメイヨシノによるストレス増幅
4月 1日の春嵐にも負けず、関東の桜が満開を維持している。桜ははかなく散るものと思われているが、実際には盛りを過ぎるまでは、強風でも必死に枝にしがみついている。
それでも、桜ははかなく、あるいは潔く散るというのは、日本人の DNA の中に深く擦り込まれた固定イメージのようなのだ。
昨日の和歌ログで、「のどけきを忘るる春の曉に静かなるかな桜散らざり」と詠んだ(参照)。日本人の桜のイメージに、敢えて反旗を翻してみた。こんな風に詠いたくなるほど、今年の桜は健気である。
この日の和歌日記にも書いたのだが、在原業平に、「世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」という超有名な歌がある。桜さえなかったら、今日散るか、明日散るかと思いを馳せることもなく、平穏な心で春を過ごせるのにという歌だ。
しかし、業平の頃の桜の主流は山桜である。ソメイヨシノはずっと時代を下って江戸末期に品種改良の末に作られたものだから、日本人は山桜に馴染んだ期間の方がずっと長い。有名な吉野の山の桜も、山桜である。
山桜というのは、Wikipedia によると、ソメイヨシノよりもずっと花の盛りが長いらしい(参照)。そのため、昔の花見はその長い花の盛りの間に、散発的に行われたとある。今のように集中してどっと繰り出すというようなことはなかったようだ。
それなのに、業平は「絶えて桜のなかりせば」と詠んだのである。今から思えばずっとのどかな花見をしていた時代に、なおこんな風な感慨を抱いていたわけだ。今の我々と、平安貴族のスピード感は、ものすごいギャップがあるようなのである。
思えば、我々はあまりにも急ぎすぎているような気がするのである。1年を 8年分生きるドッグイヤー感覚に慣らされすぎているようだ。
そういえば、今では日本の桜の 80%がソメイヨシノになってしまっているようだが、これでは「種の多様性が維持できない」と警鐘を鳴らす人もいる。なるほど。日本中のソメイヨシノがたった 1本の木のクローンだというのだから、もし何か大きな要因でソメイヨシノにダメージが与えられたら、日本中の桜の 8割が消えてしまいかねない。
政府の首脳が全員 1機の飛行機に乗って移動するようなものである。何かの事故で墜落したら、国がマヒしてしまう。日本の桜はそれと同じような状態にある。
そして、平安の代の貴族ですらソワソワしていた感覚を、開花期間の短いソメイヨシノで、さらに増幅させてストレス社会に輪をかけている。
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コメント
帰宅途上の『名城公園』にて、昨晩も盛り上がっている団体がいくつかありました。
一様に、会社員の集団でしたが、幹事がいて、お偉いさんがいて、お酒を注ぐ係があって…。中には紅白の幕で囲っている団体も!(←おめでたくてすばらしい!)
社会のスピード感が増すことで、『宴会』は敬遠される方向ですが、花をダシにしてコミュニケーションが図れるのなら、ソメイヨシノさんももう少しがんばって咲いててほしいなぁ。
→その儚さが、桜の良いところでもあります。
『名目を付けて飲む!』ことに、甚だしくうらやましさを感じながら、ノードリンク・ノーフードのアタクシは、近くの駅へ向かいました。
投稿: オッチャン | 2008年4月 4日 12:42
オッチャン:
私は勤め始めてから会社で花見の宴会をしたという記憶が一度もありません。
学生時代はみっちりと盛り上がりましたがね。
(あの頃はよかった ^^;)
投稿: tak | 2008年4月 4日 14:55
昨日川沿いの桜並木を見ながら犬の散歩をしてい多時に、ふと
「この花に沈丁花のような香りがあったら、どんなに素晴らしいだろう。いや、香りがないからこそ桜は良いのかも知れない。」
と言うことが頭に浮かんできました。
歌詠みの目から見てどう思われますか?
投稿: fujioka | 2008年4月 4日 22:29
fujioka さん:
梅は確かに香りがありますが、桜はないですね。
以前に水戸の偕楽園で、早朝に梅見をしたら、本当にかぐわしい香りが漂っていました。
「朝の 10時を過ぎたら、焼きそばのソースと酒のにおいしかしなくなるけど、さすがに早朝は梅の香りがするね!」 と、感激したものです。
さて、桜ですが、桜にも香りがあるという人もいますが、よほど嗅覚のするどい人でもないと、普通は感じないでしょうね。
桜にも香りがあったら …… むせ返って、酒がなくても酔ってしまうかもしれませんね。
投稿: tak | 2008年4月 4日 23:04