「木遣りくづし」の疑問
「木遣りくづし」 という俗曲がある。大層流行した歌で、できたのは幕末とか明治とかいうが、戦後になっても、ザ・ピーナッツとか奥村チヨとかまでが歌ってレコード化している。
元々は「木遣り」(材木運び)をするときの歌だが、江戸で三味線入りの「くづし」となり、陽気な座敷歌になった。
歌詞はこんなのである。
格子造りに ご神燈下げて
兄きゃ家かと 姐御に問えば
兄貴ゃ二階で 木遣りの稽古
音頭取るのは アリャ 家 (うち) の人
エンヤラヤ サノヨーイサ エンヤラヤ
エンヤラヤレコノセー
サノセー アレワサ エンヤラヤー
これを初めて知ったのは、もしかして江利チエミのバージョンだったかもしれない。かなりアレンジしてあって、ラテン系の味付けだったような気がする。元々調子のいい歌なので、うまくマッチしていた。
1960年代までは、ポピュラーの歌手が端唄、俗曲の類を歌うのはそれほど珍しくなかった。あのザ・ピーナッツだって、かなりの数の録音をしている。だから我々の世代までは、「さのさ」だの「梅は咲いたか」だの「奴さん」だの、かなり知っている。
ああ、宇多田ヒカルが「梅は咲いたか」を歌ってくれないかなあ。絶対に買うのに。AI ちゃんの「奴さん」なんかもいいかもしれない。
で、何を言いたいのかというと、私は子どもの頃から、この「木遣りくづし に出てくる「兄貴」と「姐御」と 「家の人」の関係が釈然としないのである。その漠然とした疑問は、今でも続いているのだ。
この唄は火消しの唄だから、「兄貴」というのは弟分からみたところの「兄貴分」だろう。弟分が、兄貴分の家に行って、「兄貴ゃ家か」と「姐御」に聞いたのである。「姐御」というからには、「兄貴」の嫁さんだろうと思うのが自然である。
ところが、この姐御に聞くところによると、「兄貴ゃ二階で木遣りの稽古」をしているが、「音頭取るのは(アリャ)家の人」なんだそうだ。どうやら「兄貴」と、姐御の旦那の「家の人」とは別人らしいのだ。
これは一体、どういう相関関係なのだろうか? もしかしたら「家の人」は「姐御の旦那」とは限らないのかもしれない。だったら、単に「家人」ということなのか。いや、それじゃやっぱりおかしい。
最も論理的に類推すれば、「兄貴」というのは、「姐御」の家の総領息子で、親父の音頭で木遣りの稽古をしているのかもしれない。しかしそうなると、「姐御」はかなり年増になってしまう。それでいいのかもしれないが、ああ、わからん。誰か明快な答えをしてくれないものかしらん。
最後に、これだけは言っておきたいが、この歌のタイトルは「木遣りくずし」ではなく「木遣りくづし」と表記してもらいたいなあ。ATOK の文語モードで。
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コメント
うーん、ケヤリの稽古とは、纏(まとい)振りを練習しているのではないかと。纏は重さもあるからおそらく中心になる若衆が引き受ける。
となれば、音頭を取る(歌をうたう)のは大将の役目。
大将の家にて、若衆のリーダーが纏振りの練習をしている所にもいっちょ若い新人あたりが兄貴を捜しに来た。
姐御はまぁ大将の奥さんという事でしょうかね。
大将はまぁ雰囲気で言えば、テレビの暴れん坊将軍で言うところの、北島三郎あたりが”音頭を取るのは家の人”って感じではなかろうかと(笑)
投稿: きんめ | 2008年4月14日 15:04
きんめ さん:
なぁるほど。
しっくりきました。
ありがとうございます!
投稿: tak | 2008年4月14日 15:10
ものすごくつまんない解釈だと、三人きょうだいとか……。
兄
姉-夫(家の人)
弟
投稿: 山辺響 | 2008年4月14日 17:18
山辺響 さん:
文字通りの解釈ですね ^^;)
投稿: tak | 2008年4月14日 22:03
「兄貴」 は 「姐御」の実の兄である。
「家の人」 は「姐御」の亭主である。
「兄貴」と「家の人」は幼馴染である。
尋ねてきた人は、「兄貴」の義理の弟である。
つまり「姐御」にとっても義理の弟である。
「兄貴」と「姐御」の下に末の妹がいて、その妹と尋ねてきた人は所帯を持ったばかりなのであった。
……なんて、想像してみましたが。
東京の下町って、実にそういう雰囲気の人間関係で結ばれているという感じがしますんです。
投稿: osa | 2008年4月15日 02:18
osa さん:
まあ、気持ちはわかりますが、この場合は、「兄貴」 は親族縁族じゃなくて、火消しの組の兄貴分と取りたいですね。
投稿: tak | 2008年4月15日 10:18
兄貴は『梯子持ち』から昇格しやすか!
こいつぁめでてい!
投稿: オッチャン | 2008年4月15日 10:52
オッチャン:
いやはや、毎度ながら大したボケ芸で ^^;)
それにしても、このエントリーがこんなに受けるとは思いませんでした。
投稿: tak | 2008年4月15日 12:34
お初にお目にかかります。
木遣りくづしというのは初めて知りましたが、この歌詞、私には今でも 兄貴=家の人 に読めます。
弟分が家に来て、「兄貴ゃ家か」と姐御に聞く。
姐御は「二階で木遣りの稽古をしてるよ」と答えて、
「ほら声が聞こえるだろ、あの音頭取ってる声は家の人(=兄貴)のだよ。」
(だからわかるだろ、という諭すような感じで。)
・木遣りの声が聞こえている。
・その声の主を探しているなら(姐御に聞かなくても)すぐにわかる筈。
・だから「声の主」は「探している相手」ではない。
と考えておられるのかも知れませんが、
私の脳内ではこの手の話の「弟分」って、考えるより先に口が動く、
かなりそそっかしいやつ、というキャラが確立されています。
だから姐御に言われるまで兄貴の声に気づいていない、と。
投稿: hoshi | 2008年4月18日 00:59
hoshi さん:
貴重なご意見ですが、う~ん、はばかりながら、ちょっと無理があるように思えます。
「木遣りくづし」を実際に聞いていただければ、その感覚、おわかりになるかと思います。
投稿: tak | 2008年4月18日 06:18
はじめまして、江利チエミの木遣りくづし・・ってどんなんだっけ?と、始まって、検索してみました。
な〜んとなく、曲を覚えていますが・・俗曲とは優雅な調べですよね。
深川・・なんて、もっと優雅な曲あるんですよね。
投稿: ルドルフ | 2008年6月13日 00:19
ルドルフ さん:
ようこそ。
「木遣りくづし」でググると、ウチがトップなんですねぇ。驚きました。
普通は 「木遣りくずし」 で検索するんでしょうけどね。それだと、ウチは 22番目でした。
ちなみに、私の iPod には、端唄だの長唄だの文楽だのが、一杯入ってますよ。
投稿: tak | 2008年6月13日 14:57