日本は高級車と軽自動車の市場になるのか
日本の自動車保有台数が、初めて減少に転じたそうだ(参照)。オイルショックでも、バブル崩壊直後でも、前年同月比が 3ヶ月連続減少なんていうことはなかったのに。
これは、新規購入が廃車に追いついていないということを示す数字だろう。買う人よりも手放す人が多くなったのだ。
私の父は 77歳だが、2年ほど前に購入した車を「人生最後の車」と思っている。この車を乗りつぶすまで乗り、廃車にしたら、その後は運転免許を返上するという。今でも、年間で 数百 km しか乗らないようなのだが。
昨年までは今年 3月の運転免許更新をしないつもりでいた。高齢者になると、運転免許更新にいろいろな検査が必要になり、時間がかかる。しかし母の看護のために、そんなに長く家を空けているわけに行かなかったのだ。
ところが、昨年 5月に母が亡くなったために、「もう一度だけ、免許を更新してみよう」と思い立ったそうだ。更新にあたって、視力だのなんだの、もろもろの検査を受けたところ、実年齢より 10歳以上若いと言われて、ご機嫌になっていた。これなら、あと 5年は車を運転しても大丈夫だろう。
ところが、世の中は高齢化の波にもまれて、車を運転できなくなった層が増えており、彼らは次々に車を手放して、運転免許の更新もしなくなっている。団塊の世代が 70歳を超える頃になったら、この動きはますます加速するだろう。
一方で少子化はずっと前から続いているので、新たに運転免許を取得する人数はそうそう増えるわけがない。さらに運転免許は取得しても、車を購入できるとは限らない。低所得の若年層はかなり増えている。車の台数は減るに決まっているのだ。
それでも、3ヶ月前までは日本人の保有する自動車台数は増え続けていたというのだから、思えば自動車市場はずっと「ビミョーにバブル」だったのだ。バブルさ加減がビミョーだったために、思い切りはじけずに済んでいたのだ。
こうした状況は今後も続くだろうから、自動車業界は利益確保のために、1台売れば利益の大きい高級車の開発に力を入れるだろう。ただ、それだけではマーケットが限定されるので、一方では低価格の大衆車にも力を入れなければならない。
これまで日本の自動車市場は、カローラを代表とする「性能のいいコンパクトカー」が主力だった。この構造が今、崩れつつある。極端にいえば、高級車と軽自動車の市場になる。そして、それは日本経済全体を象徴することにもなるのだろう。
「優秀な普及品」を得意としてきた日本の産業界は、その性格を根底から変えることになる。
8割が中国製といわれるようになった衣料品市場では、既にその傾向が顕著になっている。「ブランド品」と「廉価品」が増えて、それなりの値段で品質は高級品なみという定評のあった国産品(いわば「カローラ」みたいなもの)のレンジが、極端に薄くなっている。
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