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2008年5月 9日

食べ残しを捨てりゃいいってものでもない

資料的裏付けは見つけていないが、日本では輸入される食料品とほぼ同じ量の食品が、残飯として捨てられているという説がある。

捨てるためのみに食料を輸入しているというわけでは、決してないにしろ、捨てられる残飯がため息の出るほど多いというのは、この国に暮らしていての実感である。

船場吉兆の「客の食べ残し使い回し」のニュース(参照)を聞いて、複雑な気分になってしまった。船場吉兆を責める前に、私は「食わないもの(あるいは「食わせないもの」)までも食卓に出される文化」というものを、悲しく思ってしまったのである。

使い回しにしていたのは、刺身のつまなどだそうだ。あれなんか、ほとんどの人は食わないものなあと思う。私は食いたいけど。

私はお偉方という立場にいないから、料亭で食事をすることなんて滅多にないが、それでも年に数回はそういうところでメシを食うことになる。で、そういうところでは、ほぼ 100%、刺身が供される。

刺身の盛りつけは、大体において刺身を食い終わらないとツマの大根が食えないようになっている。大根を大葉かなんかでカバーして、その上に刺身が乗っかっているからだ。

で、当然ながらまず刺身を食う。刺身を食い終えて、さあ、大葉と大根を食おうと思っていると、仲居さんが出てきてさっと皿を下げてしまう。下げていいか聞きもしないで。

その場の雰囲気によっては、「あ、まだ下げないで」と小声で言うこともあるが、多くの場合はこちらがそれをいう間もなく、電光石火の早技でさっと下げられるので、仕方なくツマを食うのを諦めている。とてもとても残念である。

私としては刺身だけ食うと口の中に生臭さが残るので、ツマを食って中和したいと思っているのだが、現代日本の底の浅い文化は、それをさせてくれない構造になっている。

下げられた大根は無惨にも捨てられてしまうのかと思っていたが、船場吉兆は、それを再利用していたわけだ。大根を大葉でカバーしているのは、一応気休めの衛生を確保するためだったのかもしれない。

というわけで、私としてはなるべく刺身のツマは食うようにしているのだが、多くの人は、どうせ食わないものを再利用しているということに関して憤慨しているのである。私はそれが、悲しい気がするのである。

船場吉兆を擁護するつもりはさらさらないが、「それ言うなら、ちゃんとツマまで食えよ!」 と言いたいのである。「大事な食い物、無駄にするなよ!」 と。

さらに言うならば、食いきれないほどの量の食い物を供するという文化に、疑問を呈したいのである。中国あたりでは、ゲップが出るほどの大量の料理を出さないと、けち扱いされるらしいが、それは、貴人の食べ残しを使用人が食うという「裏の文化」があってのことだ。

私も貧乏学生時代、厨房のバイトをしていた頃は、手つかずに戻ってきた料理は構わずどんどん食っていた。客と調理場では感覚が違う。従業員感覚としては、確かに「もったいない」と思うのだ。だからといって、食べ残しを客に出していいというものではないのだが。

それでも、「高い金を出してるんだから、食い物の使い回しなんかするな!」というのは、「高い金を出してるんだから、ちゃんと捨てろ!」ということの、別の言い方である。ちゃんとツマまで食わずにそれを言うのは、かなり傲慢な話だと、私は思ってしまうのだ。

立食パーティで、あっという間に食い物がなくなってしまうことがある。出席者の多くは文句を言うが、私なんか、それは好ましいことだと思っている。メシなんか、慎ましやかの方がずっといいじゃないか。私は捨てられるとわかっているメシを残して帰る方が、ずっと気持ちが悪い。できることなら、ちゃんと食って供養してやりたい。

そして最後に自信をもって断言しておくが、客の食い残しの使い回しは、船場吉兆だけではないはずだ。ゴキブリが一匹見つかれば、隠れたところに百匹はいるのである。我々も使い回しを食わされたことは、一度や二度じゃないはずなのだ。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

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コメント

エコと衛生の境界線は…?

 ここまでリデュース・リユース・リサイクルと声高に来ているのなら、そろそろ『当店では付け合せのパセリ、刺身のツマなどは、地球環境保全のため、衛生的に処理したものを再利用しています!』なんて店が出てきたりして。

 で、『当店では使用期限の切れたあんこを、適切に処理して再利用しています』というお菓子がもてはやされたりして!

 チャンチャン…。

投稿: オッチャン | 2008年5月 9日 12:26

 子供の頃は、食べられないなら手を付けるな、そうすれば誰か他の人でも食べられるからと、我が家の食卓では言われてたので、基本的に”残す”文化が私の中にはないので、料亭などの食事の際はtakさんと同じジレンマを感じますw

 コンビニの弁当なんてのも、期限が切れるとビシバシと廃棄されるらしいですし、ファーストフードなどでも、待機時間には一定の基準を持っているでしょうね。

 でも、やっぱり棄てるってのはもったいない気がしますね。多少は飼料になったりしてるんでしょうけれど、制度化されてはいないでしょうし、全体から見れば少ない再利用でしょう。

 食べ残しが、安価に自動車や暖房の燃料になるような技術でも開発すればボロもうけですな。

投稿: きんめ | 2008年5月 9日 13:21

オッチャン:

刺身のツマやパセリなどを、「単なる彩りで、どうせ食わないもの」 と規定するなら、プラスチックで作った偽物を (きちんと煮沸して ^^;) 使い回しする方がいいと思います。

そうなると、「大根と大葉、食いてぇ」 という私みたいな客は、「面倒なことを言う嫌な客」 ということになるでしょうね。

私は近頃では、すき焼きをしても野菜ばっかり食ってますけどね。

さらに、コンビニ弁当のバランも、回収ボックスを設けて再利用するとか。

あれ、安いんだろうけど、日本全国で使われる量を考えたら、かなりの資源を無駄にしているような気がします。

赤福のあんこも、どうせ外側だけだから、ゴムのダミーをくっつけといて、中身だけ食わすとか。

(それじゃ、うまくもなんともないか ^^;)

投稿: tak | 2008年5月 9日 14:13

きんめ さん:

>基本的に”残す”文化が私の中にはないので、

まさにそうなんですよ。
「弁当のふたの裏側についた飯粒を食うのがみっともない」 なんていうやつは、ぶっ飛ばしたくなります。

>でも、やっぱり棄てるってのはもったいない気がしますね。多少は飼料になったりしてるんでしょうけれど、制度化されてはいないでしょうし、全体から見れば少ない再利用でしょう。

再利用するときの、回収システムがかなりネックになってるようです。豆腐屋さんのおからでも、回収さえうまくできれば、とてもいい飼料や肥料になるらしいんですがね。

結局、残飯は捨てて、飼料や肥料の原料は新たに仕入れる方が安上がりという、経済優先の手法になってしまうようです。

原料が値上がりして、にっちもさっちもいかなくなれば、リサイクルが進むんでしょうね。

投稿: tak | 2008年5月 9日 14:22

老舗料亭の使い回しのニュースなどで閲覧者がコメントやブログ引用してボロクソに非難しているのが、記事の中に、やたらと、”www”とかの略記号を入れてる若者に多いのが印象的でした。学校給食でクジラのベーコンを食ったであろう年代の方は、投げ捨て非難のような一発コメントじゃなく、「なるほどな!」というような一歩踏み込んだ書き方をしているが、やたらと略字の多い若者の書き込みは、ちょっと、老舗料亭も可愛そうだな。とか、変な同情を覚えてしまった。

料亭などで食した事も無ければ、門前を通った事もないようなセブンイレブンの前でウンコ座りで上目使いで、時折、唾を吐き出してるようなファッションとはいえ、ローライズていうんですか?あのケツが半分出てるやつ。あんなもの穿いて就職面接だというのにガムをクッチャクッチャ噛みながら、面接官が突っ込んだ質問をすると「個人情報ですから言えません」とか言って、何で面接受けに来たのか?と思うような若者に老舗料亭がボロカスな書かれ方をすると、「おい!お前、視点が違うだろう!」と”通りすがり”のネームでコメントしたくなっちゃいます。そんなブログサイトは、決まって、アフェリエイトサイトだったりするから余計に腹が立つ。

あぁー食品業界で生業をたててなくて良かった。私どもの業界は、使い回しがあって当たり前。でなきゃ利益が出ません。

そして、そして、wwwって大爆笑の略らしいですが、他に、(ryと記述して、以下略の略記号だそうですが、そりゃ、略しすぎだって思います。wwwのことを私は、World Wide Webだとばかり思ってました。ネタじゃないですよ。本当に。

コンビニエンスストアの残り弁当を近くの養豚農家の方が引き取って飼料にしてますが、養豚農家のおやじ曰く、コンビニ弁当は放置していても腐らない。とか言ってました。なんだか、変な心配してしまった。食品は、腐るのが当たり前でしょう?。昔、夏休みとか昼飯時に母親が御櫃のご飯の匂いを嗅いで、ちょっと首をひねったかと思ったらざるにご飯を装って水で洗ってお茶漬けもどきの飯を食ってたが、そこへ行くと老舗料亭なんかまだ性質が良い?。いや、そんな事はないですね。味方はしたくないが、経営者的心情になればわからなくでもない。一番、可愛そうなのは、やっぱり、板長さんかな?。老舗を自負する板長なら心中穏やかでなかったと思います。

投稿: やっ | 2008年5月 9日 21:44

やっ さん:

「お前ごときに言われたくねぇよ」 みたいな軽薄な悪口雑言は、ブログの世界では確かに多いですね。

www は、私には、拍手拍手の嵐…の象形文字みたいに思えてました。ryは、単なるミスタイピングかと……。

>コンビニ弁当は放置していても腐らない

こわ。

コンビニの蕎麦も、あれ、その辺の立ち食い蕎麦よりずっとおいしいけど、いつまで経ってものびないというのが、かなりこわいです。

>一番、可愛そうなのは、やっぱり、板長さんかな?。

それは私も、ひしひしと感じました。

私も、食品業界でメシを食ってなくてよかったです。

投稿: tak | 2008年5月 9日 23:19

>「弁当のふたの裏側についた飯粒を食うのがみっともない」 なんていうやつは、ぶっ飛ばしたくなります。

ラップの裏に付着した物までペロペロ舐めちゃう私としては、
こういった事件は色々考えさせられますね~
(我ながら、何を張り合っているのだろうか…)

洋食の際、余ったソースをパンで浚ってもマナー違反ではないのだ!
と聞いた時には、飛び上がって喜んだものです。
そう考えると、和食に勿体無い所が多いのも確か。

ただ、やはり料亭というのは
只の食品配給所ではなく、”もてなし”を提供する場ですから…
こういう事はあっちゃイカンと思います。

うーん、こんな時、祖父なら巧く表現出来ただろうか…
というのも、祖父は生前、大阪で料亭を経営していたのです。
経営と言っても、指示するだけの立場ではなく
自ら食材の買出し等にも走って。店で板前さんとも話して。
そんな祖父と接する中で感じたのは、うーん…
やはり巧く表現できませんが、
この船場吉兆を料亭と認める事は無かっただろうと、そう思います。

投稿: m2 | 2008年5月13日 07:19

m2 さん:

>洋食の際、余ったソースをパンで浚ってもマナー違反ではないのだ!

それどころか、私なんか、そうするのがマナーだと思ってました。
(と、私まで張り合ってしまう ^^;)

素晴らしいお祖父様だったようですね。
さぞ学ぶことが多かったでしょうね。

投稿: tak | 2008年5月13日 11:03

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