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2008年5月24日

「残業」と「超過勤務」の微妙な違い

最近、「残業手当」があちこちで話題になっている。マクドナルドの「名ばかり店長」や、トヨタの「カイゼン」活動にも残業手当が支払われるようになったという。

まあ、考えてみればごく当然のことなのだが、これまでの日本人のメンタリティでは、支払わないことが許容範囲内だったのだ。

私なんかも勤め人時代は「サービス残業」が普通に考えられていた。とはいえ、私の場合はかなりドライに割り切っていて、勤務時間が終わればさっさと帰ってしまう人だった。昔からチームで動く仕事というよりは、「会社内個人商店」みたいな仕事が多かったから、それでなんの不都合もなかった。

それにこう言っちゃ何だが、私は仕事はかなり早い方だから、てきぱきこなしてしまえば、残業するほどのことはほとんどなかったのである。そしてたまに勤務時間内に終わらないことがあっても、夜遅くまで残らなければならないことなんて、滅多になかった。元々「会社内個人商店」的発想だから、残業手当が欲しいと切実に思ったこともない。

ところが、チームで動くことが必須のサラリーマンが、どうしても勤務時間内に仕事を終えることができなければ、残業手当をもらうのが当然である。それは議論以前の問題だ。ところがこれまではこうした残業でも「サービス残業」で対応することが多かったし、おそらく今でもそうなのである。

唐突だが、私はこれは「言葉」の問題が大きいと思っている。我々は少なからず言葉に縛られた存在である。

英語で「残業手当」のことを "ovetime allowance" という。"allowance" には「許容」という意味もあるので、下手すると日本人は「サービス残業」のことと誤解してしまうが、この場合は「給与」とか「支払い」とかいう意味合いである。

つまり、英語では直訳的には「超過時間給与」というのだ。はなはだドライで割り切った言い方である。契約した勤務時間を超えたら、それなりの手当がついて当然という考え方だ。

一方、日本語の「残業」という言葉は、「残って仕事をする」という意味合いで、契約時間を超過して云々というニュアンスはかなり薄まってしまう。「仕事が終わらなかったんだから、残ってこなすのも仕方ないじゃん」ということになりがちだ。

ところが、米国では、アシスタントのおねえちゃんが、書類コピーの途中で勤務時間が終わったら、もうそのままに放り出して帰ってしまうのが当然のことなのである。ボスが「最後までコピーしてよ」と要求したら、それなりの  "ovetime allowance" が発生する。

それしきのことで余計な支払いが生じるぐらいなら、そのまま帰ってもらって、翌日の朝イチで仕上げてもらう方がずっと楽なので、誰も文句を言わないのである。

日本でもようやく、「残業手当」というのはとりもなおさず「超過勤務手当」なのだという認識が一般化しようとしている。これは国際常識からすれば、「いいこと」というよりむしろ「当然のこと」ということになるだろう。

しかしそのために日本の産業の目に見えない微妙な国際競争力が、またまたそがれることになる。というか、これまでは日本が勝手にハンディキャップをもらって競争していたとも言えるのだが。

ちなみに私なんかワンマン・カンパニーなので、毎日が「サービス残業」である。

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コメント


>しかし、そのために日本の産業の目に見えない微妙な国際競争力が、またまたそがれることになる。というか、これまでは、日本が勝手にハンディキャップをもらって競争していたとも言えるのだが。

どうでしょうね。
ダラダラとした効率の悪い仕事の上に成り立っていた競争力であるならば、サービス残業しなくても仕事が完結するようになれば大幅なコストダウンに繋がるかもしれません。
能率も成果もあまり期待できない時間に使う日本全国の水道光熱費だけでも馬鹿にならないレベルでしょうし。その無駄の中に消費経済の複雑系がからんで成り立っているのだよと言われると、部分的に経済は停滞しちゃうのかな。

全国的にみんなが頭を使って仕事するようになれば、国民全体の知的水準があがるかもしれませんwあまった脳時間を他の事に有効利用出来るかもしれません。って大型コンピューターのシェアリングみたいにうまくはいかないですかねw

投稿: きんめ | 2008年5月26日 11:44

きんめ さん:

とても素晴らしい新提案がされても、「もちかえって検討します」 としか言えず、そしてその検討作業はなかなか始まらず、ようやく始まっても、わけのわからんオッサンたちの 「いつの時代の話だ?」 と言いたくなるような横やりで骨抜きにされ、結局ウヤムヤになるという構造が、「さあ、みんなで効率的なビジネスにしよう!」 というかけ声だけで変わるとは、とうてい思えないんですけどね ^^;)

投稿: tak | 2008年5月26日 21:54

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