賞味期限切れのヒラリー
米国の民主党大統領指名候補者は、いよいよバラック・オバマ氏で決まりのような雰囲気になってきた。ここまで来てしまうと、ヒラリーの逆転は難しいだろう。
ブッシュの任期が 2年前だったら、そりゃもう、圧倒的大差でヒラリーが大統領になっていただろうに、運命とはわからないものだ。
2006年の中間選挙は、ブッシュ対ヒラリーの対決みたいな様相を呈していて、ジョージ・ブッシュのイラク政策失敗とヒラリー人気で、民主党が上下両院で多数党となった。そして今だから言ってしまうが、この頃が、ヒラリーの一番いい時期だった。
私はこの中間選挙の結果を受けて、「どのように振る舞い、何を言えばスマートに見えるかを熟知しているヒラリー・クリントンと、どのように振る舞い、何を言えば馬鹿に見えるかを知らないジョージ・ブッシュとでは、勝負は目に見えていた」と書いている (参照)。この件に関しては、これ以上の総括を私は知らない。
その上で、私は次のようにも書いている。
彼女のインタビューなんかを聞いていると、何を聞いたらどう答えるかというのが、大体想像通りだったりして、意外性というのはほとんどない。アメリカのベビー・ブーマーズの最大公約数的な 「スマートさ」 というのを、意識して身につけているだけという気がしないでもない。
(中略) 私はビル・クリントンが大統領に選出される前、彼を 「アメリカの口先男」 と呼んでいた。同じように、今のうちに言っておこう。「ヒラリーは、ただスマートなだけ」 と。
私は案外直観だけでものを言っちゃう傾向があるのだが、ヒラリーのケースについては、その直観が当たったみたいな気がしている。
ヒラリーの野心満々さが世界中に決定的に印象づけられたのは、3年前の自伝 "Living History" の発売の頃だった。この自伝が出た 2005年 6月に、私はちょうどアメリカにいた。発売前から、テレビではこの本のプロモーションがガンガンに流されていた。
6月 9日の発売当日、11時開店の書店には、9時から行列ができたそうである。政治家の自伝でそんな大騒ぎになるなんて、日本じゃ絶対に考えられない。で、その日私はシカゴの空港にいたので、空港内の書店で、全然並ぶこともなくサクサクと立ち読みできた。
この時のことは、"Today's Crack" がココログに移行する 1年前、"ヒラリーの「あざとい」自伝" という記事で、次のように書いている。
あまりの話題なので、空港の書店でちょっと立ち読みしてみた。
「私はファーストレディとして生まれたわけでも、上院議員として生まれたわけでもない。ましてや、民主党員として生まれたわけでもない」
ちょっと立ち読みしただけなので、細部は違っているかもしれないが、彼女の自伝はのっけからこんな調子で始まる。これで、買って帰る気がしなくなった。
ベビーブーマー的スマートさはあるけれど、スーザン・ソンタグをいやらしくしたような、かなりあざとい書き出しである。マーケティング的分析で練りに練った上で、印象的な「つかみ」として採用された文章だったのだろうが、個人的にはうんざりするスタイルだ。
私はこの時の記事を、「多分、彼女は米国で初の女性大統領になれるだろう。しかし、それは米国社会の底の浅さを物語るものでもあるような気がする」と結んでいる。
この 3年前の直観は、どうやら外れそうだ。米国初の女性大統領になるのは、ヒラリー以外の誰かだろう。米国社会は、それほどまでには底が浅くなかったというより、ただ単に、彼女の賞味期限切れのためのような気がするのだが。
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コメント
何か自分に都合の良い事をしてくれたりする人に向かって、「ヨッ!大統領!!」って叫ぶ人って少なくなりましたね。(笑)
大統領に立候補する方々というのは、そりゃ並大抵の努力じゃないと思うが、ドラマ、ホワイトハウスなどを見ると戦前の日本帝国陸軍が天皇を奉り上げ利用しているだけのような身分だなとか思ってしまう事もあります。どちらも、個人単位では犯すべからずと思ってるんだろうが、結局は、取り巻きの既得権益取得のための道具にされてしまうような感じに思える。
政治と恋愛話には首を突っ込まない方が、良い人でいられるという持論を持つ私ですが、ヒラリー・クリントンとコンドリーザ・ライスが揃って対日本政策なんか話してる光景を想像すると、私は、あいつら絶対、日本の事をジャップって言うだろうなとか思ってしまいました。
オバマさんが大統領になったら、かの小浜市では、どんなイベントをするのだろうか?と、地元の人には申し訳ないが、そんな事より、原発問題でも心配したら?と・・・。
投稿: やっ | 2008年5月11日 07:48
やっ さん:
>結局は、取り巻きの既得権益取得のための道具にされてしまうような感じに思える。
大統領になりたいって人は、それを承知でなりたいんでしょうね。
不思議な人たちですね。
>ヒラリー・クリントンとコンドリーザ・ライスが揃って対日本政策なんか話してる光景を想像すると、私は、あいつら絶対、日本の事をジャップって言うだろうなとか思ってしまいました。
う~ん、私の印象は逆です。
ポリティカル・コレクトネスが身に付きすぎていて、差別用語は絶対に使えない体になっているという気がします。
「お腹の子は、いつ生まれるの?」 と聞くのに、
"When is he or she expected?" な~んて言っちゃうような感じ。
投稿: tak | 2008年5月12日 00:30
>多分、彼女は米国で初の女性大統領になれるだろう。しかし、それは米国社会の底の浅さを物語るものでもあるような気がする
この予言が実現しないことを祈ります(予備選&大統領選で彼女が勝つ、という意味ではなくて)。
投稿: 山辺響 | 2008年5月12日 11:04
山辺響 さん:
どうやら、3年前の 「予言」 はちゃんと外れてくれそうな雲行きですね。
ヒラリーはサッチャーほどの役者じゃなかったようで。
投稿: tak | 2008年5月12日 13:07
初めまして。
おそらく撤退する選択肢になると思いますが、問題はそこからでしょうね。
共和党は、ヒラリー支持票はすべてオバマに行かないと踏んでいます。
なぜなら圧倒的大差ではないから。
共和党はオバマが指名されてから、ヒラリー票をどう取り込むか考えているようです。
僕も民主党支持なのですが、本選では、どう転ぶかわからないという声もあるそうで。
「米国民は最後の最後に現実を選ぶだろう」
という皮肉を言っている人もいます。
投稿: あーくん | 2008年5月12日 22:53
あーくん:
コメント、ありがとうございます。
>「米国民は最後の最後に現実を選ぶだろう」
>という皮肉を言っている人もいます。
私も実はそんな気がしていて、一概に皮肉とも言えないように思っています。
投稿: tak | 2008年5月13日 10:37