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2008年7月23日

「今、いのちがあなたを生きている」

昨日、京都の東本願寺を参拝したら、「今、いのちがあなたを生きている」 というキャッチフレーズが大きくフィーチャーされていた。なかなかいいコピーだと思った。

しかしこれ一見すると、文法的には「破格の用法」っぽい。だから、英語に訳すのはちょっと難しい。

このキャッチフレーズは、"Now, Liife is living you" と英訳されている。「いのち」を表す文中の "Life" が大文字で始まっているので、この「いのち」は、ただごとではないものだということがわかる。

「生きる」というのは、本来自動詞で、他動詞は「生かす」という形になる。「○○としての人生を生きる」などといった他動詞的使い方もあるが、この他には「○○の命を生きる」など、かなり限定された使い方になる。目的語が「生きる」という動詞とほとんどイコールで重なり合うような場合の、やや文学的表現である。

「花のいのちを生きる」などというフレーズがあるが、これは「花は」という主語が省略されている。花が花のいのちを生きるのであって、主語と目的語がかけはなれてしまったら、甚だ不自然なものになる。事実上、あり得ないと言っていいだろう。

英語の live も基本的には自動詞で、他動詞的に用いられる場合は、日本語と同様の使われ方をするのが普通だ。主語と目的語がかけ離れていることはあり得ない。

これが今回の最重要ポイントである。主語と目的語が同じということだ。

私は初め、このキャッチフレーズは "Now, Budda's Liife is living within you" (今、仏の命があなたの中で生きている)と、やや説明的に英訳されるべきなのだろうと思った。大文字で始まる "Life" は、普通の命ではなく、仏の無量寿と解釈すべきだろう。

「不生不滅」 と表され、改めて生まれ出ることもないので死ぬこともない、ただ、ありありてあり通す、仏の無量寿である。それだけに、"Now, Liife is living you" という思い切った英訳を見て、ちょっと驚いた。はたしてこれでちゃんと通じるのかと、心配になった。

しかし、よく考えればこれでいいのだと納得した。英語の "live" を辞書で引くと、「送る, 過す; (理想などを)実行[実現]する; (俳優などが役を)真に迫って演ずる.」(参照) という他動詞の意味も出てくる。

つまり、「仏の命があなたとして過ごす」 「仏の命があなたを演ずる」 ということでもあるのだから。そして何よりも、このキャッチフレーズの言いたいことは、「仏のいのち」と「あなた」が、本来的には別物ではないということなのだろうから。

少し前に確認したように、主語と目的語が同じなのである。この場合は、「いのち = 大文字で書き始める Life = 仏の無量寿」 が、「あなた」 と同じなのである。罪悪深重の凡夫、すなわち「あなた」と呼びかけられた私も、この穢土を離れさえすれば、仏の無量寿そのものなのだ。

そう思えないとしたら、それは単に、自覚が足りないのである。"within you" などと英訳して、人間とは別ものである仏の無量寿が人間の中に宿るというように表現しようとした、私自身も含めて。

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コメント

英語で書くなら、

Now, LIFE is living your life.

だとわかりやすかったかも……?(全部大文字で書くと雑誌名みたいですが)

投稿: 山辺響 | 2008年7月24日 09:51

山辺響 さん:

>Now, LIFE is living your life.

なるほど。

ただ、これだと

"Now, Budda's infinite Life is living your life."

と、より具体的に言いたくなってしまいそう。

投稿: tak | 2008年7月24日 11:38

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