「差し水」 という迷信
そうめんや冷や麦の季節になった。いや、それに限らなくても、そば好きの私は、家でもしょっちゅう乾麺のそばを茹でて食べる。
ところで、麺類の袋に書いてある「茹で方」に、吹きこぼれそうになったら「差し水」 をするとおいしく茹で上がると書いてあったりするが、私としては、これは迷信だと思っている。
「差し水」は「びっくり水」ともいって、麺をおいしく茹で上げるために必要と、もっともらしく書かれているものがある。ネットの世界でも、例えばこちらなどは、「絶対必要」と言い切っている。「麺の外側を締め、中まで均一に茹で上げる為に絶対必要です。びっくり水を忘れると、コシのない、だらっとした素麺になってしまいます」というのである。
まあ、そう信じておられるなら、「びっくり水」をするぐらいは大した手間でもないので続けていかれればいいのだが、私個人としては、そんなことをしなくても「コシのない、だらっとした素麺」になるなんてことはないと、長い経験によって知っているので、やらない。
単純に考えれば、「差し水」「びっくり水」は、薪などの燃料しかなかった昔、火力調節が簡単にできなかったので、吹きこぼれを防ぐために水を足していたというだけの話なのだと思う。ガスコンロなどを使っていれば、火力調節は簡単にできるので、ちょいとつまみで調節すればいいだけのことだ。
差し水に麺の外側を締める効果があるといっても、沸騰する湯の中にちょっと水を差したところで、湯温がそれほど劇的に下がるわけでもない。その程度のことで麺が締まるなんていうのは、幻想だろう。
たとえ、微妙の上にも微妙に締まるなんてことがあったとしても、そもそもそれは一瞬のことで、またすぐに沸騰してしまうのだから、ほとんど意味がない。
確かに麺を「締める」ということは重要である。しかし、そのためには、茹で上がってからいかに素早く冷水に浸すかということの方が、ずっと重要だ。それに尽きる。
あらかじめ大きなボウルに冷水をたっぷり用意しておくのは当然だが、ざるですくい上げた麺をそれに浸す前に、思いっきり水道水をかけ、その後にボウルの水に浸すと、効率よく冷えてよく締まる。ボウルの水は最低でも 2回、うどんのように太めの麺なら、3回以上換えて締めなければならない。
専門店では氷水でキンキンに冷やしたそうめんや冷や麦を供してくれるところもあり、真夏の昼などにはとてもうれしい。しかし、そばの場合はそこまで冷やしてしまうと香りの立ち上るのが犠牲になるので、やりすぎだと思っている。
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コメント
それに差し水をすれば、熱湯の温度が若干下がりますね
これは意味がないと思います
やはり火力調節が出来なかった時代の方法だったのでしょう
スパゲッティーでは差し水は推奨されていない
よく言われているのは、出来るだけ豊富なお湯で煮ること
この意味がよくわかりません
多分、湯量が多ければ温度が安定するということかなと思っています
私も麺類は大好きです
ただし私が東京にいた頃は、夏に店で出るのは真っ赤なサクランボが入った「冷麦」が一般的でしたが、大阪に帰ってくると、もっぱら素麺です
テレビで見た情報によると「うどん」「ひやむぎ」「そうめん」の違いは麺の太さ・直径の違いだけらしいですね
投稿: alex | 2008年7月16日 10:04
長野県産『干しそば(袋乾麺)』の説明書きには、「差し水はしないで下さい」と、明記されていました。
ちょっとご報告。
投稿: オッチャン | 2008年7月16日 12:21
麺好きとしては気になりますね。先ず疑問は何故素麺は吹き易いかです。麺の質や表面によるのか、その細さによるのか?
どのような麺にしても強火で茹でるのは大切だと思いますね。絶えず沸騰した水温でないと、粉が粘り気を帯びる前に水分でばらける可能性がありますからね。澱粉の性質と思います。
つまり、指し水は火を強くした場合の止むを得ない処置と考えます。もし、指し水しなければ吹きこぼれ、温度を下げれば旨く茹で上がらない厄介な麺が素麺です。
これに似た性質があるのは、生蕎麦でしょうか。あのくっ付かないようにするメリケン粉が噴くのですね。
投稿: pfaelzerwein | 2008年7月16日 13:52
alex さん:
>テレビで見た情報によると「うどん」「ひやむぎ」「そうめん」の違いは麺の太さ・直径の違いだけらしいですね
うどんとひやむぎの違いは、太さだけでいいですけど、そうめんに限っては、製法からして違うと、私は理解してるんですがね。
JAS 規格は、野暮天です。
投稿: tak | 2008年7月16日 21:23
オッチャン:
そういえば、差し水をするなという表示を、私も見たことがあります。
投稿: tak | 2008年7月16日 21:25
pfaelzerwein さん:
>先ず疑問は何故素麺は吹き易いかです。麺の質や表面によるのか、その細さによるのか?
細くてすぐに熱せられるからだと思うんですけど、改めて考えてみると、そう言い切れるほど自信満々じゃありません
ただ、そうめんもきちんと火力調節すれば吹きこぼれませんよ。すぐに吹くことを考慮して、早めの火力調節が必要です。
いずれにしても、沸騰した湯の中に麺をパラパラッと入れて、すぐに蓋をしてしまうのが肝要です。少しでも早く再沸騰させるために。
で、沸騰して吹きこぼれる寸前に蓋を取るためには、中の状態が見える透明のガラス蓋が最適です。
>これに似た性質があるのは、生蕎麦でしょうか。あのくっ付かないようにするメリケン粉が噴くのですね。
いや、本当のそばは、メリケン粉じゃなく、そば粉を打ち粉につかいます。
まあ、コナコナが多いと吹きやすいというのはありそうですね。
たっぷりのお湯で茹でるのはマストとしても、それ以上に余裕のある大きななべで茹でると、そんなに吹きこぼれるもんじゃありません。
ちなみに、昔のなべの形、すなわち寸胴じゃなくどんぶりを拡大したような形のなべで茹でると、多少吹いても、吹きこぼれはしにくいので、お薦めです。
ドンブリ型の本体に透明な蓋というのが、麺を茹でる最高の鍋です。
投稿: tak | 2008年7月16日 21:39
差し水をすることで熱で膨らんだ麺内部の水蒸気や気泡が縮むとどうなるか考えよう。
差し水をするなの表示は入れる水の量・温度・コンロの火力により一定の出来上がりを保証できないため。インスタント麺は水から茹でても作れるけど、説明通りで同じ出来上がりにするには沸騰からにしないとコンロ火力に左右されるから書けない。沸騰まで30分かかるコンロなら間違いなくのびるからね。
投稿: そー | 2018年2月 3日 14:54
そー さん:
>差し水をすることで熱で膨らんだ麺内部の水蒸気や気泡が縮むとどうなるか考えよう。
私如きは、考えてもわかりません。究極的には結構な装置を使って実験しなければならないんでしょうが、そこまでする意義を感じません。
いずれにしても、厳密には 「一定のできあがり」 というのは、よっぽど熟練しないと期待できませんから、ある程度テキトーさが必要ですね。
投稿: tak | 2018年2月 3日 17:57