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2008年9月29日

失言問題の象徴する不毛な構図

非公式な酒席での話や他愛ない世間話としてならかなりの(あるいは圧倒的な)共感を呼ぶが、公式発言として口に出すと、途端にバッシングの対象になるというテーマがある。

中山元国交相の「失言」による辞任騒動はまさにそれである。惜しむらくは、公式発言の際のレトリックの稚拙さである。

今回彼が追及された「失言」は、「日本は単一民族」「成田空港闘争はゴネ得」「日教組解体」の 三つである。もっとも、今挙げたのは、センセーショナルな表現が好きなマスコミの見出しに沿ったもので、中山氏の実際の発言における文脈は、例によって無視されている。

冷静に見ると「日本は単一民族」という発言は、やはり問題がある。私自身も、日本人が単一民族であるとは思っていない。少なくとも、アイヌ、琉球民族は、一線を画してもいいと思っている。ただ、中国や東欧などのように、民族問題が大きな問題になっていないだけである。

そして、成田に関する「ゴネ得」というのは、これはちょっと認識が甘すぎるというものだ。フツーの道路建設などの際に決まって発生する、いわゆる「ゴネ得」とは、明らかに次元が違う。ここでは「もう少し勉強してからモノを言ってもらいたい」と言うにとどめる。

ところが、日教組問題に関しては、私は中山氏がそれほど間違ったことを言っているとは思わない。当人も、この点に関してだけは「撤回しない」と頑張っているようだ。それでマスコミは「確信犯」などと、さらに煽り立てている。

中山氏が間違えたのは、日教組に関する批判そのものでなく、レトリックだろうと思う。彼は公式の席で、酒席での世間話に準じたレトリックを採用してしまった。それがいけなかったのだろう。我が先輩、alex さんも、そのような指摘をしておられる(参照)。

もう少し論理的な言い方をすればよかったのだろうが、ただ悲しいかな、日本における政治講演会においては、それでは聴衆に受けないのである。それで、つい迎合して下卑た言い方を多用することになる。政治家の講演会なんて、録音しておけば後で使えそうなツッコミどころ満載なのである。

つまり、フツーの「政治好き」なオッサンが、「酒席での世間話」を公式の場で大臣から引き出し、それを単なる建前好きのマスコミが叩くのである。しかも田中真紀子流のおばさん的ポピュリズムに乗っかった上での下卑た話はあまり問題にされないのに、ちょっと硬派なおっさん的世間話になると、途端にバッシング対象になる。

これは日本の政治を象徴する不毛な構図である。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

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経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

お付き合いで年に数回はいわゆるパーティにでます。
話された内容について後日報道されたものを見たり聞いたりすると、「あれ?そんなふうにはいってなかったけどなあ」ということがよくあります。
あげ足を取って面白くて物議をかもし出してくれるような記事に編集している。
なんでそんなことするんだろう?
政治家のセンセイたちはけっこう怒ってました。
マスコミには勝てないみたいですよ。

投稿: osa | 2008年9月30日 02:39

 「酒席での世間話」とは言い得て妙ですね。
中山前大臣の発言は、右がかっていたウチのじいちゃんが飲むと必ず言っていた口癖を彷彿とさ
せて、先週末のウチのじいちゃんの三回忌では、「そういえばじいちゃんがそんなこと言ってい
たねぇ。」と、親類みんなが懐かしがっていました。(笑)

 私も某野党党首の講演を聴いたのですが、翌日の報道では、「これ言っていないんじゃないか
な・・・」という内容になっていました。
 某テレビの討論番組は、盛り上がっている山場だけをつなげているらしいですし。(まああん
なテンションで、小一時間やっていたら、さしもの議員さんも疲れるだろうとは思っていました
が。)

 考えてみれば報道の切り口ってほんの一面なのに、それをすべてだと誤解してしまうのはおっ
かないですね。マスコミ論の授業で習ったことを思い出しました。

投稿: 雪山男 | 2008年9月30日 08:45

osa さん:

>話された内容について後日報道されたものを見たり聞いたりすると、「あれ?そんなふうにはいってなかったけどなあ」ということがよくあります。
>あげ足を取って面白くて物議をかもし出してくれるような記事に編集している。

遠景で撮れば穏やかな景色でも、ある一点のみをクローズアップするとかなりの迫力だったりしますよね。

マスコミは、意図的なクローズアップが好きなんだと思います。

投稿: tak | 2008年9月30日 08:54

雪山男さん:

>中山前大臣の発言は、右がかっていたウチのじいちゃんが飲むと必ず言っていた口癖を彷彿とさせて、先週末のウチのじいちゃんの三回忌では、「そういえばじいちゃんがそんなこと言っていたねぇ。」と、親類みんなが懐かしがっていました。(笑)

飲み屋とかサウナとか、行けばほぼ確実にそんなような話で持ちきりのグループがいますよね。

マスコミは 「おばさん的ポピュリズム」 が好きで、「おっさん的ポピュリズム」 は本能的に叩きたくなるもののようです。

>私も某野党党首の講演を聴いたのですが、翌日の報道では、「これ言っていないんじゃないか
な・・・」という内容になっていました。

そういう場合は、記者が何度も同じ話を聞いているので、自分の中に、そっくりだけど別のストーリーができてるんですよ。
それを書いちゃうんです ^^;)

投稿: tak | 2008年9月30日 09:01

逆に、酒席なので目くじらを立てるのは憚られるけど訂正してやりたい放言というのもありますよね。
中山氏は「閣僚となった以上してはならない発言を…」としおらしく述べていましたが、じゃあ閣僚でなければ良いのかと思う発言ばかりだったように感じました、私は。

コンテクストが無視された報道というのはよくありますが、一方「私は本当は良い人なのに」という自分の意を汲んでくれないから「コンテクストが…」と文句を言う政治家が多いのもまた事実です。

プロの政治家は他愛のないスピーチの中に重要発言をさらっと紛れ込ませることも多いため、記者は絶えずピリピリして聞いてます。パーティーなどの挨拶でそうした発言があっても、一般客にはわからないこともあると思われます。グレーな場合、記者が事後に舞台裏で裏取りをしていることも多いと思います。

また、ヨタ話や舌足らずであっても、記者はスルーすれば「緊張関係が欠けている」と糾弾される立場にあります。実際、たとえば我々が麻生首相の性格についてある程度知っているのは、これまでの彼の放言に関するこまごまとした報道のおかげです。「くだらない記事ばかり書いてるな」とも一概に言えないのです。

塩ジイには泣かされました。トンチンカンな(かつ金融市場が動いてしまうような)発言のおかげで、会見のもともとの主題に関する記事が後回しになってしまったかと思えば、ボソっと言った落語みたいな話がG7の為替政策に関する重要発言だったりして。

投稿: きっしー | 2008年9月30日 14:33

きっしー さん:

>逆に、酒席なので目くじらを立てるのは憚られるけど訂正してやりたい放言というのもありますよね。

確かに ^^;)

>コンテクストが無視された報道というのはよくありますが、一方「私は本当は良い人なのに」という自分の意を汲んでくれないから「コンテクストが…」と文句を言う政治家が多いのもまた事実です。

何年政治家をやっても、どう言えばどう報道されるかを学べないんだなあと思います。

もうちょっと頭が良ければ、ちゃんとまともに報道されやすい、整理された形での発言ができるだろうに。

>プロの政治家は他愛のないスピーチの中に重要発言をさらっと紛れ込ませることも多いため、記者は絶えずピリピリして聞いてます。パーティーなどの挨拶でそうした発言があっても、一般客にはわからないこともあると思われます。グレーな場合、記者が事後に舞台裏で裏取りをしていることも多いと思います。

グレー発言が多いので、大変でしょうね。裏取りしようとしてもはぐらかされたりしませんかね。

>たとえば我々が麻生首相の性格についてある程度知っているのは、これまでの彼の放言に関するこまごまとした報道のおかげです。「くだらない記事ばかり書いてるな」とも一概に言えないのです。

なるほど。

>塩ジイには泣かされました。

そうでしょうね。
私は外野から見るだけでしたから、あの人、好きでした ^^;)

投稿: tak | 2008年9月30日 14:53

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