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2008年9月14日

「あなたとは違うんです」 という発想の仕方

富山県の黒部市に出張し、昨夜は魚津市のホテルに泊まった。魚好きの私であるからして、昨日の昼から今日の昼まで、4食おいしい魚を食べまくり、非常に満足である。

ただ、睡眠と情報不足のため、今日の記事のネタに苦労して、帰りの新幹線でネットを検索していたら、興味深い記事が見つかった。

"[間歇日記]世界Aの始末書" というブログの " href="http://ray-fuyuki.air-nifty.com/blog/2008/09/post-28e4.html">「あなたとはちがうんです」って、どう英訳します?" という記事である。管理人の冬樹蛉さんが、福田首相の「あなたとはちがうんです」という捨てぜりふが、外国のメディアでどんな翻訳で紹介されているかを調べてくれている。彼が挙げている例を引用しよう。

I can see myself objectively, as opposed to you. (telegraph.co.uk

I can see myself through an objective perspective. I am different from you. (Asia Times Online

I am able to view myself objectively and that is my strength. (Business Week

I am able to look at myself in an objective manner. I am different from you in that respect.  (Asian Gazette

I can see myself objectively. I'm not like you. (Reuters > Yahoo! News

ご覧のように、「あなたとは違うんです」を、アジア系の 2紙は "I am defferent from you" と、和英辞書的直訳で済ませていて、欧米系 3紙はそれぞれ別の言い方に訳しているのがおもしろい。これについて、冬樹蛉さんは次のように分析しておられる。

欧米的な indivisualism が無意識にでもベースにあると、AさんとBさんとが different であるのはあたりまえのことであって、different では「おれはおまえより上等な人間なのだ」という倣岸なニュアンスが出ない。しかし、英語を外国語として学習したアジア人が読むと、たしかに福田さんの言いたいことは different でわからんでもない。

なるほど、言えてる。英語が話される社会における基本的なコンセプトからすれば、 "I am defferent from you" という英文は、「当たり前すぎて言うまでもないこと」で、それをもっともらしく言ってしまっては、「それがどうした?」になってしまう。

ちなみに 私自身が試しに英訳しようと試みた際にも、お陰様で "defferent" という単語は発想に浮かばなかった。「私はあなたと違う」という日本語はあり得るが、それを英語に直訳したら、まともに落ち着かなくて、ちょっと気持ち悪い。

まあ、Asian Gazette の翻訳は、"in that respect" (「そうした点では」 って感じかな)が付いているだけ違和感が和らげられているから、いいんだけど。

私としては、"I always see myself objectively. Can you do that?" というような英語になるんじゃないかと思ったのである。直訳すると、「私はいつも自分自身を客観視するんです。あなたはそれができますか?」ということになる。言外に「できないでしょ?」というニュアンスを含む。

冬樹蛉さんは、ロイターの翻訳について、「“I'm not like you” というのは、じつにうまい」と評価しておられる。なるほど、確かにキレがいい。元の日本語のニュアンスに最も近いだろうと思う。

件の捨てぜりふの翻訳に "different" という単語を使うか使わないかというのは、とりもなおさず、「みんな同じさ」というアジア的発想と、「1人ずつ違って当然」という欧米的発想のギャップと言っていいだろう。

英語を学ぶ意義として最も大切なのは、この両方の発想を、身体的なレベルで理解できるようになることだと思うのである。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

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コメント


後半部分、私は
Ican't share your opinion
と言うと思います

または、ピシャリと
It's your opinion


投稿: alex | 2008年9月15日 01:30

alex さん:

>後半部分、私は
>Ican't share your opinion
>と言うと思います

>または、ピシャリと
>It's your opinion

う~ん、

「alex さんならそう言う」 ということで、福田さんの捨てぜりふの翻訳ではないですね。

キレがよすぎて、福田さんのあの発言のレベルの低さが表現されてません。

あの発言は、政治家の発言としては、子どもの 「おまえのかあちゃん で~べそ!」 程度に相当すると思ってます。

投稿: tak | 2008年9月15日 09:41

毎度失礼します。

ロイターなどが欧米系という括りは間違いではないですが、日本に関する記事はそれなりに日本語チックになっていることも少なくないです。そうしたグローバルな会社(他にダウ・ジョーンズやブルームバーグ等)では、書いているのは日本語が母国語の記者という場合が多いからです。ちなみに、原稿を手直しするエディターは英語が母国語の人がほとんどですが、それはアジア系とされたメディアでも同様でしょう。

本記事の比較の場合、仰るとおりロイターの訳が一番良いです。ただ、これは「欧米-アジア」という差よりも、鍛えられた記者やエディターをより多く擁しているという意味で、サンプルに選ばれたメディア間の格の違いが大きいと個人的には思いました。「アジア系」各社は小さい所帯でしょう。「欧米系」でもデイリー・テレグラフの訳がややブロークンなのは、同紙くらいの規模だと東京ではストリンガー契約のフリーランサーが書いているのではないかと思われます。ビジネスウィークの訳の後半が原文とかけ離れているのは、同誌の編集権の構造の問題だと私は見ています。同誌においては本社のエディターの権限が強力で、「跡形も無く書き換えられる」というぼやきが各地から聞こえてきます。


ちなみに、私ならロイターのを少し短く口語的にして、
I can see myself objectively — unlike you!
とします。

投稿: きっしー | 2008年9月16日 19:46

きっしー さん:

>ただ、これは「欧米-アジア」という差よりも、鍛えられた記者やエディターをより多く擁しているという意味で、サンプルに選ばれたメディア間の格の違いが大きいと個人的には思いました。

その辺の事情を開設して頂き、納得です。

Business Week の訳は、確かにやりすぎですよね。

短歌や俳句の選者が 「添削」 と称して原作を跡形もなく作り替えてしまうのを連想しました。
中には、誤解のもとに無茶苦茶にしちゃう例もあるんですよね。

投稿: tak | 2008年9月16日 22:27

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