AC の CM についてなんだけど
今日の記事は、「揚げ足取り」 に近いものである。しかし、私の感覚としては、書かずに済ますのは気持ち悪いので、書いてしまう。
それは AC(公共広告機構)のラジオ CM である。AC は近頃、環境キャンペーンに力を入れているようで、別にそれをどうこういうわけじゃない。ただ、言葉の使い方の問題である。
近頃、車を運転して帰宅する頃、よくこのラジオ CM を聞く。そして、聞く度に「この CM 、おかしいぞ」と思ってしまう。CM の趣旨はいいんだけど、聞く度にその論理の流れが気持ち悪いので、せっかくの趣旨が飛んでしまいそうだ。
それはこんな CM である。
(「ドサッ、ガチャガチャ」 という音)
なんの音か、わかりますか?
今あなたが想像したものは、ごみの音ではありません。
資源です。
なくなるといいな、「ごみ」という言葉。
3R 推進団体連絡会
♪ AC~
冒頭の「ドサッ、ガチャガチャ」という音だが、初めて聞いた人の多くは、まずなんの音だかさっぱりわからないだろう。だからその直後に、「なんの音か、わかりますか?」なんて言われても、「わかりません」というほかない。
強いて想像しろと言われたら、私だったら、夫婦げんかで茶碗が飛び交う場面や、地震で棚から食器が落ちる場面を思い浮かべる。ゴミを投棄するときの音だなんて、すぐにわかる人はごく少数だろう。
で、いきなり「今あなたが想像したものは、ごみの音ではありません」とたたみ込まれる。そんなことを急に言われても、「いや、別になにも想像できてないから」と反応するほかない。いや、もっと言えば「お前、どうして俺の想像をのぞいてるつもりになってるんだ?」という反応の方が正解かもしれない。
それに、この部分の言葉遣いが、論理的におかしい。ラジオを聞いている者が、たとえごみを投棄する場面を思い浮かべたとしても、それは 「ごみ(とフツーには思われるもの)の"音"」を「想像した」わけじゃない。想像したのは「音」ではなくて、「場面」のはずである。
「ごみ(とフツーには思われるもの)の"音"」 そのものは、「想像」なんてするまでもなく、まさに聞かされたばかりなのである。冒頭にそれを聞かせたのは、AC、お前自身じゃないかと言いたくもなるではないか。
だから、この CM を聞いて「ごみ(とフツーには思われるもの)の"音"」を「想像した」人なんて、一人もいないのである。繰り返すが、ほとんどはごみ(とフツーには思われるもの)の音とは知らずにではあるが、「想像した」のではなく、「聞かされた」のである。
「ごみ(とフツーには思われるもの)の"音"」を「想像する」としたら、それは、音以外の情報からでなければならない。「音」を聞かせておいて、言外に "「音」を想像しちゃったでしょ" みたいな、論理的不整合を押しつけがましく言われ、さらに「~ではありません」なんて、勝手に否定されたら、気持ち悪くなるばかりである。
だから、この流れをきちんと論理的に言うとしたら、
「今あなたが想像したものは、ごみの音ではありません」 ではなく、、
「今お聞かせしたのは、ごみの音ではありません」
あるいは、
「ごみの音だと思われたかもしれませんが、実は、それはごみではありません」
のような流れにならなければならないだろう。その上で、「これまでごみと思われていたものは、実は『資源』なのである」というようなことを続ければいい。
AC の CM って、ほとんどはなかなかいいんだけれど、ときどき、上滑りしちゃってるのがある。ミッションの崇高さに、作り手が酔いすぎてるのかもしれない。
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コメント
このCM、私も違和感ありました。それも、言葉狩りという印象で。
ゴミは生活していれば必ず出てしまう。ただ、それを循環させたり、
減らす方向へもっていけたらいいね、それで十分ではないかと。
ゴミということばがなくなればいいっておかしくないかと。そもそも記号としての単語
という側面が無視され、「想起されるイメージが適切でない」からといって責任とって!と
叫ぶのを聞いたような気持ち悪さ。
takさんがおっしゃる違和感も、「ゴミといって連想するのは、こんな感じの音?」
くらいにとどめてくれたらよかったのにと思います。
>ミッションの崇高さに、作り手が・・・
TVCMでは斬新なものも見られましたけど、最近、ちょっと「あれ?」と思う
切り口のものが増えましたね。ただ、試行錯誤しながらも挑戦し続けてる感じは
好ましく思っておりますが・・・
投稿: banan | 2008年9月10日 14:47
banan さん:
>このCM、私も違和感ありました。それも、言葉狩りという印象で。
なるほど、その視点もありますね。
「ごみ」 という言葉が本当に使えなくなったら、やっぱりちょっと困ります ^^;)
>ただ、試行錯誤しながらも挑戦し続けてる感じは好ましく思っておりますが・・・
私もその辺は評価してます。
だからといって、「ミッションが素晴らしいんだから、このくらいしなきゃ」 みたいな突っ走り方というか、押しつけがましい主張をされると、やっぱり違和感ですね。
投稿: tak | 2008年9月10日 15:04
>「ごみ」 という言葉が本当に使えなくなったら
赤ちゃんと接していると、ゴミという言葉を最初におしえたといっても過言ではなくて。自分でも「ゴミ」という言葉をこれほど口にするものかと
驚いたくらいでした。
それはゴミだからね、と。口に入れてはいけないもの、おもちゃにしてはいけないもの、衛生的でない場合もあるし(ばっちい)それが何なのか教えるために重要な単語でした。
そのせいで余計に敏感に反応してしまったのかもしれません。
思いのたけを聞いてもらえてスッキリしましたのに、ご返答までいただけてとても光栄です。有難うございました。
投稿: banan | 2008年9月11日 08:10
banan さん:
>それはゴミだからね、と。口に入れてはいけないもの、おもちゃにしてはいけないもの、衛生的でない場合もあるし(ばっちい)それが何なのか教えるために重要な単語でした。
なるほど。
赤ちゃんにばっちいものとそうでないものの区別を教えるのは、なかなか長期戦ですよね。
とにかく何でもかんでも口に入れたがるから。
口に入れてみて、赤ちゃんなりに学んでるんでしょうけどね。
投稿: tak | 2008年9月11日 12:58
護美箱とか書いてあるゴミ箱って
投稿: やっ | 2008年9月11日 21:04
やっ さん:
>護美箱とか書いてあるゴミ箱って
いくら 「護美箱」 でも、口に出して発音しちゃえば 「ゴミバコ」 なんだもの ^^;)
試しに Windows のデスクトップにある 「ごみ箱」 を 「護美箱」 に変えてみましたが、あまりに異様なので、すぐ元に戻しました。
投稿: tak | 2008年9月11日 22:59
あんまり引っ張ると恥ずかしいので、メールできないかと思ったのですが見当たらなかったのでコメント欄に戻ります。
その前にお二人の護美箱にまつわる短い冒険、ウケました。
いま、言葉を覚える前の赤ちゃんに簡単なbaby signを教えて親子でやりとりをしようという考えがありまして。やってみたかったので、ゆるーく取り入れて、ちょっとは実践できたひとつが「ごみ」でもありました。
赤ちゃんは、辛抱強くジェスチュア付で話しかけるうちに「きたない」と「ごみ」の違いを覚え、単純な「ごみ」は触っても平気と感覚的に覚え、包装ビニルなどを親の手からとって迷わずゴミいれに運ぶという人生最初のお手伝いをこよなく愛するようになりました。
分別が大まかだった時代に比べれば、いまでは格段に意識が高まっていますし、今回の違和感も含めて注意喚起に役立っているとすれば、また良いお話なのかもしれませんね。
投稿: banan | 2008年9月12日 09:00
banan さん:
>赤ちゃんは、辛抱強くジェスチュア付で話しかけるうちに「きたない」と「ごみ」の違いを覚え、単純な「ごみ」は触っても平気と感覚的に覚え、包装ビニルなどを親の手からとって迷わずゴミいれに運ぶという人生最初のお手伝いをこよなく愛するようになりました。
ほほう、素晴らしいですね。
「きたない」と「ごみ」の違いを知るというのが、重要ポイントですね。
投稿: tak | 2008年9月12日 10:30