百貨店というお仕事
例の金融不安の余波で、ラグジャリー・ブランド商品の売り上げが落ちているようだ。
先頃資本・業務提携を発表した高島屋・エイチ・ツー・オー リテイリングによると、8月までの半期の売上げが前年同期比で、ルイ・ヴィトンが 10%、コーチが 15%、シャネルに至っては 20%以上落ち込んだという(参照)。
日本の百貨店では、業務提携というのはずっと前からあったが、近頃、資本提携ひいては経営統合によるグループ化が進んできた。百貨店がいくつかの有力グループに色分けされるという、米国みたいな様相にようやくなってきたようなのである。
これで競争力を高めようということなのだが、ちょうどそんなときに、米国の金融バブルがはじけて、世界中のラグジャリー市場に大打撃を与えることになった。百貨店の商品ラインはかなり贅沢品にシフトしているから、影響は大きいだろう。
私自身、近頃は百貨店で服を買うことは滅多にない。こんな言い方をして申し訳ないが、百貨店というのはもう終わりかけている業態だと、個人的には思っている。
百貨店の売場をみればわかることだが、あれは今や、ほとんど「場所貸し業」である。百貨店独自にマーチャンダイジングをしているフロアも少しはあるが、ほとんどは、メーカーに売場を貸しているだけだ。
百貨店の洋服売場の店員というのは、全てではないが、百貨店の社員ではなく、アパレル・メーカーから派遣された店員である。だから、消費者がほかの洋服を気に入っているようでも、自社の洋服を無理矢理試着させようとしたりする。
そして「こちらの方が映りがおよろしいように思います」なんて、わかったようなわからないようなことを言って、何とか自社の洋服を買わせようとする。そりゃそうだ。彼女らは、百貨店の店員ではなく、特定のアパレル・メーカーの人間なのだから。
「売れりゃ何でもいい」というわけじゃない。自社の洋服が売れないと困るのだ。だから、百貨店の店員の言うことを、あまり信じすぎてはいけない。
つまり、百貨店の洋服売場のほとんどは、アパレル・メーカーが自前で販売員を派遣して、自前で商品管理をして……、つまり、アパレル・メーカーが百貨店から場所だけ借りて、ほとんど自前で売っているのである。
ところが、不思議なことに、アパレル・メーカーがほとんど自前で売っているにもかかわらず、百貨店で売られる商品というのは、手続き上は、アパレル・メーカーから百貨店に卸して、百貨店が消費者に小売りしているという形になっているのである。
つまり、「アパレル・メーカーから百貨店」、そして「百貨店から消費者」という、2つの「売上げ」が、名目上は、発生しているのだ。実際上は、ほとんどメーカー側のオペレーションでまかなっているのに。
傍目から見れば、そんなややこしいことは止めて、百貨店はアパレル・メーカーから「テナント料」だけを取るということにすれば、経理上の面倒な手続きが消え、やたらややこしいコンピュータ・システムもすっきりして、ずいぶん合理化されるだろうと思う。しかしどういうわけか、そういう話は全然もちあがらない。
なぜかといえば、それは百貨店が「名目上の売上げ」という数字を欲しがっているからである。単なるテナント料だけをもらうのでは、この数字がぐっと下がる。すると、日本最大規模の売上げを誇る」という枕詞を付けてもらえなくなるのである。それが痛い。
だが、今どきこんな不思議な、無駄の多い商売をしていたのではどうにもならないので、百貨店も最近は「リスクを負った自前のマーチャンダイジング」というのを志向している。ところが、これもなかなか進まない。
この点で進んでいるのは、「東の伊勢丹、西の阪急」なんて言われているが、私からみると、両方とも立地に恵まれている(後背地に日本最大級の水商売地帯)ことが大きいという気がする。日本中の百貨店がそれを見習っても、仕方ないと思うがなあ。
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コメント
百貨店ってそういうシステムなんですね。なんか納得です。
確かに、若い人のイメージとしては、「百貨店に行く」のではなく「お気に入りブランドのお店
(が入っている百貨店)にいく」ですよね。
ただし、中元、歳暮の贈り物の包装だけは地元(もしくは全国区)の百貨店のものが、まだ威力
があったりして。。。
投稿: 雪山男 | 2008年10月15日 16:44
雪山男 さん:
>ただし、中元、歳暮の贈り物の包装だけは地元(もしくは全国区)の百貨店のものが、まだ威力があったりして。。。
三越とか、高島屋の包装紙の威力ですね。
ただ、あれらの包装紙のデザインって、無心に眺めてみると、ものすご~くダサダサな気がするんですけど、いかがでしょう?
(とくに三越 ^^;)
投稿: tak | 2008年10月15日 20:57
自己レス失礼
三越の包装紙、ダサダサと書きましたが、ちょっと調べたら、あれ、猪熊弦一郎画伯のデザインに、やなせたかし氏のレタリングなんだそうです。
それでも、私の印象としてはダサイけど ^^;)
それに薔薇の包装紙も、ちょっと …… ^^;)
投稿: tak | 2008年10月15日 21:07
確かにデザインとしては「?」ですけど、不思議と安心感があるような気がしますけどね。
そうか、それがねらいか!(笑)
投稿: 雪山男 | 2008年10月16日 11:09
雪山男 さん:
なるほど (^o^)
投稿: tak | 2008年10月16日 15:38
確かに百貨店なんて業態は終わってますね。
先日、薔薇の包装紙の店にコーヒードリッパーにお湯を細く注ぐケトル(正式になんというのでしょうか)を買いに行きましたが、置いてないんですね。
帰ってから楽天とAmazonで調べるとその種類の多いこと。結局Amazonで買いました。
百貨店は売り上げ前年割れを繰り返してますが当然の結果でしょうね。楽天やAmazon、家電量販店の売り上げが伸びることはあっても百貨店の売り上げが伸びることはないでしょうね。
中元と歳暮の時しか使い道がないですね。
投稿: 偽浜っ子 | 2009年2月 5日 01:24
偽浜っ子 さん:
>先日、薔薇の包装紙の店にコーヒードリッパーにお湯を細く注ぐケトル(正式になんというのでしょうか)を買いに行きましたが、置いてないんですね。
百貨店で売ってるのは、高い食い物と、高い着る物と、贈答品だけと割り切る方が面倒がないです。
>百貨店は売り上げ前年割れを繰り返してますが当然の結果でしょうね。
マーケティングとマーチャンダイジングの発想が貧弱ですからね。
人口の少ない富裕層を、多すぎる百貨店が奪い合っているだけです。
これからますます閉店する店が増えます。
投稿: tak | 2009年2月 5日 13:32