非常識の裾野
例のこんにゃくゼリーの問題で、いろいろな意見が出ている。餅で死ぬ人の方がずっと多いとか、それでもやっぱり、危険な食品を野放しにしておくべきではないとか。
私は自分なりの結論を用意しているわけじゃないが、この問題を考えるときに、餅と一緒にすべきじゃないとだけは言いたいと思う。
私は餅という食べ物のリスクを結構重要視していて、このことについて、過去に 2回書いている (参照 1、参照 2)。昨年正月の記事には、"元日付のニュースでは、東京消防庁によると、「70-90歳代の男性 7人と女性 2人の計 9人が病院に運ばれ、うち 5人が重体」となっている" と紹介している。
たった 1日足らずの間に 9人も病院に担ぎ込まれて、5人が重体になり、翌日付のニュースでは、そのうち 2人が死んでしまっているのである。このことからもわかるように、正月の餅というのは、フグなんかよりもずっとリスキーな食品なのだ。
ただ、正月の餅が「フグなんかよりもずっとリスキー」というのは、一人の人間が食べるとして、餅とフグとではどっちが危ないかという問題ではない。餅という食品のマーケット的な広がりを含めての話である。
考えてみるがいい。正月になれば、日本人の多くが餅を食う。非常に少なく見積もっても、おそらく 3人に 1人は食べるだろう。ということは、日本中で何千万人の人が一斉に餅を食うのである。
一方、フグなんてフツーの人の口には滅多に入らない。生まれてから一度もフグを食ったことのない人だって、いくらでもいる。私の周囲にも何人もいる。分母が違うのだ。
同様に、餅は食ったことがあるが、こんにゃくゼリーを食ったことのない人だって、いくらでもいる。現に私がそうである。これを考えれば、「こんにゃくゼリーより餅の方がずっと危険」というのは、正しくもあり、間違いでもある。視点によるのだ。
と考えれば、こんにゃくゼリーはそれほど多くの人が日常的に食べているわけでもないのに、時々死者が出ちゃうというのは、「やっぱり、ちょっとやばいかも」と思うのも自然のことと思う。
さらに実際に死んでしまうのは、息がつまって「うっ、やべ!」と思ったけれど、なんとか吐き出すか飲み下すかして助かった人の数の何十分の一、何百分の一だろうと想像すれば、ちょっとどころか「けっこう、やばいかも」となってもいいかもしれない。
しかし、その「やばさ」は既にかなり広く知られていて、パッケージにも注意書きがある。今回久しぶりに出た死者というのは 2歳にもならない子どもで、おばあちゃんに凍ったものを与えられて食べたのだという。この非常識さを勘案すると、あまりヒステリックに言い立てるのもどうかという意見にもうなずける。
しかし世の中には、赤ん坊に凍ったこんにゃくゼリーを食べさせるおばあちゃんみたいな、命知らずの非常識人間が、いくらでもいるのである。先日も、小学校の屋上の採光窓の上でジャンプして、ガラスを突き破って墜落死した子どもがいたではないか。
そこまで行かなくても、休日のファミレスの禁煙席は大人同士が多く、煙がもうもうと漂う喫煙席は小さな子どもを含む家族連ればかりということなどを見ても、世の中というのは小さな非常識程度なら平気でまかり通るところなのである。
こうした「小さな非常識の大きな裾野」があればこそ、極端な非常識だって生まれるのだ。今、言われているのは、そうした極々少数の「極端な非常識人間」を救うために、こんにゃくゼリーを世の中からなくしていいのかという問題である。
冒頭にも書いたように、私はこの問題の結論を持っていない。ある意味「小さな非常識の裾野」を小さくすれば極端な非常識だってずっと減るだろうが、いつまでたってもゼロにすることはできない。それが難しいところである。
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コメント
どっちが危険?
当然餅の方が危険です。大きさが固定されていませんし、柔らかさ(固さ)も決して一定ではありません。
だから、昔から気を付けて食べるものと、教わっています。
逆に一定の固さで、大きさで、お菓子の感覚で「ぽいぽい」食べられて、餅のような警戒感もなく口に入っていることでしょう。
もっとも、餅でも「ぽいぽい」食べちゃってますが…。(例えそれが搗き立てであっても、パックのお餅でも…)
飲食店で煙草禍に置かれた子ども達…。ある意味、餅よりも危険に晒されています。
投稿: オッチャン | 2008年10月 3日 13:10
オッチャン:
>当然餅の方が危険です。
文化というのは、命の危険を超越して持続するんですね。
餅といい、フグといい、煙草といい、酒といい、口にするものじゃないけど、諏訪の御柱祭のように、人死にの出る祭りもかなりあります。スポーツだって、時々死ぬし。
人間というのは不思議なものですね。下手したら死ぬものを好んじゃうんですから。
投稿: tak | 2008年10月 3日 15:32
再レスにて恐縮です。
餅が考案されたころは、のどに詰まらせる事例が数多あったものと、想像します。
でも、食品として現在でも存在し、アタクシもおいしく頂いております。
件の食品は、まさに過渡期という状態でしょう。
さてさて、餅とは違う成り立ちの食品ですが、ここで文化の終焉に、至ってしまうのでしょうか…。
投稿: オッチャン | 2008年10月 3日 15:46
こんにゃくゼリーは食べた事ありますけれど、なんというかかみ切りにくい食品ですね。(まぁ餅もかみ切りにくいんですがw)
餅の場合は旨さというのが食べにくさを超えて市場に残ってきた理由だと思うのですが、こんにゃくゼリーの場合、旨さとかよりも”機能性食品”的な部分、いわゆるローカロリーという部分が本質だと思うんですよね。
旨さに対する、食べにくさや危険さを天秤にかけても、食べる事を選択するというのは、やっぱり自己責任というものでしょうかねと思うのですが、こんにゃくゼリーのローカロリーであること(まぁつまりはダイエットだとかそういう部分)での完全加工食品という事になれば、それは命がけで食べるものではないような気がしますね。
というか、もうちょっとかみ切り易い加工でいいじゃないのって正直思います。あの食べにくさが目的ではないのだから。
投稿: きんめ | 2008年10月 3日 16:06
私が製造会社の社員なら、水分を増やし、喉に詰まらないくらいサラサラの製品にし、新たな角度からマーケティングします。
私が製造会社の経営者なら、賠償責任のリスクがあるから、何はともあれ回収・販売中止に踏み切り、仕切り直しを図ります。
私が被害者(?)の遺族であれば、(1)製造会社に非があると思うなら民事訴訟でシロクロをつけ、(2)喉をつまらせたジイちゃんがアホやったと思うならニュースの取材や当局のヒアリング等にそう答えます。
私が行政当局者であれば…悩むところです。ダイエットで必要としている人たちが不利益をこうむってでも「常識を欠き、無謀なことをする人々」を保護する必要があるのか。後者がもっと他人に被害をおよぼすような無謀行為をするよりは、こんにゃくゼリーでも食っててくれるほうが良くないか…
こんにゃくゼリーが禁制品になった場合、私が愛好家であれば「私たちのこんにゃくゼリーを返せ!」と行政訴訟を起こすべきでしょう。
私は本当はこんにゃくゼリーを好みませんが、メタボという意味では原告の資格があると考えられます。しかし、それよりも買いだめしておき、闇市場で一儲けするほうがいいかな?
ヒマ人ですみません。
投稿: きっしー | 2008年10月 3日 16:48
オッチャン:
>餅が考案されたころは、のどに詰まらせる事例が数多あったものと、想像します。
>でも、食品として現在でも存在し、アタクシもおいしく頂いております。
餅が考案された頃は、多分玄米餅だったでしょう
から、あまり喉に詰まらなかったと思います。粘りけが白米餅ほどじゃなくて、今の餅とはちょっと違います。
でも玄米餅、うまいですよ。
搗くのにエネルギーが要るけど。
>件の食品は、まさに過渡期という状態でしょう。
白米餅の定着プロセスになぞらえれば、そうかもしれませんね。
規模が違いすぎる気もしますけど。
投稿: tak | 2008年10月 3日 20:33
きんめ さん:
>もうちょっとかみ切り易い加工でいいじゃないのって正直思います。あの食べにくさが目的ではないのだから。
そんな食いにくいんですか。(知らなかった)
加工の問題もありそうですね。
投稿: tak | 2008年10月 3日 20:34
きっしー さん:
>ダイエットで必要としている人たちが不利益をこうむってでも「常識を欠き、無謀なことをする人々」を保護する必要があるのか。後者がもっと他人に被害をおよぼすような無謀行為をするよりは、こんにゃくゼリーでも食っててくれるほうが良くないか…
この部分、いたく共感 ^^;)
>しかし、それよりも買いだめしておき、闇市場で一儲けするほうがいいかな?
そういう事例が、必ず出ますね (^o^)
投稿: tak | 2008年10月 3日 20:37
蒟蒻ゼリーの事ではなく、9月1日の「ツクツクホウシがまだ鳴かない」に対してなのですが、だいぶ下に↓いっているので、ここに書き込みさせてもらいます!群馬県伊勢崎市です。2週間ほど前に華蔵寺公園というところに行ったときは、相当な数のツクツクホウシが鳴いてましたが、10月に入って今日も散歩がてら行ってきたんですが、まだツクツクホウシは頑張って鳴いてます!数はもう少ないですが、まだ夏を頑張ってくれていました!でもセミの声は聴けてもあと1週間くらいでしょうか…。
投稿: シン | 2008年10月 3日 21:59
こんにちは。
こんにゃくゼリーのあの歯ごたえが大好きな私です。
普通の一口カップゼリーは軟弱すぎて食べる気がしません(笑)
現代人の噛む力と「噛む意欲」が落ちているのも、こういう事故の一因ではないかと思います。
十分に噛まなければ、何だって窒息の原因になりますよ。
こんにゃく(ゼリーじゃない元祖)で窒息した人という話はあまり聞きませんが、咀嚼能力の不十分な人や小さな子供はこんにゃくを敬遠するからなんでしょうね。
投稿: karin | 2008年10月 3日 22:54
私、本件には興味ないんです
自己責任じゃないかと思うだけです
ツクツクボウシですが(笑)
各国のジャングルでの自然音(サルや鳥や昆虫の声)のCDを聞いていたら、どの国のものか、地味ですが(笑)ツクツクボウシの鳴き声が聞こえました
だいぶ、なまっていましたけれどね(笑)
ヴィエトナムでも山の中で蝉が鳴いていましたけれど、日本の蝉のような明快な鳴き声ではありませんでした
なんだか便秘でもしているような低い元気の無い声でした
投稿: alex99 | 2008年10月 3日 22:56
コンニャクゼリー食べた事が無いのでコメントしようがいですが、山形は米沢・小野川温泉の玉こんにゃくで舌を火傷した経験があります。熱いもので窒息って無いような気がする。冷たい食品とか、常温に近いものでの窒息事故が多いですね。餅も焼きたてでチンチンに熱かったら喉につまらせるなんて事は無いと思う。
危険な食品を野放しにするな!という消費者グループがあるなら、それはそれで結構。無くせ!とデモ行進されたぐらいで消える食品なら、世に中に浸透していない証拠。とっとと消えて無くなればいいのです。絶対に必要なものじゃないんだから無くなっても誰も困らない。あ!生産ラインに従事している方は途方に暮れますね。
投稿: やっ | 2008年10月 4日 08:12
ゼリーの死者は平成7年以降17件。1年に1人強。
この事故「だけ」がすべて報道されています。
餅の他にも飴玉、団子、果物(葡萄等)、ご飯、パン他色々・・
による窒息事故はほとんど報道されません。
こんにゃくゼリーだけ悪玉にする報道姿勢には違和感というか、
何かしら悪意を感じます。
ちなみに糖尿病やダイエットしている人にとっては
数少ない「お菓子」だそうですよ。
投稿: リュウT | 2008年10月 4日 14:48
シン さん:
ツクツクホウシは、つくば周辺でも、いつもよりずっと少ない数ながら、鳴きました。
ちょっと今年は不作だったのかなと。
投稿: tak | 2008年10月 5日 20:27
karin さん:
>現代人の噛む力と「噛む意欲」が落ちているのも、こういう事故の一因ではないかと思います。
十分に噛まなければ、何だって窒息の原因になりますよ。
私、機会がありまして、今日、初めて食べました。
あれは、歯応え云々よりも、あの口の中にチュルッと吸い込む食べ方と、大きさがやばいんじゃないかと思いました。
あれさえ改良すればいいんじゃないかと。
投稿: tak | 2008年10月 5日 20:29
alex さん:
>自己責任じゃないかと思うだけです
確かに自己責任ではありますが、karin さんへのレス ↑ でも触れたように、メーカーはより安全な形で提供できるはずだという印象をもちました。
投稿: tak | 2008年10月 5日 20:32
やっ さん:
>コンニャクゼリー食べた事が無いのでコメントしようがいですが、山形は米沢・小野川温泉の玉こんにゃくで舌を火傷した経験があります。
玉こんにゃくは、はふはふして食べてください (^o^)
こんにゃくゼリーも、はふはふに準じた食べ方をするような形にすれば、そんなに危険じゃなさそうな気がします。
投稿: tak | 2008年10月 5日 20:36
リュウT さん:
>こんにゃくゼリーだけ悪玉にする報道姿勢には違和感というか、
>何かしら悪意を感じます。
こんにゃくゼリーの社会貢献は無視されてますね。
>ちなみに糖尿病やダイエットしている人にとっては
>数少ない「お菓子」だそうですよ。
もう、こんにゃくそのものを食うしかなくなりますかね。
投稿: tak | 2008年10月 5日 20:38