化粧とは 「描く」 もののようなのだ
朝、常磐線取手駅から快速電車に乗る。取手は快速電車の始発駅だから、大抵座れる。とくに平行して走るつくばエクスプレスが開通してからは、座れる確率が高くなった。
若い女性の多くは座席に着くとバッグから何やら取り出し、パカッと開く。ケータイも化粧用コンパクトも、ここまでは動作が同じだ。
動作が分かれるのは、ここから先である。一方はメールチェックに余念がなく、チェックが終わるとすぐに返事を書いている風情である。そして残るもう一方は、化粧にとりかかる。その比率は、ざっとした印象では 6 対 4 ぐらいである。
やや少数派の化粧派の中には、かなりシリアスな女性もいる。ちょいちょいとお顔を整えるなんていうレベルではない。膝の上に化粧セット一式を置き、ファンデーション作りから入念に始める人もいる。その形相たるや、鬼気迫るものがある。
かなりの時間をかけて大体のメークアップが終わると、今度はコンパクトをのぞき込みながら、大変な表情をなさる。極端な上目遣いでコンパクトをのぞき、頬の筋肉を大げさに上げ下げし、挙げ句の果てに鼻の下を思いっきり伸ばして鼻毛チェックをする。
そのあまりの素晴らしいパフォーマンス (?) に思わず見とれると、突然ものすごい形相でにらみ返されるからあぶない。
ちょっと前のことだが、化粧品業界の人に、化粧品のポスターはすっぴんで撮影するのだと聞いた。すっぴんの写真の上に、コンピュータ・グラフィックで化粧を 「描いていく」 のだそうだ。化粧品会社のポスターのモデルは、化粧でではなく、IT 技術できれいになっているのである。
というほど、化粧というのは 「描く」 ものということのようなのだ。
今年の夏頃、常磐線の電車の反対側の席に、一人の女性が座った。こう言っては何だが、私よりは完全に年上のように見える。多分、還暦前後だろう。
還暦が若い格好をしてはいけないなどと言うつもりは毛頭ないが、その女性のファッションは、ティーン向けのファッション雑誌から抜け出してきたような出で立ちである。スタイルだけはそんなに崩れてはいないが、超ミニスカートとぴたぴたのタンクトップが、申し訳ないが大層な違和感で、「ものすごく無理してるなあ」 という印象だ。
その女性は、席に着くなり膝の上に化粧道具一式を取り出し、化粧を始めた。かなり入念な作業をなさっている。途中で電車が混んできて、その女性の姿は見えなくなってしまったが、上野駅で降りるときにふと見ると、何と彼女は、立派なティーンに変身しているではないか。
それはまさに 「変身」 「メタモルフォーゼ」 というにふさわしい変わりようだった。化粧とは、「描く」 ものだと、心の底から納得した瞬間だった。
| 固定リンク
「美容・コスメ」カテゴリの記事
- 「シャンプーバー」というものがあるらしい(2020.07.13)
- 「マツエク 60本 2000円〜」という表示のインパクト(2019.05.01)
- ツンツンの髪の毛 その 2(2017.03.09)
- ツンツンの髪の毛(2009.07.06)
- 化粧とは 「描く」 もののようなのだ(2008.11.28)
コメント
寒くなれば裸ではいられない。
顔面だけスッピンでは目立ちすぎる。
厚化粧、実は透明人間なのです。
投稿: McC | 2008年11月28日 12:40
うちの嫁は医療従事者で、ほとんど化粧しないんですよね。
5分程度で終わっちゃう感じなんで。
「もうちょっと化粧したら」と聞くと、「だって面倒じゃない。」というお答えでした。
そういう感じなので、ばっちりメイクの人を見ると、きれいとか、かわいいという感想より、
手の込んだ細工を見たときのような感嘆を覚えます。「すげー!」という感じです。
たとえば、あのまつげぱっちりなんて、ちょっと男にはできないですよ。
それを毎日してくる女性って、すごいと思います。
投稿: 雪山男 | 2008年11月28日 17:46
McC
>寒くなれば裸ではいられない。
>顔面だけスッピンでは目立ちすぎる。
>厚化粧、実は透明人間なのです。
夏の姿を見てみたいです。
投稿: tak | 2008年11月28日 17:54
雪山男 さん:
>ばっちりメイクの人を見ると、きれいとか、かわいいという感想より、
>手の込んだ細工を見たときのような感嘆を覚えます。「すげー!」という感じです。
私もそんな気がします。
職人技に感動するけど、一方で 「中身はどうなんだろう?」 とも思います。
ここでいう 「中身」 は、「内面」 とか 「人間性」 とかいう意味ではなく、単に物理的な、化粧の内側という意味で。
投稿: tak | 2008年11月28日 17:58
私も地下鉄の始発駅で斜め前に座った若い女性がメークを始めるのをみたのですが、数駅を過ぎたら込んできて段々と見えなくなってきましたが、降りる時にふっとみた時には別人かと思われるくらいでした。何とか見れる顔に作り上げられておりました。それにしても電車の中でメークする女性は日に日に増えてきているのでは、以前は珍しかったのですが。
投稿: jeienne | 2008年11月28日 22:02
刻々と変貌?する工程を他人に見られて、恥ずかしくないものかな~?
ほんの少しの部分修正ならまだ許せますが、全面改装に至っては、人格を疑います
・・・と言ってみても、どんどん一般的になって居るんですね
外国では見たことがありません
投稿: alex99 | 2008年11月29日 00:24
takさん
私は「個の論理」を公共の場で履行する(される)事に強い抵抗感を覚えます。
日本人は「場の論理」を重んじてきた傾向にあり、それが社会規範の安定に寄与していた側面があるのですが(所謂“ムラ社会”)昨今は客観、全体調和を考慮できないおバカさんが増殖しています。
別にイマドキの若者だけに限ったことではありません。
例えば外食の際、その場に居ない嫁だ婿だのに対する罵詈雑言のオンパレードで近隣のテーブルの雰囲気をぶち壊す妙齢のご婦人どもなんてのがその類として挙げられましょう。
周りへの配慮が全く感じられないし、そもそも周りが見えていない。
色々な方が一同に会するところは公共の場であり、私的空間では無いのですから一方的に個の論理を持ち出すべきではないと考えますが・・・
#自分の事は(少々ですが)棚に上げてます。(苦笑)
電車の中での化粧は時間短縮の見地では合理的かもしれませんが、公の場にあからさまにエゴを持ち込んでいる点でみっともなく思えてなりません。
でもいつか、私の考え方が「非常識」になってしまうのかもと考えると何とも云えない気持ちになります。
せめて、家族、特に息子や娘には同じ感覚を持ってもらえたらと願いますし、そうなるように躾けなくては。
>ふさわしい変わりようだった
さて、チョット砕けます。
その彼女、もしかして老婆に化けていて、都会に近づくにつれ元に戻ったとか?
だとしたら、ハリウッドも真っ青な特殊メイクですか。(笑)
(ルパン三世リアルタイム世代なもので・・・)
投稿: 貿易風 | 2008年11月29日 01:58
jeienne さん:
>それにしても電車の中でメークする女性は日に日に増えてきているのでは、以前は珍しかったのですが。
ある意味では、「群衆の中の孤独」 が実現されているからでしょうね。
その孤独が、周囲からは丸見えというのがすごいことですが。
投稿: tak | 2008年11月29日 21:27
alex さん:
>刻々と変貌?する工程を他人に見られて、恥ずかしくないものかな~?
「他人という名の防御壁」 なのかもしれません。
ただ、そう思っているのは当人だけでなんですけど。
>外国では見たことがありません
西欧では、「他人も人間」だと思ってますからね ^^;)
(ここでいうのは、「壁というには怖すぎる存在」 という意味です)
投稿: tak | 2008年11月29日 21:31
貿易風 さん:
>私は「個の論理」を公共の場で履行する(される)事に強い抵抗感を覚えます。
そうですね。
ちょっとだけ角度を変えた視点で言うと、私はいわゆる 「自意識過剰」 の人に、「あんたが自分で気にするほど、誰もあんたのことなんか気にかけてないよ」 と言ってあげることがあります。
その逆に、電車で全面改装的な化粧をする人には、「あんたは周りを気にしないかもしれないけど、周りは、結構あんたのことを気にしてるんだよ」 と言ってあげたいです ^^;)
>その彼女、もしかして老婆に化けていて、都会に近づくにつれ元に戻ったとか?
塗りたくっているように見えたのは、実は剥ぎとっていたのだと? ^^;)
投稿: tak | 2008年11月29日 21:37
はじめまして
ワタシは千代田線の中でつけまつげをするヤング(死語?)を目撃。
揺れる車内で手馴れた見事なパフォーマンスですた。見とれました。となりの彼氏も満足のようでしたなあ。
投稿: 図画工作おじさん | 2013年12月17日 20:38
図画工作おじさん:
そりゃすごい熟練の技ですね。若いのに。
いや、ばあさんがそれやったら、もっとすごいかも (^o^)
投稿: tak | 2013年12月17日 20:54