消費者からの不思議な電話
昨年の今頃、"「お友達と同じ服が欲しいの」という女性" という記事を書いた。友達の着ている服のラベルに記載された品番を控えて、店に探しに行くという女性が案外多い。
店で見つからないと、わざわざメーカーにまで電話して「同じ服を売ってちょうだい」と言ってきたりする。大した執念だ。
で、私としては「そのお友達の方が、友人に同じ服を着られることに抵抗があるかもしれないということを、想定しないのだろうか?」と疑問を呈し、他人の着ている服の内側の縫いつけラベルまで調べたがる図々しい女性とは、あまりお近づきになりたくないと書いた。
それに、わざわざメーカーに電話して「服を 1着売ってちょうだい」なんていっても、それは森永製菓本社に電話して「キャラメル 1箱売ってちょうだい」と言うとか、ソニー本社に電話して「テレビ 1台売ってちょうだい」と言うのと同じで、そもそも常識はずれの行為なのである。
電話を受けたアパレルメーカーとしては、本来ならば当然にも、「お店でお買い求めください」とか、「お店で『お取り寄せ』の依頼をなさってください」とかの対応をすることになる。
しかしそういう客というのは、「じゃあ、どこのお店に行けばいいの?」とか、「お店に行っても『品切れ』と言われたから、わざわざ直接メーカーに電話してるのよ!」とか、さらにうっとうしいことを言ってくるに決まっていて、際限がなくなる。
そこでメーカーとしても暇じゃないので、一応品番なんかを聞いて、ちょっとだけ調べたふりをして「申し訳ありません、その商品は品切れです」とかなんとか言って、断るのが常である。
いや、実際、ファッション商品なんていうのは足が速いから、すぐに在庫切れになる。だから大抵の場合、とくに好評な商品であればあるほど、調べるまでもなく、本当に品切れなのだ。ましてや、「お友達は、去年の夏に買ったと言ってたわ」なんて言われたら、そんな前のシーズンの在庫が残っているわけがない。
いつまでも在庫が残るようでは、この大変な時期、利益が上がらない。売れ筋ならば、フォロー生産すればいいとも言われるが、生産体制がしっかりしていないと、できあがる頃にはシーズンが終わっているのだから、それも難しい。これが内情である。
「また作ってよ」なんていう人もいるが、正直なところ「あなたが 200着ぐらいまとめて買ってくれるというなら、喜んで作りますが」と言いたいところをぐっと怺えて、「もぉ~~しわけございません」と、丁重に電話を切ることになる。
とまあ、企業や団体には、正直言ってうっとうしい問い合わせ電話が入ることが結構多い。これはアパレル関係に限らない。
某有名洗剤メーカーには、「お宅のシャンプーとリンスを 3年使ってるけど、テレビ CM でやってるみたいに、きれいにファサァ~ってなびく髪に、全然ならないじゃないのよ!」といったクレーム電話が、けっこう頻繁にはいるらしい。それに対応するというのは、本当に本当にご苦労なことである。
そんなことを思っていたら、私自身がたまたま受けた電話に、ちょっと不思議なものがあったので、ちょっと紹介する。 (電話の本人に配慮して、ほんのちょっとだけ脚色済み)
相手は「ちょっと心配な点があって、相談したいんですけど」と言う。「どんなことですか?」と私。
彼は「最近買ったタオルなんですけど、直接肌に触れても大丈夫でしょうか?」という。
タオルは私の専門じゃないんだけどなあと思いながら、一応、ごくフツーの答え方をする。
「タオルというのは、直接肌に触れるための商品ですから、普通は大丈夫です」
「でも、洗う前に触れても大丈夫ですか?」
「もし気になるんでしたら、洗ってから使用してください」
「いや、私が聞いてるのは、洗う前でも大丈夫かということなんです」
うぅむ、そんなに気になるなら、私んとこに電話なんかする前に、フツーはとりあえず洗うだろうけどなあ。もしかしたら、どうしても新品のタオルを使いたいというタオルフェチか? あるいは、洗わずに使い続けたいというタイプのタオルフェチか? 疑問が頭の中を駆けめぐる。
「何がそんなに気になるんですか?」
「いや、前に、染料には重金属が使われることがあると聞いたので、このタオルには重金属が使われているかどうか、確かめたかったんですけど、どこに聞いたらいいのかわからないので、そちらに電話しました」
やれやれ。
「そのタオルに使われている染料に重金属が含まれるかどうかを調べるには、ちょっと時間がかかると思いますが、万が一、重金属が使われていると判明したら、どうなさるおつもりですか?」
「その場合は、洗ってから使います」
おいおい。
「洗ったぐらいでは、容易には溶け出ないと思いますよ」
「…… それなら、かえって安心です」
おいおい。
「…… はい、これで不安は解消しましたね。いずれにしても、洗ってから使われることをおすすめします」
「聞きたかったのは、洗う前のことなんですが、まあ、それならそれで、一応納得します」
先方はまだ何か割り切れないみたいな様子だったが、電話は切れた。この人の心配って、根本的には何だったんだろうという疑問を、私に残したまま。
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コメント
ご質問の真意も量りかねますが…。
質問しているうちに、「オレ、何聞いてたんだっけ?」ということになり、「でも負けないように質問しなきゃ!」とがんばらはったんでしょうか?
投稿: 乙痴庵 | 2008年11月13日 12:54
謎ですね。
確かにお客様相手ですと、時々真意を測りかねる方がいらっしゃいますよね。
私が、学生時代コンビニのバイトをしていた頃、深夜に「酒はあるか!」というお客様が車で
いらっしゃいました。
そこのコンビニは酒類を扱っていなかったので、「お車でいらっしゃっているのであれば、ここから
300mのところの、酒屋さんに自動販売機がございますが。」とご案内したところ、「いや、ここで
ないのか?」と聞いてくるので、ちょうど冬ということもあり、甘酒がウォーマーに入っていました
ので、「これぐらいしか・・・」とお話しすると、それを2,3本買って行かれました。
まさか買っていくとは思わなかったので、勧めた自分もびっくりしました。
あのお客様は、あれで満足されたのでしょうか?
10年以上前の話ですが、そのときのことを思い出しました。(笑)
投稿: 雪山男 | 2008年11月13日 14:06
私なら、その客は頭がおかしいと思いますけれど、そう考える私は頭がおかしいですか?
投稿: alex99 | 2008年11月13日 18:13
takさん、今日のうちのブログにこちらのサイトを紹介申し上げました。
事後承諾、よろしく。
で、本文へ。
今日のテーマも面白いですね。
屈折している人のとる行動というのは、時にとても不可解。
分析の対象としてなら、興味深いケースかも。
しかも、けっこうありがちなケースとして。
投稿: Mikio | 2008年11月13日 21:36
乙痴庵 さん:
>質問しているうちに、「オレ、何聞いてたんだっけ?」ということになり、「でも負けないように質問しなきゃ!」とがんばらはったんでしょうか?
いや、先方の質問の趣旨はただ一点。
「このタオルの染料には重金属が含まれていないのか? 含まれてるんなら、洗ってから使うから、調べてくれ」
(当人にとっては) 非常に明確なご質問でした。
投稿: tak | 2008年11月13日 21:49
雪山男 さん:
>深夜に「酒はあるか!」というお客様が車でいらっしゃいました。
>300mのところの、酒屋さんに自動販売機がございますが。」とご案内したところ、「いや、ここで
ないのか?」
かなりアブナイ人のようですね ^^;)
甘酒って、アルコール度数はゼロか、あっても酒類に分類されないぐらいの微量ですよね。
ということは、酒酔い運転を防いだということで、ファインプレー賞をあげたいぐらいです。
投稿: tak | 2008年11月13日 21:52
alex さん:
>私なら、その客は頭がおかしいと思いますけれど、そう考える私は頭がおかしいですか?
ぶっちゃけて言えば、私も 「この人、相当キテルな」 と思いましたから、alex さんの頭がおかしいとすれば、私もおかしいことになります。
二人とも極めて正常と信じたいところです ^^;)
投稿: tak | 2008年11月13日 21:56
Mikio さん:
ご紹介、ありがとうございます。
>分析の対象としてなら、興味深いケースかも。
>しかも、けっこうありがちなケースとして。
純粋論理的には、確かにあってもいい質問ですよね。
ただ、ジョーシキ的には、「だったら、電話なんかする前に、最初っから洗って使えよ」 ということで。
頭の中の世界が、実生活からかなり離れちゃってる人なんでしょうね。きっと。
いい意味で言えば、論理に忠実でありたいという、とても純粋な人ということで。
投稿: tak | 2008年11月13日 22:00
質問者さんの気持ちがわかる自分はどうすれば・・・。
>頭の中の世界が、実生活からかなり離れちゃってる人なんでしょうね。きっと。
その通りだと思います。凝り性というか。
今でも電子機器の仕組みが気になって、パソコンに触れなくなりそうになります。
(必死に思考を止めます。)
投稿: 夜の指揮者 | 2008年11月13日 23:30
takさん
“もののからくり”を存じない方が多いと頓珍漢な問い合わせは増えるでしょうね。
まぁ、手の内を知り尽くして、なおかつ”えげつない”相手ばかりが顧客だと商売(の金銭面で)は異常に大変ですが。
>「また作ってよ」 なんていう人も~
ありのままに、ワンオフで作成したらのお値段を伝えてしまえば、なんて思っちゃいました。
世間様一般は原価計算はおろか、モノの値段のからくりについても“無知”なんでしょうね。解説本も出版されてるくらいですし。だから軽々しくそんな事が云えるのでしょう。
そういう私もそうそう大差は無いですが。(苦笑)
特にアパレル関係は扱い品目にもよりますが、SKUが大変多い上に“旬”がありますから、時期に間に合うように一気に大量生産、流通ルートに乗せて然るべき工程(海外品であれば輸入手続きとか、産地を問わず検品、検針等が挙げられますね)を踏んでから店頭に並ぶのを(私が関わった中では)見てきましたので、アパレル製品は常温のナマモノだと思うことにしていました。
今は少々離れた立場となったので、当事者感覚は薄れましたが。>ナマモノ
だから、大量生産品ほどワンオフで作らせると大変な事になるのですね。生産に際して投入する資産、設備、労力が莫大になりますから。生産工場1棟の稼動原価なんて・・・庶民には想像付きませんしネ。
勿論、色々な規模と手法で生産されますから、必ずしも大量生産の原理が当てはまらないパターンもありでしょうが。>アパレル製品
投稿: 貿易風 | 2008年11月14日 00:29
takさん
連投になりますが・・・
>品番を控えて、店に探しに行くという女性~
>電話の本人~
共に“木を見て森を見ず”ですね。
局所的にはロジカルかもしれませんが、(品番を確認して商品を探しにかかる部分とか、重金属が心配で問い合わせをする部分)全体的には???ですから。
店頭在庫が見つからないのなら、ディストリビューターに確認を取るべきで、それは消費者ルートより小売店ルートの方がトレースしやすいのが一般論です。蛇の道は蛇というではないですか。(笑)また、そのタオルの染料に重金属含有ならびに人体への悪影響が判明するのなら、まずは使用中止が先決でしょうしネ。
私なら、もし汚染が判明したなら即刻捨てますねぇ。>タオル
本来、汚染防止の見地からすれば大変拙いのでしょうが。(苦笑)
冗談はさておき、対象を鮮明に見るには近づかなくてはなりませんが、近づいたままでは全体は見えなくなる。だからこそ立ち位置のバランスと使い分けが難しいのですね。
建築や工業製品で見かけるのは、部分部分の線とか造形は美しいけど、全体バランスでは破綻している、なんてのがありまして。
具体的事例は、個々人の好き好きがございますから止めておくのが賢明でしょうが・・・クルマやヒコーキの場合、英国製に多いような気がします。一方、イタリア製品には少ないような。もちろん、何にでも例外はありますが。
投稿: 貿易風 | 2008年11月14日 00:34
tak-shonai さんのご説明でわかったことがあります
先日、コロンビアというフィッシング・ヴェストで有名なアウトドア・衣料のメーカー(アメリカのメーカーだと思いますが)に、あるものを注文しました
東南アジアにでも旅行する時にと思って、日本で言えば夏用となるアウトドア衣料を告げたのです
すると「もう季節が秋なので無い また来年となる」という返事でした
アウトレットショップなら在庫があるかもしれないといういことでした
また、親切に、年のために秋・冬のカタログに加えて夏のカタログの郵送してくれました
定番のアウトドア衣料もシーズンで売り切るのですね
それに売り切り可能と見積もった数量を生産するらしい
アパレルものは、「いつまでもあると思うな」ですね
投稿: alex99 | 2008年11月14日 01:43
こんにちは。
件の「タオル」問い合わせですが。
実際の電話がどういうものだったかはわからないので、文面だけ見ますと。
「ギフトとして誰かに贈る」時は、洗ってから贈るというのも変だし、かといって貰った側が洗わずに使うかもしれないし、ということで「洗う前の状態」に限定した情報が欲しくなるかなあ、と想像したりしましたが。
でも「その場合は洗ってから使います」というようなやりとりもあるので・・・。
やはり謎ですね。
投稿: 風花 | 2008年11月14日 08:46
夜の指揮者 さん:
>質問者さんの気持ちがわかる自分はどうすれば・・・。
あはは (^o^)
私も、わからないわけではないですが、電話まではしません。
投稿: tak | 2008年11月14日 08:51
貿易風 さん:
>ありのままに、ワンオフで作成したらのお値段を伝えてしまえば、なんて思っちゃいました。
腰抜かされるでしょうね (^o^)
まったく同じものを作ろうとしたら、糸から発注しなきゃいけない。
とんでもない値段になります。
アパレル商品の流通についてはおっしゃるとおりで、まさに 「ナマモノ」 です。
あまりもうかる商売ではありません。
>冗談はさておき、対象を鮮明に見るには近づかなくてはなりませんが、近づいたままでは全体は見えなくなる。だからこそ立ち位置のバランスと使い分けが難しいのですね。
自分の視点からみた論理だけでいえば、徹底的に正しいものほど、全体の視点からすると困りものということは、世の中にあふれていますね。
今月 2日の記事の 「個別の落とし前と、全体の利益」 とも通じそうです。
https://tak-shonai.cocolog-nifty.com/crack/2008/11/post-15a3.html
投稿: tak | 2008年11月14日 08:59
alex さん:
>定番のアウトドア衣料もシーズンで売り切るのですね
定番品でも、1年後のシーズンまで在庫で寝かせるのは、利益を落とすことになるんですよね。
あるいは、多少の売れ残り在庫はあったとしても、シーズンによるシステム切り替えでピックアップしにくくなっていて、流通に乗せにくいということなのかもしれません。
で、対応としては、自動的に 「品切れ」 と答えるということにしておくとか。
(どうせ、来年またどっと売れるんだから、イレギュラーな対応でコストをかけたくないということで)
投稿: tak | 2008年11月14日 09:05
風花 さん:
いろいろなケースを想定しても、やっぱり 「なんだか変」 なんですよね。
投稿: tak | 2008年11月14日 09:07
tak様、alex様
私も、かなーり危ない方とお見受けしました。
そこのバイトでは伝説化されている人の一人です。
一人というのは、深夜のコンビニでは、時々そのような方がいらっしゃいまして、いろいろな
人間模様がみられますので。。。
投稿: 雪山男 | 2008年11月14日 12:15
雪山男 さん:
>そこのバイトでは伝説化されている人の一人です。
確かにそういう人、いますねぇ!
わかる!!
投稿: tak | 2008年11月14日 16:15
はじめまして
> 低調に電話を切ることになる
tak さんの無意識的欲求がよくわかる書き間違えですね(笑)。
投稿: たんご屋 | 2008年11月15日 11:47
たんご屋 さん:
> 低調に電話を切ることになる
tak さんの無意識的欲求がよくわかる書き間違えですね(笑)。
ほんとだ ^^;)
修正するのがもったいないほどですが、やはり直しときました。
ご指摘、ありがとうございました。
投稿: tak | 2008年11月16日 14:22