「読み間違い」を巡る冒険
『精神分析入門』 の中でフロイトは、「錯誤行為」についてものすごく多くのページを割いていて、それは人間の無意識の欲求の現れであることが多いと強調している。
典型的な錯誤行為には、物忘れ、ついしてしまう誤行動、言い間違い、書き間違いなどがあり、当然にも、読み間違いも含まれる。
読み間違いには、元々正しい読み方を知らずに誤読してしまっているというケース(「重複」を「じゅうふく」と読んじゃうのがポピュラーかな?)のほか、「知っているのに、つい読み間違えた」というのがある。フロイトのやり玉に上がりやすいのは、後者の方だ。
フロイト流の精神分析の手法に沿えば、正しい読み方を知っているのについ読み間違えるというのは、単なる「うっかり」では済ませられないものがある。人間の行動を深い部分で左右する「無意識」の力は、ごく普通の日常生活において、「うっかりしたはずみ」を利用して現れるからだ。
ある意味、「うっかりしたはずみ」を利用して、あまり表に出したくない無意識的欲求のガス抜きが行われるから、人間は臨界点を越えるほどのストレスを溜め込まずに済むとも言える。だから「よくあるよね」というレベルの錯誤行為なら、必要以上にとやかくいう必要はない。
とやかく言う必要はないのだが、つい詮索してみたがる悪趣味な人間もいる。私のような人間である。
最近話題になったのは、麻生首相の読み間違いである。当人は「ん、そうですか。単なる読み間違い。もしくは勘違い、はい」で済ませている(参照)ようだが、悪趣味な人間としては、それで済ませては、いかにももったいないような気がしてしまうのである。
まず、「村山談話を踏襲する」の「踏襲」を「ふしゅう」と読み違えてしまったそうだ。麻生さん、いくらなんでも「踏襲」は「とうしゅう」だと知っていただろう(と信じたい)。ただ、ややもすると読み違えそうな熟語ではある。それをやってしまった。
で、私は麻生さんの無意識を探りたくなるのである。
内心では、村山談話なんてうっとうしいと思っているに違いない。「フン!」という感じなのか、あるいは「そんなもの、踏んづけてやりたいぜ」ってことなのかもしれない。「腐臭を放ってるぜ」なんてところまで想像したたら、それはちょっとうがちすぎというものだが。
それから、日中青少年友好交流年閉幕式で日中首脳の往来が「頻繁」というのを「はんざつ」と読んじゃったらしい。これなんか、わかりすぎである。「もう、本当に、ただでさえ忙しいのに、会いたくもない連中としょっちゅう顔を突き合わせなきゃならんのは、うっとうしいぜ」と、内心では思ってるんだろうなあ。
とまあ、下手に読み違えると余計な詮索をされるので、気を付けなければならない。ただ前述の如く、錯誤行為によってガス抜きをしているという部分もあるので、それがなくなると無意識のストレスが溜まりすぎになる。几帳面な人ほど心に重荷を抱えがちなのは、こういうことにも起因する。
だから、時々は自分の心の深い部分までしっかり見つめて、いやなことでもきちんと向き合い、解決(意識的なガス抜き)しておかなければならない。これが、とりもなおさず精神分析的療法なのだが。
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コメント
まちがえて読んでいて恥をかくことはありますね
○ 私も子供の頃は「順風満帆」を「じゅんぷうまんぽ」と読んでいました
○ 会社に入って新入社員のころ「相殺」を「そうさつ」とやってしまいました
商家の子供ならこんな事もなかったでしょうが、読み間違えじゃなくて、知らない言葉だったんです
○ このごろ気にかかるのは、「代替」を「だいかえ」と読む政治家やアナウンサーが多いことです
まさかの経済評論家にもいる
これはいけないでしょう
○ それから言い間違えじゃないですが、NHKのアナウンサーが、しきりに「見せて」というところを「見して」と言うことです
今、私の ATOK でトライしたら「見して」は、最初、変換できませんでした
こうして無理して書き込んでからは、学習してしまったようですが、悪いことを覚えさせてしまいました (笑)
投稿: alex99 | 2008年11月14日 12:08
>「順風満帆」を「じゅんぷうまんぽ」
これはもう「じゅんぷうまんぱんの誤読」でもいいから辞書の見出しに入れてほしいくらいです(笑)
昔は「含有」を「ふくゆう」と読んでました。
投稿: 山辺響 | 2008年11月14日 12:18
alex様、山辺響様
「じゅんぷうまんぽ」を変換できるかなと思って入力したら、「順風満帆の誤読」とATOKでは出
ました!
でも「じゅんぷうまんぽ」は、何となく順調だってことが伝わってきますよね。ありだと思います。
無意識で誤読しちゃうことはありますよね。
特に、そのように読んじゃいけないというときに限って、誤読してしまうことが。。。
麻生さんもその口なのかなと思ってしまいます。
投稿: 雪山男 | 2008年11月14日 12:35
横道コンテンツ。
剣客=
客員教授=
刺客=
アタクシ、全部『カク』だと思ってましたが、ニュースでも当たり前に『キャク』とお読みになられるので、悩んでます。
投稿: 乙痴庵 | 2008年11月14日 12:54
alex さん:
>○ 会社に入って新入社員のころ「相殺」を「そうさつ」とやってしまいました
>商家の子供ならこんな事もなかったでしょうが、読み間違えじゃなくて、知らない言葉だったんです
長年商売やってても、「これで 『ソーサツ』 しといてよ」 なんて言う人がいます。
(ハズカシ)
>○ このごろ気にかかるのは、「代替」を「だいかえ」と読む政治家やアナウンサーが多いことです
「だいがえ」 は、そろそろ市民権を与えてもいいなんていう人がいますが、私の美意識としては、許せません。
>○ それから言い間違えじゃないですが、NHKのアナウンサーが、しきりに「見せて」というところを「見して」と言うことです
これ、多分、江戸方言です。
落語なんかで 「どうか、見してやってくれませんかね」 なんて言います。「見して」 の 「し」 と 「て」 はほとんど無声音化してて、発音としては、
【mishtyatte】って感じかな。
投稿: tak | 2008年11月14日 15:54
山辺響 さん:
>>「順風満帆」を「じゅんぷうまんぽ」
>これはもう「じゅんぷうまんぱんの誤読」でもいいから辞書の見出しに入れてほしいくらいです(笑)
う~~ん、私としては 「じゅんぷうまんぱん」 という語感が気に入ってるので、「じゅんぷうまんぽ」 はしらけます。
>昔は「含有」を「ふくゆう」と読んでました。
これは、語感としてはいいですね (^o^)
投稿: tak | 2008年11月14日 15:58
雪山男 さん:
>でも「じゅんぷうまんぽ」は、何となく順調だってことが伝わってきますよね。ありだと思います。
う~~ん、私としては、山辺響 さんへのレスに書いたように、「まんぱん」 でないと、順風なような気がしないなあ ^^;)
>特に、そのように読んじゃいけないというときに限って、誤読してしまうことが。。。
>麻生さんもその口なのかなと思ってしまいます。
慣れないことをすると、「やっちゃいけない」 と思っていることほどやっちゃいます。
これは本当です。
麻生さんは、そういうわけじゃなくて、本当に 「つい、ポロっと」 なんでしょうけど ^^;)
投稿: tak | 2008年11月14日 16:01
乙痴庵 さん:
>剣客=
>客員教授=
>刺客=
真ん中だけは、「きゃくいんきょうじゅ」 が一般的じゃないかなあと思いますが、どうなんだろう。
上と下は、まちがいなく 「けんかく」 「しかく」 ですね。
「しきゃく」 だと、三脚の脚の一本多いのがあるみたい。
それに、江戸っ子が言ったら 「飛脚」 になる。
ちなみに、「客観」 にも、「かっかん」 という読みがありますね。
大正時代頃までは、「かっかん」 の方が一般的だったかもという印象があります。
(リアルタイムで聞いたわけじゃありませんが、昔の人ほど 「かっかん的」 なんて言うので)
投稿: tak | 2008年11月14日 16:06
でも「じゅんぷうまんぽ」は実勢として通用していますね
テレビでも、相当な人達が何の疑いも無く(多分)使っています
私も、なにしろ慣れているもので、とがめる気持ちはありません (笑)
恥かきついでに、「歯に衣着せぬ発言」などの「きぬ」
私はずっと「ころも」と思ってきました
投稿: alex99 | 2008年11月14日 16:54
「ちゃんの仕事は、刺客(しかく)ぞな。」
by子連れ狼ですよね。(笑)
投稿: 雪山男 | 2008年11月14日 17:49
alex さん:
alex さん、もしかして、知識源のほとんどが活字とか?
私はラジオ少年でしたから、案外耳から入りました。
投稿: tak | 2008年11月14日 19:30
雪山男 さん:
>「ちゃんの仕事は、刺客(しかく)ぞな。」
私、子連れ狼が放映されていた頃は、ちょうど貧乏学生をしていて、アパートの部屋にテレビなんかありませんでした。
というわけで、よく知らないんですよね。
ゴメンナサイ。
投稿: tak | 2008年11月14日 19:33
私、青春時代はラジオではポップスだけを聴いていました
tak-shonai さん、鋭いな~
投稿: alex99 | 2008年11月15日 01:32
alex さん:
ウチは田舎なので、NHK ラジオと、民放 1局しかまともには入らず、従って、(当時の) NHK アナウンサーのきちんとした日本語が体に入りました。
投稿: tak | 2008年11月15日 08:02
首相は読み間違いだけだったのでしょうか。語句もそうですが、その大意も知らなかったりして。間違ったのを指摘されて少しは真摯に受け止めて、ゴメンネ!程度の愛嬌コメントだったらウケもするが、自分は間違ってもいいんだよ!別に!というような態度。
そんな事より、2ちゃんねるでも大々的に取り上げられてる(ま、2ちゃんねる掲示板は、クソもミソも大々的に騒ぐ、いわゆる祭り?)ようですが、2ちゃんねるにコメント寄せてる方々は漢字の読み違いについて議論できるのか?と思うのです。初めて「空気嫁」という漢字を見たときにダッチワイフの事かと思っちゃいました。空気の嫁さん=ダッチワイフという私の思考回路もどうかと思うが・・・。「空気読め:KY」なのね。KYというとどうしても、危険予知としか認識しない私の脳味噌ですが。
漢字、書けないですが、読めもしない自分が情けない。現社名が横河電機株式会社になりましたが、旧社名が横河北辰電機だった頃、就職したばっかりの私は、計測機器購入検討のために電話をして「ヨコガワ ホクタツ デンキさんですか」と言ったら、電話口ながらムッとした表情がアリアリとわかるぐらいに言い返されました。「ヨコガワ ホクシン デンキです!!!」って。人名と社名は間違えると大変失礼ですが、最近の子供の名前も難解ですね。絶対読めません。というか、将来、採用するのに履歴書を見て名前の段階で不採用と言いながらゴミ箱に履歴書をぶん投げてしまいたくなります。想妃愛と書いて「そふぃあ」と読ませるとか。まだ、これは許せるとしても、光中と書いて「ぴかちゅう」と来た日にゃ、名付け親は、本当にそれで幸せなのか?そして、黄色い服を着せて喜んでりゃ、他人事ながら、「お目出度い奴っちゃなぁ」と嫌味のひとつも言ってやりたくなるが、これも、世の移り変わりのひとつなんでしょうね。
投稿: やっ | 2008年11月15日 08:29
やっ さん:
首相は、正しい読みを知っていたと信じたいところです。
(そうでなければ、悲しすぎるので)
>2ちゃんねるにコメント寄せてる方々は漢字の読み違いについて議論できるのか?と思うのです。
私も ^^;)
それから、正しい読みは聞かなきゃわからない難読固有名詞は、本当に困りものです。
難読地名と難読苗字は、昔からのことして、許せますけど、わざわざ新しくつける名前をややこしくするのは、気が知れません。
投稿: tak | 2008年11月16日 14:17
takさん
皆さんも同趣旨で述べられていますが・・・
さる(その筋では)著名な教育関係者の方が“エラーの法則”という語句で仰った事がありまして。
概要は・・・
野球の試合の後半で、1アウト1,2塁のピンチ。
ここで、試合前半にエラーしてしまったセカンドの少年がいるとします。
そこに「今度はしっかり捕れよ」と親御さんとかの応援。
よくありそうな風景なんですが、コレ、ダメなんだそうです。
前回の失敗=マイナスイメージに意識を占領されてしまい、結果が引きずられてしまいがちになるのだそうです。
自己経験に照らし合わせても判る気がします。
麻生首相の人と為りは(勿論)存じませんが、“村山談話”を意識し過ぎたかな?なんて考えてしまいました。
>ん、そうですか。
コレは利発な対応かもしれませんね。
何を言ってもどうせ収まらないのだから、紋切り型の回答でスルーさせてしまえと。
takさんが以前仰った“寝業師”の言葉が妙にオーバーラップしました。>麻生首相
投稿: 貿易風 | 2008年11月16日 23:51
貿易風 さん:
>麻生首相の人と為りは(勿論)存じませんが、“村山談話”を意識し過ぎたかな?なんて考えてしまいました。
なるほど、「エラーの法則」ですか (^o^)
確かに、その後のとぼけ方は上手でしたね。
投稿: tak | 2008年11月17日 18:38
TBSの大沢悠里氏は自信たっぷりに「客員教授:カクインキョウジュ」と読みます。同じ局の荒川恭敬アナは「キャクイン」と読みます。大沢悠里氏の方に違和感を感じます。「カクインキョウジュ」と言う読み方は、大沢悠里以外で聞いた事がありません。「客」の変化を間違えていませんか?
投稿: tagosa55 | 2012年8月11日 15:24
tagosa55 さん:
「客員」は、「きゃくいん」 でも 「かくいん」 でも、どちらもありですが、私としては 「きゃくいん」 の方が一般的と思っています。
ただ、大沢悠里さんのことですから、「かくいん」 には何かこだわりがあっておっしゃってるのかもしれません。
投稿: tak | 2012年8月11日 22:36
tagosa55 さん:
「客員」は、「きゃくいん」 でも 「かくいん」 でも、どちらもありですが、私としては 「きゃくいん」 の方が一般的と思っています。
ただ、大沢悠里さんのことですから、「かくいん」 には何かこだわりがあっておっしゃってるのかもしれません。
投稿: tak | 2012年8月11日 22:36
手持ちの明鏡国語辞典(大修館書店)では、「かくいん(客員)→きゃくいん」と誘導されます。誤読の場合はその旨が書いてあるので、「かくいん」も誤りではないようです。ウェブ上の辞書を検索しても、概ね「かくいん」でも誤りではない、という扱いのようですね。
投稿: 山辺響 | 2012年8月13日 11:12
山辺響 さん:
そういうことですね。
投稿: tak | 2012年8月13日 23:12
私の若い頃は、カクイン が正しい読みでした。
いつの頃かキャクイン の読みが出てきました。
恐らくは 客 がカク との読みがあることを知らない人たちの発音からでは
なかったのではないかと考えます。
真逆 の通常の読みが マサカ であることを知らない人が、マギャク と平気で誤用し、それが認知されつつある事とよく似ている様に思います。
投稿: 亀井健治 | 2018年11月 3日 08:18
亀井健治 さん:
「旅客機」 は 「りょきゃっき」 とは読まないので、まだ 「カク」 の読みは廃れ果てたわけではないと思っています。
「客員」 のみならず 「客観的」 も、昔は 「カッカンテキ」 という読みが多かったように思います。
「客」 の字が語頭にあると、「カク」 の音が硬すぎると感じる感性があるようで、そのせいで 「客員」 も 「キャクイン」 が優勢になっているような気がします。
「真逆/マギャク/まさか」 に関しては、「真逆 の通常の読みが マサカ であることを知らない人が云々」 というよりは、私としては 「まさか」 という言葉は 「真逆」 と標記しない方がいいとさえ思っています。 語源の見地からしても、「まさか=真逆」 は甚だアヤシいもので、当て字に近いのではないかと思っています。
私自身、「まさか」 を 「真逆」 と標記したことは生まれて一度もありません。「真っ逆さま」 なら OK ですが。
投稿: tak | 2018年11月 3日 21:44