築地市場の外国人観光客対応
「<東京・築地市場>外国人観光客、マナー悪い 競り見学中止--年末年始、繁忙期1カ月」というニュースに、目が点になった。
これまでは、「邪魔なんだけど、言葉も通じないから」とか言って仕方なく黙認してきたが、いきなり見学を受け入れないことにしたのだそうだ。「なんだかなあ」と思うのである。
このニュース、リンク先がいつ削除されるかわからないので、とりあえずリードの部分だけ下に引用しておく。
東京都中央卸売市場(築地市場、中央区築地5)のマグロの競り場に、外国人観光客が多数押し掛け業務に支障が出ているとして、都は各国大使館やホテル、旅行会社に、12月中旬から約1カ月間、競り場の見学中止を通知した。築地のマグロ競りは外国人の間でも「ツナ・マーケット」と呼ばれ、秋葉原、浅草と並ぶ3大人気スポット。早朝から500人近くが訪れる日もあるが、マナーを守らない人もいて関係者から不満の声が出ていた。
この「都は各国大使館やホテル、旅行会社に、12月中旬から約1カ月間、競り場の見学中止を通知した」というのが、ちょっと問題だと思うのである。いつ通知したのか知らないが、それが先月末頃だったとしたら、半月以下の周知期間しかないではないか。それだと急すぎる話である。
記事には「競り場は基本的に見学者の立ち入りは禁止だが、外国人観光客が多いため市場側がスペースを設けて黙認してきた」とある。このあたりの対応のあいまいさが、基本的に問題だろう。だから抜本的対策が取れないのだ。
日本に観光旅行に行くのに、急に思い立って半月先のスケジュールを決めるという人は少ないだろう。ほとんどの人は、多分 1ヶ月以上前から予定を立てているに違いない。そしてその中には、あの「スシ」のネタになるマグロの競りを見学するのを楽しみにしている人もいるだろう。
なにしろ「ツナ・マーケット」は、秋葉原、浅草と並ぶ 3大人気スポットだとあるじゃないか。市場側が外人観光客用のスペースまで設けているというのだし、観光客としては、当然のごとくやってくる。
ところが実際に来てみたら、「いきなり中止」ということになるのである。楽しみにしてきた観光客は、まあ、死ぬほどではないにしろ、かなりがっかりすることだろう。
日本は外国からの観光客が少ないとして、「観光庁」なんてものを新設してまで観光プロモーションを強化しているんじゃなかったのか。それなのに、都は場当たり的にいきなりこんなことをする。どうしてもっときちんとした方策を取らないのだろうか。
この記事には、"都内のあるホテルは「以前から競り場への立ち入りはできないと説明しているが、築地への行き方を聞かれれば教えないわけにはいかない。お客様の判断に任せるしかない」と困惑している" とある。
ことほど左様に、「ツナ・マーケット」は既に貴重な観光資源になってしまったのである。それは認めるほかない。なにしろ 500人からの外人観光客が来る日もあるというのである。邪魔と思えば邪魔かもしれないが、視点を変えれば貴重な観光客ではないか。
どうしてこれを活用しないんだ? この観光客たちにファンタスティックな体験を提供し、築地でしっかり金を使わせることを考えるべきではなかろうか。
「それをやりすぎたら、ますます見学者が増えて邪魔になってしょうがない」という声もあるだろうが、そうなったらどうせキャパシティは限られているのだから、入場制限すればいい。その措置に必要なコストは、観光客自身に落としてもらえるように考えるべきだろう。
どうせ午後の時間帯はがらがらなのだから、有効利用しようと思えばできないはずがない。都心の一等地なのだから、二毛作しなければ損ではないか。そして数年後に予定されている市場移転の際に、観光客対応をしっかりと考慮した設計にすべきだろう。
外国人観光客のマナーに関しては、各国語での案内標識やパンフレットを作ってガイダンスを徹底すべきで、それをするのは東京都の責任である。まあ、中にはそのガイダンスに従わない「本当にマナーの悪い外国人」も一定程度いるだろうが、それは築地に限った話じゃない。秋葉原でも浅草でも同じだ。
で、東京都の「市場別見学案内」というページをみると、見学申込書に記入して FAX で送れなんて、木で鼻をくくったようなことが書いてあるだけで、実態に即したまともな案内になっていない。お役所だなあ。
件の記事には "仲卸業者の野末誠さん(72)は「言葉が通じず注意もできない」と話す" なんてあるが、おそれながら野末さんに教えてさしあげる。言葉が通じなければ怒ればいいのである。仕事の邪魔をされて怒るのに遠慮はいらない。
怒ってもあまりこじれないように、「国際問題にならない効果的な怒り方マニュアル」なんてものがあってもいいだろう。要するに外国人に安心して怒れるノウハウがないから問題なのだ。
いずれにしても、東京都がリードして状況を少しでも改善できるような方策を検討すべきだろう。これまで黙認してきて、いきなりだめというのでは、ちょっと不親切すぎだし、観光の視点からみてももったいない。
あるいは繁忙期は見学者を受け入れないということを、年間スケジュールとしてかなり前から告知しておくのも手だ。それでもどさくさ紛れに入ってくる観光客はあるだろうが、少なくともその数は減るだろう。今回の措置にしたって、どうせ観光客の見学がまったくゼロになるとも思えないのだし。
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コメント
私が知っている限りにおいても築地は今や東京観光の目玉です。てっきり観光地として整備されていると思ってました。
移転後?には回廊を作って上から見学できるのでしょう。それまでの間、観光客は受け入れないと広報すれば殆ど悪影響は出ないでしょう。もっとも事情通の観光客は競りを見るよりもそのあたりの直飯屋を目指しているのです。
恐らく競り自体は、新たな場所に移れば入場料を払って態々見る人は減るでしょう。雰囲気が見ものなのですから。
投稿: pfaelzerwein | 2008年12月 4日 17:32
pfaelzerwein さん:
>私が知っている限りにおいても築地は今や東京観光の目玉です。てっきり観光地として整備されていると思ってました。
観光客は、しかたなく受け入れられている邪魔者という位置付けのようですね。
>もっとも事情通の観光客は競りを見るよりもそのあたりの直飯屋を目指しているのです。
そうでしたか。そうなんでしょうね。
競りなんて、見てそんなに楽しいものかなあと思っていました。
投稿: tak | 2008年12月 4日 21:12
マナーを守らないという部分の具体的な所作を知りたくなりました。たとえば、寝巻き姿でホテル内をウロウロする日本人観光客のような感じなのか?。興味津々。
一回、門戸を開放して、外人の図体の大きさに「こりゃ、ちょっとジャマだったなぁ!」とか言って閉鎖するとうのも、安易な日本人的感覚で良い感じですね。ようするに、金にならないという苛立ちからくるんでしょうね。一朝一夕の商売柄、損して得取るという方向にはいかないんでしょうね。移転先の土壌汚染問題は、全ての人が知ってるんでしょうか。それが、今、すごく心配。
投稿: やっ | 2008年12月 4日 21:12
私はそれでいいじゃないかと思います
昔は築地は専門業者の場で、卸買いをしないものや素人が立ち入るべき場所ではないとされていて、私たちも邪魔にならないように遠慮してそっと見ているぐらいでした
今は外人観光客が狭い通路や店に入り込み、バシャバシャフラッシュを焚いて、一刻を争って商売をしている業者からすれば、見せ物ものじゃ無い~と思うのも当然かと私は思います
築地の業者は観光業じゃないのです
外人客の500人ぐらい来なくてもいいじゃないですか
生の魚を卸で買って帰るわけじゃなし
まあ、都の観光課が築地を拡張して、観光施設に改造するのなら別ですが
ニューヨークなどでも、フィッシャーマンワーフなどは一種の観光地ですけれど、あそこはそんなに建て込んだ場所ではなかったと思います
投稿: alex99 | 2008年12月 5日 01:28
外国人からすると、韓国の南大門市場みたいな市場みたいな感じできているのでしょうかね。
まあ築地の市場は、それとは違う特殊なところですけど。
(外国の市場の雰囲気は、アメ横が近い感じですよね。)
しかし、観光資源としては惜しいですね。
意外と当事者ってそのおもしろさがわかんないんですよね。
だから、「面白いの?じゃあ勝手に見たら。そのかわりじゃますんな。」という態度になってし
まうと思います。
そういうときこそ外野が、ルールも含めてしっかりと見せる方法を考えないといけないと思うん
ですが。
田舎者なんで、何とかして観光資源にしたいと思っちゃうんだけど、東京は見るところが他に
いっぱいあるからまあいいか。(笑)
投稿: 雪山男 | 2008年12月 5日 09:06
やっ さん:
>マナーを守らないという部分の具体的な所作を知りたくなりました。たとえば、寝巻き姿でホテル内をウロウロする日本人観光客のような感じなのか?。興味津々。
早朝だから、近所のホテルから寝間着で来ちゃうんでしょうか。
(いや、いくらなんでもね ^^;)
>一回、門戸を開放して、外人の図体の大きさに「こりゃ、ちょっとジャマだったなぁ!」とか言って閉鎖するとうのも、安易な日本人的感覚で良い感じですね。ようするに、金にならないという苛立ちからくるんでしょうね。
「外人さんにはなんだか言いにくいから見逃してたけど、もう、邪魔でこまるなあ!」 って感じなんでしょうね。
彼らに金を落としてもらうノウハウなんてないし。
(せいぜい、安い朝飯食ってもらうだけで)
>移転先の土壌汚染問題は、全ての人が知ってるんでしょうか。それが、今、すごく心配。
大抵の人は知ってるんでしょうけど、何しろ、都知事が頑固だから。
任期が切れたらさっさと辞めてもらいたいですね。
投稿: tak | 2008年12月 5日 10:34
alex さん:
>昔は築地は専門業者の場で、卸買いをしないものや素人が立ち入るべき場所ではないとされていて、私たちも邪魔にならないように遠慮してそっと見ているぐらいでした
日本人の妙なメンタリティで、外人さんには強く言えなくて黙認しているうちにどうしようもなくなったというのが、問題なんでしょうね。
ここまで既成事実化してしまったら、まともに考えて対応しなければならないと思います。
管理者である東京都は、本文で触れたとおり見学希望の申込書を提出した人しか受け入れないというタテマエがあるので、公式には動けないというお役所的事情があるんでしょうが、これはやっぱり東京都が何とかしなければいけない問題だと思いますよ。
タテマエ通りで、きっぱり受け入れないのか、それとも、しっかりと受け入れシステムを作るのか。
>ニューヨークなどでも、フィッシャーマンワーフなどは一種の観光地ですけれど、あそこはそんなに建て込んだ場所ではなかったと思います
ニューヨークにもフィッシャーマンズワーフがあったんですか。
私はサンフランシスコのは大好きです。
屋台のクラムチャウダーをお代わりしちゃいました。
投稿: tak | 2008年12月 5日 10:58
雪山男 さん:
>しかし、観光資源としては惜しいですね。
意外と当事者ってそのおもしろさがわかんないんですよね。
だから、「面白いの?じゃあ勝手に見たら。そのかわりじゃますんな。」という態度になってしまうと思います。
alex さんのコメントのレスにも同様のことを書きましたが、「邪魔すんな」 を強く言えないメンタリティが問題ですね。
日本人には外人さんを怒るノウハウがないんです。
それで、一足飛びに 「差別、排除」 に行きたがる。
>そういうときこそ外野が、ルールも含めてしっかりと見せる方法を考えないといけないと思うん
ですが。
私としては、「外野」 じゃなくて、管理者の東京都がしっかりやらなければいけないと思います。
>田舎者なんで、何とかして観光資源にしたいと思っちゃうんだけど、東京は見るところが他にいっぱいあるからまあいいか。(笑)
東京は、その意味では贅沢 (ゴーマン?) ですよね。
投稿: tak | 2008年12月 5日 11:03
>外国人に安心して怒れるノウハウ
これ、いいですね(笑)
もっとも、単にべらんめぇ調で怒鳴りつければいいんだと思いますけど。
「怒られている」ことは語調で伝わるだろうけど、言葉の細かいニュアンスまでは伝わらないから問題にはならないだろうし(それが伝わるような外国人は、そもそも真っ当に振る舞うでしょう)。
投稿: 山辺響 | 2008年12月 5日 11:37
山辺響 さん:
外国人に安心して怒れるノウハウ に関して、
>もっとも、単にべらんめぇ調で怒鳴りつければいいんだと思いますけど。
これ、大正解だと思います。
構えちゃうからいけない。
フツーの人間として接すればいいだけの話ですね。
投稿: tak | 2008年12月 5日 12:33
饅頭とか、サブレとか、最中が装備されれば、いっぱしの観光地ですよ。
岐阜県のおみやげ『しらさぎ物語』と、長野県のおみやげ『雷鳥の里』(製造地はナイショ)みたいに、『袋を破けば皆一緒』的なお菓子が登場するのでしょうか?
個人的には、築地名物“大漁旗”ふうペナント希望。
投稿: 乙痴庵 | 2008年12月 5日 13:01
乙痴庵 さん:
>饅頭とか、サブレとか、最中が装備されれば、いっぱしの観光地ですよ。
わはは (^o^)
魚市場に饅頭とか最中ですか。
干物せんべいとかも、欲しいかも。
ただ、こうしたお菓子をおみやげにするというのは、日本特有の現象じゃないかなあ。
西欧人は日本旅行のスーベニールとしては、扇子とか半被とか手ぬぐいとかが好きみたい。
この辺の事情は、前に書いたはず。
ああ、あったあった。こちら ↓ です。
https://tak-shonai.cocolog-nifty.com/crack/2007/11/post_5e29.html
投稿: tak | 2008年12月 5日 15:06
多くの地域において「村おこし」などと称し無理やり観光の目玉を作ろうとしていることを考えると、これは観光資源の無駄遣いじゃないですかね。
もともとは卸売市場であったとしても、観光資源として魅力的であることがわかってきたのだから、うまく活用するべく戦略的に考えれば良いのに。
とはいえ、豊洲に移転して出来る新市場は、当然観光を一つの柱にしていますが、個人的にはおそらくコマーシャルになり過ぎて逆に観光価値が薄れる可能性が高いと懸念しています。築地は「見せ物」と「生活の場」のちょうどいいバランスがあり、だから観光客にとって価値のある場所になっているのだと思います。東京都には、その辺のマーケティング的なセンスを期待します。
また、観光客が「お金を落とさない」というのは近視眼的すぎると思います。私は自分で魚を釣って食べてるくらいなのでもともと魚が好きなのですが、それほどでもない人でも、場内の各卸売り店を見て回れば関心がわくことは間違いないと思います。その場で買わないにしても、何らかの形で、家で魚を捌いて食べるという文化の維持に貢献するのではないでしょうか。私は近所に住んでいるので時々魚を買いに行きますが、見ているだけでもおもしろいです。業者にとっても、午前中の早い時間に売れなかった魚はよりマージンの低いルートに流さざるを得ないので、素人への小売も歓迎のところが多いです。ちなみに、築地の近くの月島あたりのスーパーには、普通のスーパーにはないような魚が結構流れてくるので、これもおもしろいです。
漁業界は、消費者の魚離れを嘆くだけでなく、もっと戦略的にマーケティングを考える必要があると思います(ちょっと青年の主張みたい?)。
投稿: きっしー | 2008年12月 5日 15:13
きっしー さん:
コメントすべてに関して同感です。
確かに豊洲の新市場も、ある程度の雑然さを維持してくれないとつまらんですね。
きれいな回廊やゴンドラから下を眺めるみたいなのでは、ちょっと興醒めかも。
>漁業界は、消費者の魚離れを嘆くだけでなく、もっと戦略的にマーケティングを考える必要があると思います(ちょっと青年の主張みたい?)。
団塊の世代が年とると、肉は脂っこすぎて自然に魚に回帰するんじゃないかと、私は見てるんですが、楽観的すぎるでしょうかね。
投稿: tak | 2008年12月 5日 17:06
今や、世界中の観光地とか大都市の市場というのは、避けられない観光コースです。これはつい10数年くらい前からの事だと思われますが、それ以前は料理に興味のある人、食べるのが好きな人などが時間を作って行く程度だったのですが、ヨーロッパの市場でも今は入る人の割には買わない観光客の市場巡りは迷惑顔で見られていますが、と同時にこれを機会にと市場内の店がスーベニール・ショップ化してもいます。その点では築地のたべもの屋さんは、市場に近接しているから良い客筋を掴んでいるところもある事でしょうね。困ったものですね、はっきりとその為のルールを決めれば済む事のように考えられますが。
投稿: jeienne | 2008年12月 6日 21:41
jeienne さん:
大都市の卸売市場が観光地化するのが避けられないトレンドであるならば、きちんと対応する方が賢いという指摘は、もっともなことだと思います。
投稿: tak | 2008年12月 7日 02:01